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遊んでほしいねこ

 今日は雨。雨の日は好きだ。静かだし、雨音が心地いい。私は自分の部屋にこもり、おとなしくパソコンで文章を打っている。突然、当然のように目の前を猫が通って、パソコンのキーボードを踏みつけていく。めちゃくちゃな文字列が画面に並んだので、急いでデリートボタンで消去する。神楽(猫の名前だ)を睨み付けると、彼と目が合う。

(おかしいな、いつもは目を合わせるのを嫌がるのに)

彼の目を見つめているとぼーっとしてきて、私はその状態でしばらく動けずにいた。神楽が私から目をそらし、机を降りていったので私は解放された。くらっとめまいがしたが、しばらくすると落ち着いた。

 文章の続きを書く。「今日は雨」と書こうとしたが、パソコンの画面に表示されたのは、妙な記号。変なキーでも押したのだろう、とキーボードをいじるが、直らない。変だな、もしかしてパソコンが壊れたのか? 一旦パソコンを閉じ、スマホで直し方を調べる。おかしい。スマホの文字も、パソコンと同じように、奇妙な記号に変わっている。

 スマホを置く。コーヒーを淹れる。とにかく一旦落ち着こう。なぜこんな奇妙なことになっているのかわからないが、パソコンやスマホがなくたって、生きていけないことはない。大丈夫、大丈夫。そう自分に言い聞かせる。

 突然、家のチャイムが鳴る。来客だ。急いで玄関に向かう。

「はーい」

 玄関のドアを開けると、スーツを着た男が立っていた。

「&%$%&&&%$%&。&&&&%&%?」

 その男は奇妙な言葉を喋った。宇宙人が喋っているような言葉だ。私はこんな言葉は聞いたことがなかった。

 引きつった笑顔で首を横に振り、私はドアを閉めた。今の男はなんだったんだろう。もう帰ってくれただろうか。道路に面した窓のカーテンの隙間から覗いてみると、さっきの男が車に乗り込む所だった。車が発進して誰もいなくなる。

 私はホッと胸をなで下ろして、ソファに座り込む。なんだっていうんだ。今日は何かがおかしい。

 しばらくそうしていると、家の前の道路を近所の子供達が歩いているのだろう、その話し声が聞こえた。

「&&&&%&&%? &&&%$!」

 さっきの男と同じ言葉。私は気づいた。もしかして、周りがおかしいのではなく、私がおかしいのではないだろうか。

 私はしばらく今の状況がどうなっているのか考え続けたが、何もわからなかった。やがて考えることを諦め、コーヒーを飲んでいると、神楽が膝の上に乗ってゴロゴロと喉を鳴らし始めた。

(そうだ、こいつは言葉を話さない。どうも人間と意思の疎通をとることは難しそうだし、今日は一日神楽と遊んでいようか)

 嬉しそうににゃーと鳴く神楽。俺の考えてることがわかるのだろうか。

 その日は神楽と一日遊んで過ごした。こんなにたくさん彼と遊んだのはいつぶりだろう。子供の時以来かもしれない。思えばこいつも私もずいぶん歳をとった。何か愛おしい気持ちになって、神楽を撫でる。

 ゴーン、と居間の振り子時計が12時の鐘を告げる。

「もうこんな時間か、もう寝ようか、神楽」

 そういって神楽の方を振り向くと、じっと神楽が私を見つめている。私はまたぼーっとしてきて、しばらくその状態で固まっていた。しばらくすると神楽が目をそらし、何事もなかったかのように隣の部屋に消えていった。

 次の日。朝目覚めると、全てが元に戻っていた。パソコンの文字も、スマホの文字も、近所の小学生の言葉も。

 今回の事件が一体なんだったのか、一週間ほど経ってから考えてみたのだけれど、どうも神楽がきっかけのようだ。神楽と目を合わせてから、妙なことが起こり、また目を合わせてから元に戻った気がする。きっと神楽は私と遊びたかったのだろう。最近は全然構ってやれなくて、ずっとパソコンで仕事ばかりしていた。なぜ神楽に妙な力があるのかはわからないが、まあ、そんなことはどうでもいい。

 にゃー、と神楽がなく。今日も少し、遊んでやろう。

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