香奈との別れ
統治者である凛はなんと香奈の別人格だった。
味方が減り、これからどう戦っていけばいいのだろうか?
「じゃあ、いってくるわね!ちゃんと寝ててね!判った?」
少し怖い顔の玲子が治の額に手を乗せて熱の下がり具合をみていたが・・・
「・・・やっぱり、今日は寝てないとだめね。おやすみ。」
「ああ、おやすみ。ごめんな急に休んだりして・・・」
「いいわよ。別に今日じゃないといけない仕事もないし。じゃね♪」
「いってらっしゃい。」
昨日の戦闘で左腕を失い、成長加速で無理やり生やしたのが災いしてか、朝起きた治はひどく疲れていて、39度の高熱を出していた。
(しかも・・・おとなしく寝た訳でもなく・・・)
何度か目を覚ましはしたが、結局起き上ったのは、もう12時を過ぎてからだった。
テレビをつけてボーっとしていた治を頭痛が襲う・・・・『キーン・キーン・・』
能力者が近づいてきた合図である。階堂や優斗は自宅を知らないので訪ねてくる訳がない。
・・・とすれば・・・
治は油断せずに玄関に向かっていく。
『ピンポーン』
『ピンポーン』
なんともまの抜けた呼び出しチャイムが繰り返される。仕方がないのでインターフォンで確認する。
「はい・・・どなたですか?」
「あたしです。・・・香奈です。」
「香奈ちゃん?!本当に香奈ちゃんかい?」
「はい!時間が無いんです。すぐに話したい事があるんですけど・・・」
声は確かに香奈のようである。しかし・・・
香奈は凛という統治者に身も心も取り込まれてしまった筈。凛が芝居をしている可能性も捨てられない。
「・・・香奈ちゃん・・・悪いけど簡単に信用できないよ。」
「・・・そうですよね・・・でも!あたしは香奈なんです。もう自分の意思で喋る事が出来る時間があまりないんです。どうか信じて下さい。」
そう言われると無碍にもできず、治はドアののぞき穴から様子を窺がう。
見た目は確かに香奈に見える。来ている服が大人っぽく、少し大き目に見えるのは、凛が着ていた服のままだろうとも思えるが・・・
しかし・・・何故ここがわかったのだろうか?その点が一番疑わしい。
「どうしてここが判ったんだい?教えた覚えはないんだけど・・・」
「・・・そ、それは・・・」
「やっぱり会う事はできないよ!帰ってくれ。」
「まって!待って下さい!・・・いいます。あたし・・・治さんの事いろいろ知りたくて、後を何度か後を尾けたんです。・・・ごめんなさい。」
「・・・なんでまた・・・そんな事を・・・」
「すみません。最初に会った時の女性と本当に付き合ってるのか・・・とか、いろいろ・・・」
「・・・・そ、それ。最初って・・・あの時香奈ちゃん、俺の事なんて言ったか覚えてる?」
「・・・え〜・・・それを言うんですか?」
「いいから!なんて言ったか、言ってみて。」
「・・・・変態・・・だったと思います。」
治はこの会話で相手が香奈だと確信を持った。あの時の事は階堂はおろか、香奈しかしらない筈である。
「判った!じゃあ外で会おう。駅前にスタバがあるけど・・・判る?」
「・・・はい。」
「じゃあそこで。」
「あの・・・本当に時間がないんです。すぐに来てもらえますか?」
「判った。着替えてすぐに出るから・・・10分後で。」
「判りました。待ってます。」
治は慌てて着替えたが、時間がないと言っていた香奈が気になり、加速してスタバに向った。
途中で会えたら加速を解こうと思っていた治だったが、行けども行けども香奈の姿はない。
結局スタバに到着してしまうと、同じく加速中の香奈の姿があった。
「治さんは、きっと加速して来てくれると思ってました。」
「うん。なんだか急いでたみたいだったから・・・」
