味方?
新たなる能力者との出会い・・・・さてどんな能力なのか?
何事もなく平凡な(いやどちらかといえば幸せな)毎日を過ごしている治に、香奈からメールが来たのは四人目の能力者、優斗と会ってから1週間が過ぎたころだった。
『例の人(Allends)に入っていない一人から接触がありました。一人で会うのは怖いので、治さんも一緒に会ってもらえないですか?』
女子高生らしからぬ完結な文章に、少々がっかりしつつも(絵文字やギャル文字などがあるんじゃないかと・・・・期待していた治である。)
『お前・・・・いったい何を期待していたんだ?』
『いちいち考えた事に反応するなよ!プライバシーの侵害だぞ!』
『それは申し訳なかった・・・・ところで会うつもりか?』
『だって・・・味方になって貰わないと・・・抵抗できねーじゃねーか!?』
『敵の罠かもしれないという想像はしているのか?』
『虎穴に入らずんば虎児を得ずってね・・・会うだけ会ってみるよ』
『そうか・・・相手と会う直前に私を呼べ、相手の適正だけは確認してやる。』
『判った。』
待ち合わせは街中のスタバにして貰った。何かしらの罠だった場合、人ごみの中の方がこちらに有利だと考えたからだ。香奈が授業を終え、電車で二駅の治の会社の傍に場所を指定。
今回、庶務課次長の玲子は課長と名古屋に出張で、帰りは遅いらしい。前回の轍を踏むわけにはいかないので慎重にいかねばならない。
待ち合わせのスターバックスに行くと、香奈は誰かと同席している。若い男性のようだ。
かなり親しげに話しこみ、時折、笑みさえ浮かべて話し込んでいる。もしボーイフレンドの類ならば、治のようないかにもサラリーマンが、うら若い女子高生になれなれしく話しかけると、どんな関係の間柄なのか詮索されないとも限らない、傍目で見る限り、相手の男は10代後半もしくは20才くらいだろうか、香奈がだらしない顔をするのが解る程、整った綺麗な顔をした若者だった。・・・・・治はしばらく様子を伺う事にして、近くの席にコーヒーを持って座った。角度的には、香奈から見やすい位置なので、来店している事さえ伝われば問題ないだろう。そう思った。
しかし30分経過しても話が終わるそぶりもない。このままでは時間の無駄になるのではないかと、治は心配して・・・・メールを打つ。しかし・・・・話に夢中でメールにも気付かない様子。
さらにしばらくしてから、相手の男が席をたった。どうやらトイレのようだ。その時になって、やっと香奈がやっと治に気づいた。
『あ、そうだ・・・アースをよばなきゃ!!』
『もう来ている。』
『良かった・・・忘れてた。』
『あの連れの男だが・・・・能力者なのは間違いないのだが・・・』
『なんだよ?なんかあるのか?』
『適正も何もわからん。なにも見えない。どうやら察知されるのを嫌って、フィルターのような物を掛けているらしい・・・』
『・・・て、ことは・・・・』
『うん・・・・・組織が仕掛けた罠の可能性は否定できんだろうな・・・』
香奈が近寄り声をかける
「いつからいたんですか?声を掛けてくれたら良かったのに・・・」
「ごめん・・・・実はボーイフレンド!なんてオチだと声掛けない方がいいかな?って思ってさ!」
「なに言ってるんですか!もう・・・・嫌だなぁ、そんな事ある訳ないじゃないですか!」
頬を赤く染め治の背中をバシンッと叩く香奈である・・・・・・まんざらでもなかったらしい。
トイレから出てきたであろう、先ほどの若い男がこちらに気づきやってきた。
「あれ?・・・・・香奈ちゃん・・・・知り合いかい?」
「ええ、紹介しますね、こちらは柴田治さん・・・・なんと言うか・・・あの、さっき少し話した人で・・・」
「・・・・・ああ、あなたが『イレギュラー』ですか。始めまして、僕は京極拓実といいます。」
「はじめまして、柴田です。」
