〜一夏の想い出・ユマリとのひと時編〜
「あ、やっぱりりゅうくんが先に出てきた!」
「やっぱりみぃ姉はびりっけつか」
「りゅうくん言い方がいやらしいぃ!」
どこがだよ!
みぃ姉は昔から風呂が長い、シャワーだけでも小一時間程かける。普段は皆んなの事を考えてて気立ての良いやつなんだが、こういうところは何故かマイペースなんだよなぁ
「あ〜あ、ずっと立ってたら疲れちゃった……ねぇねぇ、りゅうくん!暇つぶしに浜辺でお散歩デートしようよ♪」
ずっとって、さっき別れてから10分くらいしか経ってないじゃないか。しかもデートって……
「ダメよ、サツキ。兄さんは私とあそこにあるお土産屋さんでお買い物デートするんだから……ねぇ、兄さん?」
ユマリ、本人の意思関係無く決定事項にするのはやめなさい。
……とは言っても、みぃ姉はまだまだ出てきそうにないし確かに時間潰しには丁度良いかもしれないな。しかしみぃ姉が本当に遅く出てくるとは言いきれない、でも僕もここの近くにあるもう1件のたこ焼き屋に行ってみたいんだが……さて、どうするかな?
「土産か……ミナトに何か買ってやりたいと思ってたし、僕も店に行ってみるか」
「ぶ〜!りゅうくんの裏切り者〜!ふん、いいよぉだ!あたし一人で浜辺でお散歩してくるから……ナンパされても知らないからねぇ!」
子供がふてくされるみたいにそう言うと、サツキは出入りの方へのしのしと歩いて行った。
後が怖そうだ……
「それじゃあ、行きましょう」
「ああ」と返事をして、僕とユマリは店がある方へ足を運んだ。
そう言えばユマリとこうして二人で行動したり買い物したりするのは久しぶりだな、いつもは大抵あと何人かと行動していたし
「兄さん、こうして二人でいるのって久しぶりね」
「そうだな、僕も同じことを思っていた」
「あら、私たち相思相愛ね」
せめて以心伝心と言え、少し違うかもしれないが相思相愛よりはマシだ。
「ねえ、兄さん……久しぶりに二人っきりになれたんだし手を繋いでも良い?」
「恋人でもないのにどうしてそういう発想になるんだ?まるで久々に恋人同士が二人きりになれてラブラブするみたいに……」
「違うの?」
あれ?ユマリさんの中で僕たちはそういう関係だったのか?僕は全くそんな気はないし合意した覚えもないんだが?
「違うな、僕はフリーだしユマリたちの気持ちには応えられないとも言ったぞ」
「……ならせめて腕を組ませて」
え?うわっと!
強引に腕を引っ張られ、そしてすぐに僕の腕にユマリの腕が絡み付いた。
振りほどこうとしたが、ギュッと力を入れているようで振りほどくことができなかった。
「お、おい!ユマリ!」
「……今だけだから」
ユマリの表情はどこか切なそうで、少し寂しそうな瞳をしていた……僕はそんなユマリに少したじろぎ、拒否する意志が消え失せ致し方なく腕を組ませる事にした。
普段は無表情なのに、どうしてこんな時にそんな表情をするんだ……卑怯だろう。
「あっ兄さん、この貝で出来たネックレスとか素敵じゃないかしら?」
「確かに良いデザインだな、でもユマリがアクセサリーに興味を持つなんて久々じゃないか、子供の頃はよく僕に花で作った首飾りとか作ってくれてたけど」
「今日は兄さんと一緒だから……それに、兄さんが褒めてくれたし……」
褒めた?
