ある秋のパーティータイム
ーーとある秋の日、ホーリーヘヴン・執務室ーー
「なになに?"10月15日はヘヴンズパーティー!全国のホーリーヘヴン支部を含め、全戦士たちのひと時の安らぎを満喫しよう!主催者マスター"……へぇ!面白そうじゃん!もちろん、りゅうくんも参加するんだよねぇ!?」
「マスターに不参加願いを出したんだが、全部隊でパーティーの催し物を決めないといけないらしく、絶対参加だと言い返されてしまったよ」
「はは!あの時のリュウイチの愕然とした表情が今でも忘れられないよ、未だに落ち込んでるみたいだしな」
カイが満面の笑でふざけた事を言ったので、僕は軽く睨みつけると、カイは「わるいわるい」と謝罪した。謝るくらいなら最初からほざくな!
「それじゃあ、私達の部隊も何をするか話し合う必要があるって事ね……ふふ、何だか学生時代に戻ったみたいだわ」
「そういう事だ……だからしばらくは皆んなここへは来ないで各部隊でじっくり話し合えよ。僕は特務執政官代表として、特務執政官の全部隊の出し物を纏めて、マスターに提出しないといけないから忙しくなるだろうな……レイ、カイ、お前たちにもちゃんと仕事をしてもらうから覚悟しておけ」
「はい、勿論です!僕はこういうの結構好きなので腕がなります!☆」
楽しそうに言いやがって、いっそうのこと僕の仕事を押し付けてやりたいくなる様な良い笑顔だ。
「了解っ!しっかり仕事させてもらうぜ」
「はぁ……憂鬱。兄さんと過ごす時間が短くなるなんて……生き地獄だわ」
「そうですね、生活リズムが崩れてしまいそうで少し心配です」
おいおい、キラ。ここへ来る事を生活リズムの一環にするな。ユマリもここに依存するんじゃない、お前らにとっての僕の執務室は憩いの場なのか?
「お前たち、アホな事を言うな。パーティーの事は明日正式に発表されるみたいだから、仕事と話し合いをきちんとやれよ。当然、無理をし過ぎないようにな」
『了解!』
「了〜解♪ ねぇねぇ、しばらくここへ来れなくなるんなら、パーティーの後片付けが終わった後、みんなで打ち上げしようよ!場所はりゅうくんの家でね♪」
何言ってんだこいつ……
「あ!それ面白そうだね!私も打ち上げやりたい!」
「おいおい、ハクまで何を言ってるんだ……」
「じゃあハクの送り迎えは俺がするよ、君はリュウイチの家に行くのは初めてだしな」
「ありがとう、カイ君!お言葉に甘えちゃうね!」
このアホカップルめ……
「僕は許可してないぞ!勝手に話を進めるな!それに自宅にはミナトも居るんだぞ、そんな事易々と許すわけないだろう」
「じゃあ、ミナトちゃんが大丈夫って言ったら良いの?」
「ミナトが良いと言っても僕が許さない。人の家を打ち上げ場所にするな、面倒なんだよ」
「え〜でも普通のお店とかじゃお金かかるし、大人数でも余裕がある場所って言ったらりゅうくんの家しかないじゃん!」
「お前達アサギリ家でも良いだろう、それなりの広さはあるし言い出しっぺなんだからそれくらい自分でなんとかしろ」
まったく、人のうちをなんだと思ってるんだこいつらは……サツキとミツキはふくれっ面をしているが、僕はそれを無視して残りのたこ焼きを頬張った。
「あ、だったら多数決してみませんか??私もサツキ先輩の御自宅に行った事がないし、ここは公平にりゅういちお兄ちゃんのお家とサツキ先輩達のお家、どちらに行きたいか皆さんで決めましょう!」
なんだかイヤな予感がする。ここは止めておくべきだろうか……しかし、ここで決めなくてはしつこくグダグダと言ってくるかもしれない。思い切って決めておくか……公平でありますように!
