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凛と香奈

香奈とよく似た風貌を持つ凛から香奈の能力で攻撃を受け、腕を切り落とされてしまった治だが・・・

「凛・・・・あれは香奈ちゃんとは別人なのかい?」


治は話し始めた優斗に聞き返す。


「・・・・別人・・・ですが、体は共有しています。・・・二重人格だと思います。」


「!!!?」


驚く治は階堂に向き直る。


「・・・私がさっき聞いた話は・・・信用出来うるものでした。」


階堂はそういうと目を閉じた。




「君たち・・・Allendsは、香奈ちゃんと『統治者』の関係を前から知っていたのかい?」


「高倉さんは・・・おそらく。僕がしったのは最近です。似ているな、とは思っていたのですが・・・体系も目の色も髪の毛の感じも全然ちがってたし・・・なにより雰囲気が全く違いましたから。」


そう。たしかに香奈と凛とではプロポーションがまず違った。香奈はスレンダーで華奢なボディーのいかにも高校生なのだが、凛は、あふれんばかりに凹凸がはっきりした、見た目だけでいえば『極上』の女だった。どちらかといえばサラサラで黒髪の香奈に対し、凛はボリュームのある瞳と同じ燃えるような紅。おそらく身長も10センチ近く凛のほうが高かったように見えた。




優斗は子供の割に、簡潔にまとめてわかりやすく治に凛と香奈の関係を説明していった。

遡ること2年前、香奈は高校に進学してすぐに恋をした。それまで勉強一筋で、男性に興味など全くなかった香奈は、通学の電車で知り合った近くの高校生と仲良くなりだんだん惹かれていった、何となく付き合うようになり、彼の自宅で一通りの大人の階段を上ったらしい。

キスからセックスまで・・・・


しかし、ひと月もすると彼と連絡が取れなくなり、共通の知り合いなどに聞いてみたところ・・・


『あんなガキと本気で付き合う訳がない!俺と付き合いたかったらもっと色気のあるいい女になってから出直してこい』


などと友達などに触れまわっていたらしい・・・・


香奈は傷つき自宅に引きこもった。それが一週間たち二週間たち、友人や親が心配しても全く外に出なかったのに、ひと月程経過したある日、いきなり学校に行き出した。性格もプロポーションも変わり果てた姿で・・・・それが凛の誕生のきっかけだったのである。


すぐに香奈は本来の姿に戻ったが、何日に一度か、妖艶な姿で深夜の街に出かけて行き、いろんな場所で目撃されるようになる。噂を聞いた香奈の友人が街で香奈(この時は凛なのだが)に声をかけたときには、いろんな男たちが香奈を取り囲み、まるで女王のようにふるまっていたという・・・・あとから友人に聞かされた香奈は初めて自分が二重人格者になってしまった事を知る。


それからも主人格は香奈だが、ちょくちょく凛は香奈と入れ替わり表に出ていた。


香奈が救世主の一人として能力を授かり自分に自信を取り戻してからはあまり凛に体を明け渡す機会は減っていた。



・・・・・しかし・・・凛もまた能力を授かっていた。しかも『統治者』としての特殊な能力

を・・・・




「どうりでアースが探しても見つからない筈だ・・・香奈ちゃんの中に眠っていたんだから。」


溜息をついた治は何かの違和感を感じる・・・・




「優斗くん・・・・さっき、凛は風の力を使っていたよな?!」


「・・・はい・・・・多分、香奈さんを能力ごと吸収してしまったんじゃないかと思います。だから・・・・もう香奈さんは・・・・」


最悪のシナリオである。治たちは味方の能力ごと統治者にとられてしまった。


「・・・待ってくれ!優斗君はなぜ香奈ちゃんと闘っていたんだい?統治者と香奈ちゃんは身体を共有していたんだろ?香奈ちゃんになにかあれば、統治者もただでは済まない筈だ。」


