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一つの物語【断章】  作者: 世界の一つ
ある秋のパーティータイム
9/14

ある秋のパーティータイム・ミツキ編

やっと客足が減った……先程までごった返してたフロアが少しスッキリしている。

とは言っても行列はあまり減っていないが、部下達に声掛けをさせて正解だったようだ。


「隊長、お疲れ様でした!丁度いい時間ですし、あとは私たちにお任せ下さい!」


「ほら男性陣!気を抜かいでよ!」


「はぁ……人使いが荒いなぁ、女性陣は」


くたびれてる男性陣を見てると、女ってかなりタフなんだなと感じさせる。悪いな男性陣、僕はこれで失礼させてもらうぞ……と言っても、見回りも兼ねての自由行動だから厳密には休み時間ではないんだ。僻んだりしないでくれよ


「じゃあ、悪いがあとのことは任せたぞ。何かあったときはいつでも連絡しろ」


『了解しました!』


と、隊員達の敬礼と返答を確認した後、僕はフロアから出た……それと同時に聞きなれた声が近づき、やがて歩みを止めた


「お疲れ様リュウイチ!それにしてもかなりの行列ね、それも女の人ばっかり……!」


最後の方を強調しながら睨みつけてくるミツキ、事実ではあるが僕はさっきまで苦労してたんだぞ!


「その分だいぶ苦労したんだからプラマイゼロだ。それよりそっちの仕事は終わったのか?確か、ミツキたちの所は舞台劇だったよな」


「ええ、私はライト担当だったんだけど代わりの人と交代したのよ。だからこれから自由行動なんだけど……その……り、リュウイチも暇なら一緒に……その……見てまわらない?」


ミツキは頬を染めながら照れくさそうに視線を泳がせている、いつもは大胆な事してきたりするのに、言葉に出すとこんなに恥ずかしがるのは何故だろう……まあ良いか


「僕は完全な自由行動じゃなく、見回りも兼ねてるから半分仕事になるけど……それでも良いなら一緒に行くか?」


な、なんだか僕の方まで照れてしまう……!

僕がそう言うとミツキは嬉しそうに「うん!」と答え、満面の笑みを浮かべた。


「さあ、行きましょう!こんな大きなイベントは学生以来だからすごく楽しみにしてたの!リュウイチはどこか行きたいところある?」


「たこ焼きーー」

「たこ焼き以外で」


……


「じゃあ、飲み物でも買いに行くか?確か、三等粛正官ベースの食堂付近に、キドたちがやっている屋台があると言っていたはずだ」


「そうなの?それならとりあえずそこを目指しましょうか、その間に他の出店を見ながらね!」


なっ!?

ミツキがそう言い終えると、急に腕を組んできた。

本当にこいつは昔から恥ずかしがり屋なのか大胆なのか分からなくなる時がある。どっちが正解なんだろうな


「おい、近すぎるぞ」


「良いじゃない、人が多い中ではぐれたら面倒でしょう?」


「……SPDで連絡をーー」

「面倒でしょう??」


拒否権は無いという事か……はいはい……


「ただし!あまり強く組むなよ?今くらいの加減を維持しろ!」


「はいはい♡」


チッ……なんで僕が照れなきゃいけないんだよ!


「それにしても本当に人が沢山いるわね、あんなに広く感じたベースが今は嘘みたいに狭く感じるわ」


「各国からの隊員達が来るとさすがにこれくらいになるか、確かにはぐれたら面倒そうだな」


「私の判断は正しかったでしょ?」


「腕を組まなくても他に方法はあるだろう」


「どんな方法?」


「手を繋ぐとか、くっつきながら移動するとか……はぁ、腕組みで我慢してやる……」


観念した僕を見て、ミツキはクスクスと笑いだした。


本当に嬉しそうに笑いやがる、なんか負けた気分だな


「あ、確かこの階にサツキとアカリちゃん達がやってる組手会場があるって言ってたわよ。勝った人にはオリジナルトロフィーが貰えるんだって」


「サツキは分かるが何でアカリちゃんまでいるんだ?階級が違うだろ?」


ここは一等粛正官のベースだ、三等粛正官のアカリちゃんがなぜこんな所に?