「良いだろう、ではアサギリ家が良いと言う者は手を挙げろ」
「私もミツキたちの家に行くの初めてだし、今後行く機会が無さそうだから1票入れさせてもらうわね!」
ミラーと……あ、キラが手を挙げるようミラーに促されおずおずと手を挙げた。お前も大変だな……挙手したのは合計二人……って、これでほぼ決まりじゃないか!!
「じゃあ、りゅういちお兄ちゃんのお家が良い人!」
挙手した者は、当然ながらミラーとキラ以外の者が手を挙げている……おい、アカリちゃん。さっきサツキの家になんとかかんとか言ってなかったか?それなのになんで僕の家の方に1票入れてるんだよ……!
「では圧倒的票数でりゅういちお兄ちゃんのお家に大決定でーす!♪」
「わ〜い!りゅうくんのお家でパーティーだぁ♪」
おい、打ち上げと言っていたのにちゃっかりパーティーに変更するな!
「マジか……」
僕はため息混じりに呟き頭を手でおさえた……
「大丈夫よ、兄さん……」
は?
「私も手伝うから……」
は?????
ユマリ、まったくフォローになってないぞ。しかもどことなく嬉しそうな顔してるし……!
「あ、ミナトちゃん?私し、ミツキよ。突然ごめんね、今月の15日にみんなでミナトちゃんたちの家で打ち上げをする事になったんだけど、良いかしら?」
実行早っ!
みぃ姉は早速SPDでミナトに連絡をとっているみたいだ、本当に突然だからミナトも流石に驚くだろう……
「……うん、分かった。ちょっと待ってね……リュウイチ、ミナトちゃんがあなたと話したいって」
そう言いながらみぃ姉のSPDを手渡して来た。
僕はそれを受け取り耳に当てる……と
『お兄ちゃん!打ち上げってどういう事ですか!?』
耳元で大声を出され少し耳から離す……だよな、そういう反応になるよな。
「ミナト、僕も反対したんだがこいつらがーー」
『ミナトも混ぜてください!ミナトもお兄ちゃんの手作りケーキやご馳走を食べたいです!』
……
味方無しとはこの事だ……
「ミナト、かなりの人数だぞ?少なくても12人はいるんだぞ?」
「でも、内8名ほどは知ってる方々ですよね?ミナトにとっての成長期と考えれば頑張れます!あ、それでもちょっと怖いのでミナトの傍から離れないで下さいね!」
可愛いんだか、悲しいんだか分からない感情が僕の中で渦巻いている。これも兄離れの一環なのだろうか……それともまだまだお兄ちゃんっ子だと可愛がるべきなのだろうか……
「(ユリナ、ユリコちゃんが離れて行ったら悲しいよな?)」
「(ええ……まあ……けれど、なるべく考えたくないわね……)」
だよな……はぁ……
「……分かった、じゃあ当日は兄さんがとびっきり美味い料理をご馳走してやる。ミナトにも少し手伝ってもらうぞ?」
『はい!お兄ちゃんのお手伝い頑張ります!』
ミナトの意気込みを聞いた後、軽い会話を交わして通話を切り、SPDをみぃ姉に返した。
「話は纏まった……不本意だがな。とりあえずその打ち上げとやらは僕の家で行う事になった、ミラー、キラ、それで良いか?」
「ま、なんとなくこうなる予感はしてたから私は構わないわよ。久々にミナトに会うのも悪くないしね」
「僕の方にも異論はありません、ありがとうございます、リュウイチ隊長!」
「やった〜♪アカリ、女子みんなでデザートか何か作らない?あたしたちの女子力をりゅうくんに思い知らせてあげよう!」
「ちょ、ちょっと!女子みんなって私も面子に入れてるわけ!?」
「大丈夫だいじょうぶ!ミラっちは"別の人"だよね、そんな事分かってるってばぁ♪」
あーやかましい。
僕は騒ぎの元凶である紙切れを睨みつけ、指で軽くはじき飛ばした。
「リュウ兄、俺も手伝うぜ!トモカに手料理を食べてもらいたいんだ」
「ゆ、ユキタカ君……本当に良いの?」
「もち!たまには俺の良いところも見せないと!なっ?良いよな、リュウ兄!」
まあ、僕とミナトだけでやるよりはマシか……僕はそんな事を思いながら「好きにしろ」と言って返事をすると、ユキタカはニコッと笑ってトモカちゃんと再び会話を始めた。
フン、アホカップルめ……こっちの気も知らないで
ピピピ、ピピピ
ん?突如僕のSPDが鳴り始めた、相手は……フューム?
