能力者の末路
いったいどちらが嘘をついているのか?
京極と階堂の話はまったく逆である。
「何だって?!」
この階堂という男が言っている事が本当ならば・・・・京極に俺も香奈も嵌められた事になる。
しかし、どちらの言い分を信じればよいのか治には判らなかった。
『おい!アース!聞こえてるか?』
『ああ、聞こえている。』
『どう思う?』
『さあな・・・しかし、この男はフィルターは掛けていないようだ。はっきりと闇の適正が感じ取れる。それをお前がどう判断するかだが・・・合理的に考えて、どちらが嘘をついている場合に困った事になるかと言えば・・・・やはり京極が嘘をついていた場合のほうが、デメリットは大きいのではないか?今、奴はどこにいる?お前の味方は安全なのか?』
『しまった!!』
考えてみれば、階堂は目の前にいて、もし敵だとしても対処できるが・・・京極は・・・
もしかすると香奈が危険にさらされているかもしれない。
治は一旦握りしめている階堂のそで口を解放して、まず香奈の携帯に連絡を入れてみた。コールはするが繋がらない。
「まただ」
はやる気持ちを抑えて、京極に連絡を入れてみた。
『はい・・・柴田さん?ですか?』
『ああ、別れたばかりで済まないが、香奈の事・・・知らないか?』
『香奈さん?・・・・いえ、僕もさっき別れてから見てませんけど?なにかあったんですか?』
『いや・・・・ところで・・・君はどこに住んでいるんだ?』
『家ですか?お教えしてもいいですけど・・・・いったい何です?変ですよ?』
『とりあえず今どこにいる?もう一度会いたいんだが・・・』
『・・・・判りました。じゃあ・・・・先ほどのスタバでいいですか?』
『判った。すぐに行く。』
電話を切り、現状把握をし直す。階堂に向き直り
「階堂さん?でしたね、一緒に来てもらえますか?」
「どこへ?ですか?」
「さっきの光の執行者・・・京極拓実という男がやはり、組織ではなくこちら側に付きたいと接触してきました。そしてその後あなたがやはり・・・・どちらが本当の事を言っているのか僕には判断しかねます。もう一人は今連絡が取れないようですし・・・3人で会ってはっきりさせたいと思っているんですが・・・」
「申し訳ないが・・・・それはお断りします。」
「しかし・・・」
「相手が悪すぎる・・・僕が絶対に勝てない能力は一つだけです。『光の執行者』が相手ならば、戦闘になった場合やられると解っていてそんな場所にのこのこいけません。まあ、あなたがイレギュラーとして特別な力があるって言うんであれば・・・そうはならないかもしれませんが・・・さっき手合わせした感じでは、あなたはただの無能力です。戦力になりません。」
「判りました。では・・・連絡とれるようにして、離れた場所で待機していてもらえませんか?このままだと・・・・風使いの彼女、香奈ちゃんが危険なんです。」
「・・・・仕方ありませんね、その条件でよいなら・・・」
「ありがとう。」
人柄でいえば、こちらの方が割合まともで言ってる事も信用できる気がする・・・・が、本当のところはまだ判断できない治だった。
スタバに入った治だが・・・・京極にの姿はどこにもない・・・5分ほど待ってから香奈に電話する、しかし繋がらない。それから京極に電話するが、やはり繋がらない。
結局20分程待ってから階堂に電話する。
『来ません・・・やはり彼が・・・』
『そうですか・・・風使いの彼女にも連絡は付かないのですか?』
『はい・・・とりあえず引き上げます。そのまま待っていて貰えますか?まだ話したい事がいくつかありますから。』
『判りました。』
電話を切った刹那・・・えたいの知れない胸騒ぎがした。すぐに加速して店外へでた。
「よう・・・会いたかったぜ♪・・・イレギュラー!」
あいさつ代わりなのかいきなり氷の槍が2本治に向かって飛んでくる。
すかさず手でたたき落とし、まわりを見渡すと・・・・・あった。不動産の木製の立て看板が目に付いた。すばやくステップして後続の槍を交わした後、看板を両手で持ち、接続部分を力任せに捻じり切る。即席の楯兼武器が出来た。
「相変わらずちょこまかと・・・弱いなら弱いなりに・・・・さっさと殺られろよ!」
そういいながら次々と槍を打ちこんでくる。治は左手の楯で槍をはたき落としながら、一気に間合いを詰めていく。
新たに氷の形成をしている山下の首めがけて思いっきり看板(今は武器)を振り抜く!
パキーン!!
手ごたえがおかしい?みれば振り抜けなかった看板は氷の板のような物に突き刺さっている。
引き抜こうとすると・・・・見る間に看板自体が氷漬けになり、治の右手にまで上ってきていた。すんでのところで右手を離して難を逃れた。
「惜しい!!もうちょっとでイレギュラーシャーベットの出来上がりだったのによお・・・」
にやにやしながら山下は楯に使った氷を後方に投げ捨て、右手の槍を投げつけてくる。
パッシーン!!パシーン!
槍をはたき落とし、間合いを詰めるという単純な戦いが続く。
「ああ、もうめんどくせー・・・生かしとけってウルセーから手加減してるって解ってるかい?おっさん!!」
そう言うと、山下は槍の生成を止め、両手を前に突きだした。
いきなり目の前から風・・・いや雪が突風とともに治を直撃する。苦しくて一瞬目を閉じてしまう。
「うぐっ!!なんだ?何した?!おっさん!お前にこんな能力があるなんて聞いてないぞ!」
山下の声がすぐ目の前で聞こえた。目を開けると・・・・大きな氷の槍を持った山下が振りかぶって今にも治を貫こうとしている瞬間である。・・・・・しかしなにか様子がおかしい。
山下は泣き笑いのような顔でそのまま止まっているのである。
「危険ですから・・・このまま殺しますね。」
どこからか階堂の声が聞こえた。見る間に山下が苦しみ出す。
「ウグッ・・・グへッ・・・ウッ!!・・・・」
どんどん顔が赤くなり、それが紫色に・・・・チアノーゼの様である。山下が口を開けて舌が出てきた瞬間に・・・・・山下の影の部分から、階堂がいきなり現れて、入れ替わりに山下はバタリと倒れた。
「殺した?!・・・・のか?」
「はい。まさか殺さないでほしかった!なんていいませんよね?あなた後1秒で殺されてましたよ?」
「たしかに・・・・そうだけど・・・」
「とにかく・・・これで、嘘をついたのがどちらか?解っていただけましたね?」
「・・・・?」
「だって・・・ここで待ち合わせしてた人が来なくて、組織から刺客が来たんですよ?そう考えるのがもっとも合理的だと思いますけど・・・」
「・・・ああ、そう言われればそうだな。」
その時、目の前の山下の身体に異変が起きた。一瞬激しく光ったあと・・・それはそのまま氷の塊に変化した。
「・・・これ、は?」
「ああ、能力者は死んだら、適正にそった形に変化します。決して人間のまま死ねません。おそらく、加速を解除すれば・・・跡形もなくなるでしょう。」
二人で加速を解除して、お互いの連絡先を教え合う。
その時、治の携帯が鳴った。
『いやいや・・・・まさか山下がこんなにあっさりやられるとは思いませんでした。柴田さん・・・以外とお強いんですね・・・・・』
京極からであった。
どうやら・・・・組織の手さきは京極のようだが・・・それにしても香奈の身は無事なのだろうか?