「なんでもアカリちゃんたちのいる部隊の部隊長が、サツキたちの考案した企画を聞いて合同イベントにしませんか?って申し出があったみたいよ」


サツキも大分顔が広いからな……と言うか、組手とは暑苦しい


「私もサツキたちに誘われたんだけど、こっちは既に舞台劇をするって決まってたから丁重にお断りしたの……そもそも私は格闘より剣術派だしね……あとで行ってみる?」


「どんな感じでやってるか興味はあるが、行ったら行ったで面倒なことになりそうな気がするから止めておく」


「そう言うと思った、リュウイチも格闘より剣術の方が得意って昔から言ってたしね」


そういう事だ。

誰かに見つかる前にさっさとここから退散しておこう。僕はミツキを連れて足早にその場から立ち去った。


「ち、ちょっと、そんなに急がなくても……!」


「組手に限った事じゃない、お前とこうしている場面を特定のやつに見つかったりでもしたら、かなりやかましい事になりそうだからな」


「私は構わないんだけど……」


「僕が困るんだ」


僕の即答にミツキはムッとした表情で僕を威圧したが、それに構わず僕は移動し続け、何とか騒ぎにならずに三等粛正官ベースに到着できた。


「ここまで来たら大丈夫だろう」


「それでもチラ見してくる人がいるけど……まあ、それくらいは許容範囲かしらね」


確かにな、ちょくちょく視線を感じるが変装でもしないとこのチクチクとした視線の針は避けられそうもない。


「だな……さて、キドの出店は……」


「あ、リュウイチあそこみたいよ」


「ん?あぁっ!!兄貴じゃないっすか!!お勤めご苦労様です!!」


「兄貴と呼ぶな……キドもそれなりに奮闘しているみたいじゃないか、ご苦労だな」


僕は軽く辺りを見回し、多くの人々が行き交いしている様子を見て、キドに労いの言葉を口にしてやった


「あ、ありがとうございます!兄貴!!……もしかしてお客として来てくれたんすか?」


「そうよ、リュウイチからここでキドくんが屋台を出してるって聞いて来てみたの……へぇ、結構品揃えが豊かなのね」


確かにミツキの言う通り、一瞬どれにしようか迷えるくらいの結構なレパートリーだ。

しかし僕はある品を見て、すぐにそれと決めることになる。


「ラムネか、懐かしいな」


「本当に懐かしいわね!六年くらい前に、一緒に夏祭りに行った時以来よね?」


「ああ、そうだな。じゃあこれにするか……最後尾はあそこだな」


「並ばなくても良いっすよ兄貴、兄貴たちは特別待遇ですから!」


僕が最後尾に並ぼうとするとキドが満面の笑みでそう気遣いをしてくれた……だが


「それはありがたい事だが、それでは他の客に失礼だ。こういう時だからこそ、皆んな平等に接する事が大切だと僕は思う。だから気持ちだけは受け取っておく……さあ、並ぶぞミツキ」


ミツキは「ええ」と言ってどこか嬉しそうな微笑みをしながら僕についてきた。キドはと言うと


「くぅぅぅ!!さすが兄貴!やっぱ兄貴は他とは別格の粋なお方ですね!!了解っス、少しばかりお待ち下せぇ!!」


「兄貴と呼ぶな」


僕はそう短く返答し、ミツキと共に最後尾に並んだ。


他にもキドの出店みたいに飲み物が販売されたいる所はあるみたいだが、なぜかここはそれなりの人が並んでいる。


「ここの品揃えが良いからかしら?結構混んでるわね」


「僕も似たような事を考えていた。品揃えもだが、呼び込みの隊員がいるからかもしれないな、他は屋台の中からしか呼び込んでいないみたいだぞ」


それによく見ると屋台の屋根もなかなかの目を引くデザインをしている……いや少し褒めすぎだな。キドたちの屋台は飲み物を美味そうに飲んでいる人物と華やかな背景をしている


「……あら?今気づいたんだけど、キド君たちの屋台の屋根に描かれてる人ってリュウイチに似てない?」


「……そうか?僕はあんな爽やかな雰囲気を出してるつもりはないぞ、カイじゃあるまいし僕をモデルにしているはずがない」


「じゃあ後で訊いてみましょう。ほら、ちょうど他のお客さんもいなくなったし……キド君、ラムネ2本ね。それとこの屋根のデザインだけど、リュウイチをモデルにしたの?」


単刀直入だな……


「流石ミツキ先輩!あんたの言う通り、これは兄貴をモデルに描いたんすよ!」


……


「キド……ラムネの代金をタダにして後でたこ焼きを買ってこい……分かったな?」


「は、はい……申し訳ございませんでした!」


肖像権違反だ、僕は一言もこんなことを承知した覚えはないぞ!


「すんません……屋根のデザインで一番インパクトがあって尚且つ人の目を引き寄せるようなものと考えたら兄貴しか思い浮かばなくて……!」


「あはは!後のことを考えた方が良いわよ、特にリュウイチに関してはね」


たく、人を呼び込みのネタにするとは、けしからんやつだ


「今回はおおめにみてやる、次回も似たようなことをしたらただじゃおかんぞ」


「き、肝に銘じます!!」


やれやれ……


「キド君、気を付けてね……さあリュウイチ、他も周りに行きましょう!」


「はいはい……じゃあまた後でな……って、引っ張るなって!おい!」


「お二人とも!良いデートをお楽しみくだせえ!!」


デートじゃない!