「もう時間がないんです。次にあたしが凛に変わってしまったら・・・多分・・・」
「なにか方法はないのかい?俺にできる事があるなら言ってくれよ。」
香奈は悲しげに笑い・・
「やっぱりやさしいですね。治さん。なら・・・お願いがあります。」
「なに?」
そう聞き返す治に、香奈は顔を真赤にして恥じらいながらこう言った。
「・・・・あ、あたし!治さんの事が好きです。もちろん今更どうにかなれるなんて思ってません。でも・・・でも・・・自分が消えてなくなる前に・・・思い出が欲しいんです。」
一気にまくしたてるように香奈は言う。
「・・・・思い出・・・?」
「・・・・・キ・ス・・・して下さい。」
「・・・え?・・ええーっ?!!」
驚いた治だが、見上げる潤んだ瞳の美少女に抗えるわけもなく・・・・
「じゃ、じゃあ・・・・」
香奈をそおーっと抱きしめ軽く唇が触れるキスをする。
しかし香奈は眼を開けて
「嫌!!そんなんじゃなくて!あたし子供じゃありません!」
そういって抱きしめ返す香奈は激しく治の唇にむさぼりついた。息もできぬまま、結局かなりハードなディープキスを交わして・・・・香奈は治から離れた。
「ありがとうございました。これで・・・もう・・・・う、ううっ!!」
香奈は自分の両肩を抱きしめるようにうずくまる。
「だ、大丈夫かい?!」
心配する治の声に頭を激しく振り、
「に・・に・げ・・・逃げて!!」
そう叫んだ香奈から紅い光が発し始めた。おそらく凛と入れ替わるのだろう・・・
このまま逃げてもあまり意味がない。治はいつでも戦えるように心を落ち着ける。
見る間に髪の毛や瞳
が紅く輝きだし、身体も一回り大きく変化していった。
・・・・・もう香奈ではない。
「おや?・・・誰かと思ったらイレギュラーじゃない?・・・あら、くっついたのね・・・左腕・・・便利な体してるわねー・・・いじめがいがある男!うふふ♪」
挑発に乗らずに、治はただ黙って凛の挙動を観察する。動きがあれば、すぐに限定解除して攻撃しなければならない。
「・・・・ふん!あんたのその能力、あたしにも効くなんて思ってないでしょうね?」
「・・・・」
「まあいいわ!・・・あら?・・・・・あんた・・・うふふ。香奈となんかしたでしょ?」
「・・・なんだ!何を言ってる。」
「ごまかしても無理よ・・・あたしの身体でもあるんだから・・・・手間が省けちゃった。」
「なに?」
「・・・・いい事教えてあげる。終焉の魂って・・・知ってるわよね?」
「ああ。」
「・・・・あれは統治者であるあたしと、イレギュラー(規格外)のあんたとが力を合わせれば産まれるって事ぐらいはしってるのよね?」
「そんな事は絶対にないがな!!」
「ばかねぇ・・・・もうあたし身ごもってるわよ。終焉のた・ま・し・い・!」
「・・・・何をバカな事を・・・」
「詳しく教えてあげる。あんたとあたしの体液が混ざり合えばいいのよ。・・・だから、同性どうしなら血液を混ぜてもいいし・・・男女なら・・・そう。セックスすればいいわ!唾液の交換でも可能よ・・・うふふふ。どれかに覚えがあるでしょ?どう?イレギュラー!」
「・・・なっ!・・・・」
愕然とする治である。凛のほうは、治が動揺しているあいだがチャンスである。その隙に風を纏い・・・・空に飛び上った。
「これでこの世界はおしまいね!!あっはははは!!残された時間は3ヵ月よ!!」
まあ・・・・もし治が冷静でいられても、限定解除して凛を(香奈ごと)葬る事はできなかったとは思うが・・・・・
世界の終わりに向って、タイマーを、こともあろうに治が作動させてしまった。
・・・・やっちまいました。治・・・・