「なんだ・・・・香奈ちゃん・・・僕を疑ってたんだね?」
「いえ!・・・疑うとかじゃなくて、やっぱりどこまで信用していいのか判らなかったので、治さんに相談して、一緒に会って貰おうと思ったんです。」
「そうか・・・そうだよね、実は僕も店内に能力者が入ってきたから・・・もしかして嵌められたんじゃないかと・・・それでトイレにたったんだけどね。」
「なるほど・・・・それは確かに最もな心配だ。俺でもそうしたかもしれない。用心深いに越した事はないからね。」
治と京極の話がよく理解できなかったらしい香奈が聞き返す。
「あの・・・どういう事ですか?」
「ああ、俺が店内に入った時に京極君は能力者として察知していた。でも香奈ちゃんは、俺が来る事を伝えてなかったんだろ?」
「ええ、だって、言ったら来てくれないかもしれないから・・・」
「だからさ!もしかしたら、俺たちが組織が回した手先かも知れないって・・・彼は考えたんだよ。まあ、俺達も彼を根拠もなく信用してた訳じゃないから、おあいこって事でいいんじゃないかな?」
「ありがとうございます。ところで・・・香奈さんの特殊能力は聞きました。柴田さん、イレギュラーは特別な存在・・・隠された能力があると言われていますが・・・・伺ってもよろしいですか?それがどういうものなのか。」
「お言葉を返すようで申し訳ないんだが・・・・それはそちらが先だろう?」
「・・・・・そうですね。判りました。僕の能力は・・・・光です。」
「・・・・という具合に相手に向かって光のエネルギーを当てたり、仲間の傷を癒したり、ドラクエでいうところの僧侶って感じじゃないかと、自分では思っています。ちなみに、もちろん試した事はありませんが・・・・闇の属性を持つ能力者を倒す事ができるのは僕だけの筈です。」
「了解した。・・・で、聞きたい事がもう一つ・・・君、何か察知されないようにフィルターかなにかかけてるみたいだけど・・・・なんで?」
「へ〜・・・・そんな事までわかるんですか・・・さすがイレギュラー(規格外)だなぁ・・まあ、大した理由はありません。僕も組織に勧誘されて逃げちゃったんで、あとあと面倒ならばっくれちゃおうかなって、やってみたら出来たから、極力そう言う風に過ごしてます。」
返事が早すぎるきらいがあるし・・・・ノリが軽い。まあ性格によるものが大きいかもしれないが・・・
一息ついて、難しい顔をしている治に、京極は申し訳なさそうに尋ねる
「・・・・あの・・・・それで・・・柴田さんの隠された能力って・・・・」
「・・・え?ああ、そうだったね・・・申し上げにくいんだけど・・・じつは後はちょっと怪力で丈夫って事くらいしか思い当たらないんだよね・・・怪我もすぐに治っちゃうとか?」
「治っちゃうとか?・・・て・・・本当に他にはなにも出来ないんですか?おかしいなぁ・・・」
「おかしいって何が?」
「『Allends』のメンバー達は、香奈ちゃんも僕もだけど・・・柴田さんの動向を一番気にかけてる風だったんですよ。だから・・・よっぽど大局を左右するような能力があるもんだとばっかり・・・で、イレギュラーである柴田さんが組織を蹴った!って聞いて、それなら協力すれば何とかなるかもって・・・安易に僕も断っちゃったんですよねぇ・・・勝てますかね?」
京極はそれでも思いつめるような風でもなく淡々とそう言った。治にしても、まだリミッター解除については、香奈にすら話していない。これは切り札となるべきカードなのだ、簡単に信用して話してしまう訳にはいかなかった。
同じように、京極も、もしかしたら香奈も治には話していない能力を隠している可能性は高い。いや、何らかの切り札は絶対に持っている筈だ。だからこそ治も真実を話してしまう訳にはいかなかった。
お互い手の内を探りながらの心理戦、仲間同士でこれならば、敵との情報戦はどうなるのか?!