ーー


ーー


三等粛清官ベースから移動してきた僕たちは、二等粛正官ベースに行き、特務執政官のハクとコラボしたユキタカやトモカちゃんたちの合唱会、一等粛正官ベースでキラたちの射的屋、自分のフロアに戻り、カイとレイたちが作ったチーズケーキを堪能した。



ーーそして数時間後……



さて、次はどこに行こうか……


「そ、そう言えば、18時に第1ホールでダンスパーティーがあるんですって、知ってた?」


「ああ、広告の最後の方に書いてあったやつだろ?それがどうした?」


「も、もし良かったら……わ、私と踊ってくれない……?」


ミツキはモジモジしながら僕をチラチラと見ている……ダンスか、特定の人とそんな事をするのはどうなんだろうな……


「ヘヴンに入って何度か訓練上で習った事はあるが、実際にダンスなんてした事ないぞ。それにかなり昔の事だし……」


「それでも良いの!リュウイチと少し踊れるだけでもいい……だから!……だから……ダメかな……?」


……


「……」


「リュウイチ……?」


昔、ヒメカがそう言っていたな。他人と過ごす事は自分や相手が進化する過程だと……僕も進化するべきなんだろうか……?


進化への過程か……


「……そのお誘い、謹んでお受けする……僕と踊ってくれるか? ミツキ。」


ミツキは何が何だか分からないと言った感じでキョトンとしていたが、すぐに頬を赤らめて狼狽し始めた。


「えっえ?!本当に!?本当の本当に!??」


「な、何度も言わせるな!……今日だけだぞ」


「うん!それでも嬉しい!あぁ良かった……断られる事を覚悟してたから凄い嬉しい!!やったー!!」


子供みたいにはしゃぐな……僕まで恥ずかしくなるだろう!

でも、こういうミツキを見るのは久しぶりだな。昔ミツキの誕生日にあのチョーカーをプレゼントした時以来かもしれない。


「ね、ねえ、リュウイチ……私ダンス用に着替えてくるから、第一ホールの前で待ち合わせで良いかしら?」


「ああ、分かった。あまり待たせるなよ」


「はいはい!じゃあ、また後でね♡」


……ダンスか、あの日から二千年近く経つがまさか本当に踊る日が来るとはな、しかも任務外で……


まあ、たまには良いか


ーー


ーー


ーー




ーー数分後、第1ホール前ーー




思っていたよりだいぶ人が多いな、ほとんどのやつらはダンスに参加するやつらだろう。服装で分かる。

開会式は正装で、出店に参加する者たちはわざわざ着替えている者が多かったな……そう考えると、かなり変わったパーティーだな


……ん? んん!?


「お、お待たせ……リュウイチ……ど、どうかな?」


ど、どうかなってそのドレス……!


「……胸元開けすぎだろう……」


「ど、どこ見てるのよ!!開口一番がそれ!?……ま、まあ、良いけど……」


反則だろう、そのドレス……けど確かにこういうドレスはミツキみたいにスタイルが良くないと似合わないだろう……着る人を選ぶとはまさにこのことだな


「……ま、まあ……結構似合ってるぞ」


「本当に……?」


「嘘だったら率直に言ってるさ、お前ならよく分かるだろう? ……もう少し言い方を変えたら……その……綺麗だ」


「あ、ありがとう……」


……見慣れてる筈の姿なのに見慣れていない姿……まさかこんなに様変わりするとはな、女はやはり凄い。


「さ、さあ、ホールに行こう!もうそろそろ始まるからな」


「そ、そうね!行きましょうか……」


僕は一応作法に従ってミツキに手を差し伸べた。

ミツキは一瞬モジモジしたがすぐにその手を乗せてきたので、なるべく強く握らないように手を取りホールへ入る


いつものホールとは全く雰囲気が違っており、凄まじく華やかに装飾されていた。

確かにダンスパーティーと言うには十分な空間だ


「すごい……こんなに素敵に飾り付けされててまるで別世界に来たみたい……」


「そうだな……こんなに装飾されて、後が大変そうだ」


「もう、またそんな事言って……でも、リュウイチらしい……少し安心した」


「あん?それは僕に対する批判か?」


ミツキはクスクスと笑い、やがてその綺麗な瞳で僕を見つめた。


「ううん、やっぱりあなたといるとすごく落ち着くなって事……好きになって良かった……」


……フン


「こんな素敵な場所でこんなに素敵な人と手を繋いで……今すごく幸せなの……今なら目を見て言える……あなたを愛してるって……」


「……その言葉、ちゃんと結ばれてから言えよ。僕はまだ……」


「分かってるわよ、そんな事……でもこんなに幸せなんだもん、今日くらいは許して」


「……はいはい……と、そろそろ始まるみたいだな……ミツキ、僕と踊ってくれるか?」


「はい……喜んで……!」











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