〜一夏の想い出・サツキとのひと時編〜
「あ、やっぱりりゅうくんが先に出てきた!」
「やっぱりみぃ姉はびりっけつか」
「りゅうくん言い方がいやらしいぃ!」
どこがだよ!
みぃ姉は昔から風呂が長い、シャワーだけでも小一時間程かける。普段は皆んなの事を考えてて気立ての良いやつなんだが、こういうところは何故かマイペースなんだよなぁ
「あ〜あ、ずっと立ってたら疲れちゃった……ねぇねぇ、りゅうくん!暇つぶしに浜辺でお散歩デートしようよ♪」
ずっとって、さっき別れてから10分くらいしか経ってないじゃないか。しかもデートって……
「ダメよ、サツキ。兄さんは私とあそこにあるお土産屋さんでお買い物デートするんだから……ねぇ、兄さん?」
ユマリ、本人の意思関係無く決定事項にするのはやめなさい。
……とは言っても、みぃ姉はまだまだ出てきそうにないし確かに時間潰しには丁度良いかもしれないな。しかしみぃ姉が本当に遅く出てくるとは言いきれない、でも僕もここの近くにあるもう1件のたこ焼き屋に行ってみたいんだが……さて、どうするかな?
「夕方の浜辺か……少し興味があるな」
「でしょ!だから一緒に行こうよ♪」
こいつの誘いに乗るのは少し気が引けるが、まあたまには良いか。
「やむを得ん。けど、くっついて歩くなよ」
「わぁい!!了〜解♪」
絶対分かってないなこいつ……みぃ姉に一応連絡しておかないとな。
"浜辺に行ってくる。17時30分にロビーで集合しよう"
……これでよし
「……今回はサツキに譲ってあげる……兄さん、今度一緒にデートしましょうね」
「譲るって……それにデートはしません、機会があったら買い物に付き添ってやる。じゃあ、また後でな」
そう言って、僕たちは別れた。
夕方の浜辺なんて久しぶりだな、確か前に行ったのは……あの時以来か
「ん??りゅうくん、どうかした?もしかしてそんなにあたしとお散歩するのイヤだった……?」
「そんな事はない、少し昔話を思い出していただけだ」
「へぇ〜どんなお話し??」
「……ほお、これは良い眺めだな」
僕はサツキの発言を無視して、辺りを見渡した。まるでキラキラしたオレンジ色の世界に入った様に幻想的で、本当に少し風景に圧倒された。
「ホントだ!すっご〜い!!"話逸らされたけど"ホントに良い眺めだねぇ♪」
一部だけ強調するな……まあ、この風景もサツキたちがいないと独占できなかっただろうから、今回だけは少しサービスしてやるか
「……昔、ある所に男と女がいた」
「え……?」
「男は人生を憎み、女は人生を喜んでいた。男は何故そんなに楽しめるかと尋ねると、女は綺麗な華のように綺麗な笑顔と、果てしなく広がる青空のように澄んだ瞳をしてこう答えた……"それは、あなたに出会えたからです"と、何も着飾らずそう男に返答した。男は少しの間呆気にとられ、ただただ目の前にいる誰よりも純粋で美しい女を見つめる事しかできなかった……」
「……」
僕が話す昔話をサツキは黙って聞いている。
いつものやかましさや、天真爛漫な雰囲気は一切感じさせないくらい静かに聞き、僕を見つめている。
「そしてしばらく見つめ合っていると、その女は自分に素直な気持ちのまま、男に愛していると告げた。しかし男はその気持ちを受け入れるどころか、恐怖のあまりその場から立ち去ってしまった……」
「どうして……?」
「……男はその女を……掛け替えのない存在を失う事が怖かったんだ。自分には到底守れない、ただ失うだけだと自分を卑下して、現実から逃げ出したんだ……しかしそれでも女は男を愛し続けた、何故そこまでこんな自分を愛せるのかと男は怒鳴るように聞いた。それでも、女はそれに怖がるどころか、クスクスと笑い、こう答えた……"あなたの全てが、私にとって掛け替えの無い存在になったから……そしてあなたの心の奥に隠れてしまっている優しさを見つけたからです"と……」
「良い人だったんだね……二人とも……」
「そうでもない……男はそれでも女を信用する事ができなかった、自分は今までたった一人しか信用する事ができないからと、言い訳を重ね目の前にある幸せと現実から逃げ回っていた。愚かしいくらいにな……」
「恥ずかしがり屋さんだったんだね、その男の人」
サツキはクスクスと笑いながら発言した。僕も少しおかしくなり口元がにやけたのを感じた。
「ああ、どうしようもない男だった。そんな男はこれに似た風景を女と見た事があってな、だから少し思い出していたのさ……昔話をな」
「ねぇ、その二人はその後どうなったの??」
……
「お話はおしまいだ、これ以上聞きたければ、お前のその天真爛漫なところを、少しは直すよう努力するんだな」
「いじわる!」と言って、ふくれっ面をするサツキ、さっきまで良い顔していたのに……やっぱりあれは別人だったのかな?
