最後の日常
戦いは目の前に迫っている。終焉の魂はすぐにでも凛を倒さなければどんどん成長していく・・・
しばらく呆然としていた治である。
『残された時間はあと三か月よ!』
頭の中で凛が吐き捨てていったセリフが繰り返される。
「・・・どーしよ。」
『どうにもならん。』
いきなり頭の中で声がする。アースだった。
『何か手はないのか?』
『殺すしかないだろうな・・・・統治者を、しかも終焉の魂というのは厄介でな。おそらく一か月もしないうちに自我に目覚める。その前にあの女もろとも消し去るしか・・・方法はない。』
『・・・香奈ちゃん・・・は?』
『諦めろ。だいたい今回の事もお前自身の心の弱さが招いた事だ。あの娘も同じ。心の弱さゆえに『凛』に自分自身を乗っ取られてしまった・・・・』
『・・・もう、いい。聞きたくない。』
『治・・・』
治はそれからアースからの呼び掛けには応じなかった。
「あらましから言うと・・・・だいたいこんなところなんだけど・・・申し訳ない。」
治は階堂の元に行き、今回の香奈と凛の事、そして終焉の魂の誕生を説明した。
「私に誤って何になるんです。あなた・・・救世主なんでしょ?しっかりして下さい!」
「・・・判ってる。」
しばらく黙って話を聞いていた優斗だったが、素朴な疑問を治にぶつける。
「柴田さんは・・・どうして香奈さんと・・・その・・・キス・・・したんですか?恋人がいるんでしょ?」
「・・・・・そこのところは・・・まあ・・・説明が難しいんだけど、俺がだらしない性格だって事だ・・・」
「・・・ふーん・・・やっぱりよく判りません。」
「・・・だよね。判らないよね・・・」
「とにかく・・・その終焉の魂を消し去るには統治者を倒す(消し去る)しかないと、神は言ってるんでしょ?」
「ああ、そうらしい。」
「・・・・判りますよ。統治者の居場所。どうします?すぐに挑みますか?」
「・・・・二三日、時間をくれないか。気持の整理をしたいんだが。」
「・・・・そうでしょうね。判りました。でも、相手になにか動きがあった場合はすぐに連絡しますから・・・そのつもりで準備していて下さいね!」
「・・・・ああ。」
それからの二日間、いつも以上に《普通》に過ごす治だった。いつもと違うと言えば、玲子との時間を大切にして、食事や買い物、自宅でも極力二人で過ごした。
「・・・なんか隠し事とかない?」
「え?!なんで?」
「だって・・・こないだ熱出して会社休んでから、なんか変!妙にやさしいし・・・」
「いつも優しいだろ!?」
「うん・・・そうだけど・・・やっぱり変。・・・まさか浮気とかしてないわよね!!」
「な!!・・・そんな訳ないじゃん!!俺は玲子さえそばにいてくれたら、何にもいらないよ。」
「本当?♪」
「本当!!♪」
「・・・なら・・・いいわ!でも、いつか話してね。」
「・・・何を?」
「全部。あなたの事は全部知っておきたいの。」
「・・・全部知ってるでしょ?」
「・・・判らない。とにかく!!いつか話して!」
「俺もわからないけど・・・いいや。約束する。」
「ありがとう。」
その晩も、いつものように玲子と愛の確認行為にたっぷりと二時間程かけ、玲子を眠らせた後、治は静かに部屋を出た。
外は月明かりがやけに明るく、まるで日中のようにすべてが見える気がする夜だった。
治はあらかじめ指定されていたかのように、近くのマンション建設予定地へ向かった。
「待っていたぞ!!イレギュラー。」
そこには高倉が待ち受けていた。
高倉が接触してきた。目的はなんなのか?
・・・あまり喜ばしい理由でない事は確かなようである。