「フューム。元気だったか?」
『うむ、そっちは変わりないか?リュウイチ』
「身体的には元気だが、たった今面倒事が発生して意気消沈したところだ」
「あ、久しぶりぃ!フュームちゃん!」
『……なるほど、どうやらそこにいる者たちが原因みたいだな』
僕は「ああ」と短く返事をした。相変わらず察しが良いやつだな、こいつは
「それより、今日はどんなご要件だ?」
『それなんだが……リュウイチ、ヘヴンズパーティーの件を知っているな?それについて少し話したいと思って連絡したのだ』
どうやらヘヴンズパーティーの事は上位の者に通達しているみたいだ。
「ああ、知ってるよ。その事で元気をごっそり持っていかれたんだ……」
『フッ……やはりそうか、そこにいる者たちは賑やかしいものが好きそうだったからな。どうやら我もお前と同じ側の住人らしい』
「そう言えば、全国の執政官クラスの者が代表としてセントラルに数名が集まるとか言っていたな……お前もこっちに来るのか?」
フュームはため息をつきながら「その通りだ」と答えた。表情の暗さを見ると、案外こういうパーティー事は苦手の様だ。
『こちらのベースでもマスターの命令でパーティーが開催されるのだが、催し物について少し迷っていてな……我が可決するのだが、どういうものを許容してよいのか分からんのだ』
「なるほど、そっちも結構な大国だし、お前自身も生真面目だから女王としてどう振る舞うべきか悩んでるって事か」
『我ながら不甲斐ない事だ……パーティーには何度も出席した事はあるが、どうも慣れなくてな……リュウイチ、お前ならどこまで許容する?』
一国の代表者らしい悩みだな、こちらの"上司"とはえらい違いだ……うーむ、そうだなぁ……
ピピピ
と、考えていると再びSPDがなり始めた。今度は誰だ?
……リョウマ?またまた珍しいやつから連絡が来たな。ちょうどいい、こいつの意見も聞いてみるか
「フューム、リョウマから通知が来てるんだが、やつにも知恵を借りてみるか?」
『ふむ……まあ良いだろう。奴なら我たちの話し合いについて来れるかもしれん』
こいつもこいつなりにリョウマを認めてるみたいだな。じゃあ、遠慮なく通話を繋げよう。僕はスクリーンボタンを押して、全員に見れるようにした。
「こちらリュウイチ、元気か?リョウマ」
『ああ、お陰様でな……すまねぇな、通話中に押しかけちまって』
『久しいなリョウマ、貴様もリュウイチに相談事か?』
『御相手はフュームだったか……お互いリュウイチの知恵を借りようってハラみてぇだな。例のパーティーについて……か?』
なんだリョウマもか……僕ってそんなに賑わい事に強いイメージあるのか?