……あぁ、水着姿を見せてくれた時か。そう言えば……
「ユマリ、あの時付けてたブレスレットって昔僕が誕生日にプレゼントしたやつだよな?普段は長袖着てるから気づかなかったけど、いつも付けてたのか?」
「いいえ、いつもは戦闘で壊さないように身につけるのは控えてるの……だから……その……こういう風にお出かけする時は付けるようにしてるのよ……おかしいかしら……?」
そう言うユマリの頬は少し赤い、ユマリも女なんだから、そういうのに興味が無いわけじゃないんだろう。そんな素振りを普段は見せずに過ごしているせいか、オシャレに関して口にするのが恥ずかしいのだろう。
なら僕がしてしまった事は……
「変ではないさ、むしろ可愛いと思うぞ。でもすまないな、昔お前にプレゼントしたアクセサリーはお前にとってやはり余計な事をーー」
「そんな事ないわ!……あ……ごめんなさい大きな声だして……でも、本当に嬉しかったのよ?兄さん、普段はあんな感じのプレゼントしてくれないから、すごく貴重だし……だから本当に嬉しかった」
珍しく感情を表に出してるな、でもだからこそユマリの言う事には説得力がある。普段感情を出さない分、こんなふうにちゃんと気持ちを見せてくれると安心すると言うか、言葉に重みを感じる。
「(あら、それは貴方も同じじゃないかしら?自分の感情を抑止して、多くを語らない……本当の気持ちを心の奥に閉じ込めているし……)」
「(ユリナ……!……否定はしないでも肯定もしない、僕は正しいと思った選択をしているだけだ。隠しているつもりは……ない)」
「……そうか、お前に迷惑をかけていないなら安心した。でも、あれは相当古くなっているだろう?壊れてないのか?」
「大事にしてるから……少しだけ傷んでるところもあるけれど、たまに自分でできるところは修復したりしてるから大丈夫」
……
「(大事な思い出なのね、彼女にとって)」
「(そうみたいだな……)」
思い出か……
「兄さん?」
「ユマリ、何か欲しいものあるか?」
「……どうしたの?兄さんがそんな事言うなんてかなり珍しい……」
「僕には特別視ができない、だったらせめて……その……思い出をプレゼントしたいと思ってな」
「私の為に……?」
「……そう思ったんだが、やはり僕には誰か一人を見つめる事ができない……すまない」
素直になるのとはまた違う、恐らく僕の中で誰かを好きになるという事に恐怖を感じてしまっているんだろう……あの時の悲しみや喪失感から逃げるために……
「……兄さんの気持ちは本当に嬉しいわ、でも無理をして私だけを見て欲しいわけではないの……私は不器用だから、実質的に言葉とは逆の行動をしてしまっているかもしれないけれど……でも、兄さんに苦しい思いをさせたくないのも本心なの……信じて……」
「分かってる。独占欲は強いみたいだがな」
少し照れたようにユマリは視線を逸らした。
僕はそんなユマリを見てなんだか少しだけ張り詰めていた思いが解けて来た様な気がした。
「……っ! ユマリ、ここで少し待っててくれ」
「……?」
僕の発言にキョトンとした表情をし再び視線を僕に向けてきたが、僕は目的の物に向かって足を運んだ。
一人だけを特別視できないが、少しでも自分の気持ちに素直になり行動したい。その気持ちを分かって貰えると良いんだが……
「ありがとうございました、またお越しくださいませ」
目的を達成した僕はユマリの元に戻り、何も言わずそのままユマリの手を引いて歩き出す。
「……っ!? 兄さん??」
「僕にとってユマリは大切にしたいものの一人だ、それを証明する」
ユマリの顔を見ずにそう告げて歩き続けても、ユマリはそのまま黙ってついて来た。表情は見えないが、繋いでる手はしっかり握り返している。
「ここら辺が良いかな……おっちょうどいい所に。すまない!ちょっとこれで写真を撮ってくれないか?」
「あ、はい。良いですよ」
「写真……?」
僕たちは建物の外に出て、見渡して一番背景にしたら良さそうな場所に移動し、その場にいた通行人にSPDを渡した。
「こういうひと時をこうして保存する事も良いものだろう?今この瞬間を……ユマリ、お前と過ごせている事も大切にしたい……と言ったら、喜んでくれるか?」
「……リュウくん……うん!」
「撮りますよー!笑って下さぁい、はい!」
パシャ!
「はい、どうぞ!」
「感謝する……うむ、いい感じに撮れてるぞ、ユマリ」
「本当だ……なんだか少し恥ずかしい……でも、それ以上にリュウくんの気持ちが分かってすごく嬉しい……ありがとう!」
ユマリは満面の笑みで本当に嬉しそうにそう答えてくれた。
少し素直になった甲斐があったな、こいつのこんな可愛い笑顔を見れて、僕も少し嬉しい。
「……あ、でもみぃ姉たちにはあまり自慢するなよ?面倒な事になりそうだからな」
「フフ……了解」
本当に分かってるのかね?