「……ねぇ、りゅうくん。昔みたいに手繋いで良い?迷子にならないようにって、遠出する時はいつもみぃ姉とあたしの手を繋いでてくれたじゃん?だからおねがぁい!♪」
何を唐突に無理難題を言ってくるんだこいつは
「繋ぐわけないだろ、そんな所みぃ姉たちに見られたらまたえらい騒ぎになるだろうが、抑えるこちらのみにもなれ」
「お願いだよ……りゅうくん……今だけは繋いでいて……」
……そういうサツキは再び、さっきの様に大人びて落ち着いた綺麗な女性のように見えた。
この表情、ミツキとあいつに雰囲気が似ている。
「……帰るまでの間だけだぞ」
僕はそう返答し、サツキの手を握った。
案外小さいんだな、戦闘時はあれだけの威力を出すのに、そんな豪快な技を出す手は温かく、もう少し力を入れてしまえば壊れてしまうんじゃないかと思えるくらい細く繊細さを感じた。
あの時から変わってないんだな、この手も……
「ありがとうりゅうくん……あったかい……今あたしすごく幸せだよ!綺麗な景色の中で、大好きな人と手を繋いで歩いてる……幸せ過ぎるくらい幸せ……さっきのお話に出てきた男の人の気持ちが少し分かるかもしれない」
ん?
「ほら、幸せ過ぎて逆に疑っちゃうし不安になって、その幸せを失ってしまうんじゃないかって……だから少し男の人に共感できる……でも私は逃げたくない、真正面から向き合って、その人と分かり合いたい……だからさ……りゅうくん……逃げないでね?」
……サツキ……
「僕はもう逃げたりはしない、いつだって自分に正直に生きて、自分の幸せだけを考えて行動する。それを理解してくれているのは、お前やミツキ、ユマリやカイたちだと思っている。僕が信頼を寄せているんだ、お前こそ逃げるなよ?」
「ふふっ!うん!♪……やっぱり、りゅうくんと出会えて良かった……これからもずっとそばにいてね!♪」
好き勝手言ってくれるな……そういう所はまるであいつみたいだ
「フフ、四六時中ピッタリするのは性にあわないんでね、適度によろしくな!」
「うん!♪……ねえ、りゅうくん!」
「なんだ?……っ!?」
すぐ横でピッタリくっついていたサツキが顔を近づけて唇を重ねて来た……
またやりやがった……
「んっ……お、おい!サツキ!」
「ごめんさい!でも抑えられなかったんだもん!」
……いつもみたいに言い訳ばかり述べる事は無く素直に謝罪している……大粒の涙を流しながら。
……少し昔話しをしすぎてしまったかな……
時計を見ると17時25分を表示していた、僕は少し急ぎ足でサツキの手を引いて、早歩きで帰路についた。
「サツキ、誰にも言わないから、お前も誰にも言うなよ?」
「うん、分かってる……二人だけの秘密だね♪」
僕たちは待ち合わせだったロビーに行く前に僕だけはある店の前で足を止めた。
「っと!どうしたの、りゅうくん?」
「ああ、ここでの記念に何か土産を買っておこうと思ってな……サツキ、先に戻っていていいぞ?僕も直ぐに追いつくから」
「そっか……じゃあ先に戻ってるね!何を選んでくれるのか楽しみにして待ってるよぉ!♪」
フフ、まあやかましいやつがいないだけ楽に決められそうだな。
ん〜…………よし、これにするか。
あとは僕とミナトのお土産を決めて……と、よし、このクッキーにしよう!