「・・・僕は・・・香奈さんを倒したかったのではありません。『凛』を倒そうと思ってたんです。」


優斗はしっかりした言葉でそう言った。


「どうして?君は組織の中でもこの世の終わりを願っていた一人だったろ?」


「はい。そう思ってました。みんな人類に幻滅して、滅んだほうがいいと思って理想の社会を築くために集まっていました。・・・でも統治者は・・・『凛』は違ってました。」


「違った?!」


「はい。彼女と二人で話す機会があって・・・僕は理想の社会、楽園についてあの人がどう考えているのか聞いてみたんです。」


「・・・で?なんて答えたんだい?統治者は?」


「・・・・別に・・・・どうでもいい。・・・と」


「どうでもいい?そういったのか!」


「はい・・・・どうやら香奈さんが柴田さんの事をとても・・・好きらしくて・・・」


優斗がそういった時に階堂はうなづく。


「まあ・・・誰がみてもそれはそうでしょうね・・・」


「え?!・・・そうなの?」


驚いた治が声を立てる。


「・・・あなた・・・本当に周りに意識が向かない人ですね。あれは誰がどう見てもそうでしょう。香奈ちゃんがむくれるわけだ・・・」


優斗は溜息をつく階堂を横目に話を続ける。


「凛は・・・ただ香奈さんが嫌がる事がしたいだけみたいなんです。だから柴田さんがイレギュラーだと知ってからは、執拗に柴田さんを気にしていました。イレギュラーと統治者が力を合わせる事が出来れば、終焉の魂を生み出す事ができる。彼女はいつもそう言って僕たちに話をしていました。・・・・そして世界を滅ぼした後、気にいったら、柴田さんを傍に置いておくので、僕らには好きにしろ・・・と。それを聞いた時、僕は自分が間違っていたんじゃないかと思うようになりました。・・・で、申し訳ないんですが、凛と闘うより、香奈さんのほうが、僕が勝てる要素が大きいと思って、仕掛けました。でも、それがきっかけで、凛は香奈さんの能力まで使えるようになってしまった・・・・・すみません。」


それきり優斗は黙ってしまった。


「そういういきさつかぁ・・・・成程。」


治は素直に感想を口にした。


「・・・で、優斗君。君はこれからどうするつもりですか?数でいえば現状2対2、君はある意味、組織と我々の戦いのキーパーソンになってしまったようですが・・・」


階堂が穏やかに優斗に問いかける。


「ぼ・・く・・は・・・今は何も決められません。でも柴田さんや階堂さんの邪魔をするつもりはありません。」


それを聞いた治は


「それだけで十分さ!正直君とは戦いたくなかったから。よかったよ・・・」





優斗は狙われる可能性がある為、しばらく階堂があずかる事になった。治が自分の家に来いといったのだが・・・階堂に止められた。


「あなた・・・恋人と一緒にいるんでしょ?教育上よくありません。私が預かります。」



よく考えてみると・・・階堂の言うとおりである。治は苦笑いをするしかなかった。



帰り道に治はアースと話をした。


『・・・なるほど、話はだいたい判った。統治者の居場所は調べてみよう。・・・しかし・・』


『しかし・・・なんだよ?』


『人数では2対2だが・・・分が悪いな。風の能力は恐ろしく攻撃に特化した能力だからな。』


『・・・ああ、でもやらなきゃならないんだから・・・香奈ちゃんは・・・もう戻れないのかな?』


『近くでみないと俺にも判らん・・・あまり期待はしない事だ。』




その夜・・・・治が帰宅すると玲子はもうベッドに入っていた。起こさぬように風呂に入り、そっとベッドに潜り込むが・・・・眠れる訳がなかった。玲子は生まれたままの姿でベッドに寝ていたのだ。




階堂の預言の通り、教育上よくない行為を夜明けまでしてしまう治であった。










残った能力者の人数は5。そして能力は6である。

大きな戦いはそう遠くない・・・・

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