フッ……まあ、信じてみるか。大切な人の言葉を。
「さあ、そろそろ戻ろう。ちょうどいい時間帯だからな」
「あ……ごめんなさい、もう少し居ていい?兄さんとの時間を過ごしていたいの」
「……分かった、あと2分だけだぞ。それ以上だったら確実にみぃ姉達が怒るからな」
「ええ、そうする……」
っ!?
ユマリは返事と同時に僕に寄りかかり、腕を絡めてきた。それ以上に気になるのは、わざとなのかどうか分からないが、僕の腕にユマリの膨らみを押し付けてきている事だ……注意するべきだろうか?
「ユマリ」
「今だけ……」
はぁ……はいはい
……
……
……
「あ、おかえりなさい。二人とも」
「ああ、ただいま」
「りゅうくん達が帰るまでなにもお邪魔とかせずにおとなしくしてたんだよぉ!ご褒美のキスしてくれる?♪」
「キスの代わりにこいつをやる……十分それに見合う報酬のはずだ。喜べ、みぃ姉やユマリの分も買ってきたぞ」
僕はそう言って、三人に先程買った品を手渡した。
「なにかしら……?開けてみて良い?」
みぃ姉の質問に僕は「ああ」と答えた。
三人は僕の返事を聞いた後、包みを丁寧に剥がし中身を確認し始めた……そんな丁寧に剥がさなくても……
「わぁ!!これって写真立てだよね?可愛い!♪」
「本当だ!ありがとう、リュウイチ!大切にするわね!」
「本当に可愛い……さっき買ってくれてたのはこれだったのね……我が家の家宝にしましょう」
そ、それはさすがに大切にし過ぎじゃないか?ユマリ
。
「まあ、今日は何やかんや記憶に残る一日だったからな……それに、お前たちの……水着……珍しい姿も見れたし……その礼だ、ありがたく思えよ」
「うん!」
「うん!」
「うん……!」
フフ、本当に良い笑顔をするやつらだな。
ーー数十分後、車内ーー
僕は信号待ちをしている僅かな間にバックミラーと助手席をチラりと確認する……三人ともぐっすり眠っている。そんなに全力ではしゃいでたのだろうか、それともモンスターとの戦闘で疲れたのか……
「ん……りゅうくんの海パンばーじょん……」
どんな夢見てやがるんだサツキは……寝言にしてもおかしいだろう
信号が変わり、車を発進させる。もうそろそろ家に到着するが、起こすべきだろうか?
……
もう少し寝かせておくか、起こしたら起こしたでやかましいだろうし。
今回はトラブルに遭ってあまりゆっくり楽しめなかったが、次回行くときは少しはマシな日を過ごせれば良いな。
と、思ってる内に到着した。案外早かったな
「お前たち、着いたぞ。さっさと起きろ」
……って、全然起きないし
「おい、みぃ姉!家に着いたぞ、起きろー」
「ん……兄さん、おはよう。運転ありがとう」
ユマリが起きるのかよ!僕はみぃ姉を揺すって声をかけてるのに、しかもみぃ姉は寝ぼけて僕にしがみついて来たし……
「ふぁ〜……あ、おはよ〜りゅうくん……なんかりゅうくんが運転するとついウトウトしちゃって……」
ウトウトどころじゃなく熟睡してたぞ、そもそもなんでサツキが起きるだよ。変なところで気配に敏感なんだな、こいつらは……
「みぃ姉!寝ぼけてないでさっさと起きろ、家に着いたぞ!」
「んんっ……!リュウイチの手あたたかぁい……」
やめろ恥ずかしい!
「お、おい!いい加減起きろって!ミツキ!」
「……んー……ふぁー……リュウイチ……?おはよう……ごめんなさい、ウトウトしちゃって……」
姉妹揃って似たような事言いやがって、ウトウトじゃなく熟睡だっての!
「まったく……サツキ、ガレージ開けてくれ」
「は〜い!」
僕は寝ぼけてまなこのみぃ姉を手で揺らしながら僕は車をアサギリ家のガレージへと停車させ、僕を合わせ全員が外へと出る。
「兄さん、運転お疲れ様」
「お疲れ様りゅうくん!また今度タイヨウビーチに行こうね!」
「リュウイチ、次回は私が運転しましょうか?」
「いや、女に運転させるのはあまり好きじゃないと言ったろ、だから次も僕が運転してやる」
……こいつらとまた海でお遊びか
……まあ、たまにはそういう日があっても良いか……悪くない。
次回更新予定日
10月10日予定