さあて、そろそろ戻るかな。
……
……
……
「あ、おかえりなさい。早かったわね」
「少し急いだからな……ユマリ、サツキはおとなしくしてたか?」
「もちろん、兄さんの為にずっと見張ってたわ……ご褒美のキスしてくれる?」
「キスの代わりにこいつをやる……十分それに見合う報酬のはずだ。喜べ、みぃ姉達の分も買ってきたぞ」
僕はそう言って、三人に先程買った品を手渡した。
「なにかしら……?開けてみて良い?」
みぃ姉の質問に僕は「ああ」と答えた。
三人は僕の返事を聞いた後、包みを丁寧に剥がし中身を確認し始めた……そんな丁寧に剥がさなくても……
「わぁ!!これって写真立てだよね?可愛い!♪」
「本当だ!ありがとう、リュウイチ!大切にするわね!」
「本当に可愛い……我が家の家宝にしましょう」
そ、それはさすがに大切にし過ぎじゃないか?ユマリ
。
「まあ、今日は何やかんや記憶に残る一日だったからな……それに、お前たちの……水着……珍しい姿も見れたし……その礼だ、ありがたく思えよ」
「うん!」
「うん!」
「うん……!」
フフ、本当に良い笑顔をするやつらだな。
ーー数十分後、車内ーー
僕は信号待ちをしている僅かな間にバックミラーと助手席をチラりと確認する……三人ともぐっすり眠っている。そんなに全力ではしゃいでたのだろうか、それともモンスターとの戦闘で疲れたのか……
「ん……りゅうくんの海パンばーじょん……」
どんな夢見てやがるんだサツキは……寝言にしてもおかしいだろう
信号が変わり、車を発進させる。もうそろそろ家に到着するが、起こすべきだろうか?
……
もう少し寝かせておくか、起こしたら起こしたでやかましいだろうし。
今回はトラブルに遭ってあまりゆっくり楽しめなかったが、次回行くときは少しはマシな日を過ごせれば良いな。
と、思ってる内に到着した。案外早かったな
「お前たち、着いたぞ。さっさと起きろ」
……って、全然起きないし
「おい、みぃ姉!家に着いたぞ、起きろー」
「ん……兄さん、おはよう。運転ありがとう」
ユマリが起きるのかよ!僕はみぃ姉を揺すって声をかけてるのに、しかもみぃ姉は寝ぼけて僕にしがみついて来たし……
「ふぁ〜……あ、おはよ〜りゅうくん……なんかりゅうくんが運転するとついウトウトしちゃって……」
ウトウトどころじゃなく熟睡してたぞ、そもそもなんでサツキが起きるだよ。変なところで気配に敏感なんだな、こいつらは……
「みぃ姉!寝ぼけてないでさっさと起きろ、家に着いたぞ!」
「んんっ……!リュウイチの手あたたかぁい……」
やめろ恥ずかしい!
「お、おい!いい加減起きろって!ミツキ!」
「……んー……ふぁー……リュウイチ……?おはよう……ごめんなさい、ウトウトしちゃって……」
姉妹揃って似たような事言いやがって、ウトウトじゃなく熟睡だっての!
「まったく……サツキ、ガレージ開けてくれ」
「は〜い!」
僕は寝ぼけてまなこのみぃ姉を手で揺らしながら僕は車をアサギリ家のガレージへと停車させ、僕を合わせ全員が外へと出る。
「兄さん、運転お疲れ様」
「お疲れ様りゅうくん!また今度タイヨウビーチに行こうね!」
「リュウイチ、次回は私が運転しましょうか?」
「いや、女に運転させるのはあまり好きじゃないと言ったろ、だから次も僕が運転してやる」
……こいつらとまた海でお遊びか
……まあ、たまにはそういう日があっても良いか……悪くない。