「二人して同じ事でお悩みか、僕は相談所を経営した覚えはないんだがな」
「あら、そんな事良いながらみんなの相談事を解決しちゃうのはなぜかしらね?」
「リュウイチ様はこういう面でも頼りになりますからね、僕が太鼓判をおしましょう」
みぃ姉、レイ、勝手な事言ってるんじゃない。
二人の発言にその場にいる全員が僕見つめた……そんな目で見るな、石になる
「リョウマも催し物についてのご相談か?」
『まあな……何せヘヴン内でのパーティーなんて初めてだからな、隊員たちが満足できるようなものを決めると、お前が一番まともな意見を言ってくれるだろうと思ったんだ』
『奇遇だな、我も同意見だ』
「ねっ?伯父さんもみんなりゅうくんの良さを知ってるんだよ♪」
やれやれ、どんな期待の寄せ方だよ……まあ良いか
「ふむ……そうだな……二人とも結構な大国の代表だから気負いしてしまうのは仕方ない事だとは思う、隊員たちや民たちが満足できるもの……って、少し根を詰め過ぎなんじゃないか?」
『我たちが……?』
「お前たちも代表者である前に一人の人だって事さ、大きな世界の一人の人……だから少し肩の力を抜いてみろ。僕みたいにまず自分が楽しめる事を前提にしてみるとかな……それか、自分のやりたいものをみんなに伝えてみるとか」
『なるほどな、俺たち代表者の希望を他のヤツらに伝えた上で、みんなの意見を訊いて決めてみるって事か』
「ああ、そうだ。例えば、フュームの国は独特の麦が有名だろ?だったらその麦を元にしたパン祭りなんてどうだ?パンで何か作ってみるとか」
『面白そうじゃねぇか、人それぞれ思い思いに作ったパンを出し物にしたりするのはどうだ?』
『ふむ……なるほどパン祭りか……それなら民の暴動などが起こる確率は低くなるな』
「リョウマ、お前の国は綺麗な海が大人気だろ?それなら海の幸や海水……水に纏わる祭りとか良いんじゃないか?隊員たちが水の精霊に扮して一般人を救援するとか……ある一定の条件をクリアした者には海の幸をプレゼントするとか……な」
『警備隊達が精霊の仮装をする……か、ネストの海やそこで暮らすやつらにも良い影響になるかもしれねぇな』
「あくまで僕の意見だが、パーティーというものはお前たちも含めて皆んなが楽しむ為の行事だ。マスターもきっとそう言う筈、だからお前たちも楽しめるものを考えてみたらどうだ?それから皆んなの意見を聞いて、自分でも楽しめそうなものに決定する……とかな」
「リュウイチお兄さんの気持ち分かります、自分も楽しめなきゃせっかくのパーティーが台無しになってしまいますから……」
僕がそう意見を述べると、トモカちゃんがそれに賛同するかのように発言した。
『我らも楽しめるパーティーか……』
『マスターの気遣いを無駄にするところだったかもな……リュウイチ、感謝するぞ』
どうやら二人とも納得してくれたようだ……しかしまさか女王様に意見を求められるとは思ってなかった……いや"フュームが"と言うべきだろうか?
リョウマもだが、こいつらなら僕の意見を聞かずに自分で決められそうな気がするんだが……
「……とりあえずどうするかは決まったみたいだな、お互い良いパーティータイムを過ごそう」
『そうだな、パーティー当日は我もセントラルに赴く、その時にしっかり礼をさせてもらうぞ、リュウイチ』
『ミツキ達だけでなく俺も世話になっちまったな、セントラルに着いたら改めて礼を言わせてもらうぜ』
「伯父さんはともかく、フュームちゃんの言うお礼が気になる……これはしっかり監視しておかなきゃ……ねっ!みぃ姉!」
炊きたてるな!そして変な妄想をするな!
「そうだ!お二人とも打ち上げに参加しませんか?りゅういちお兄ちゃ……隊長のお家で行うんですが、どうでしょう?」
……さすがプチデビル、考え方がサツキにそっくりだ……似すぎだ!
『ほお、中々魅力的な行事だな。是非参加したいものだ』
『ちょうど良い、コウタに会いにいこうと思ってたんだ。俺も喜んで顔を出させてもらうぜ』
はぁ……
パーティーよりこっちの方が厄介になりそうだな……これは……
次回掲載日10月15日予定