〜一夏の想い出・ミツキとのひと時編〜
「あ、やっぱりりゅうくんが先に出てきた!」
「やっぱりみぃ姉はびりっけつか」
「りゅうくん言い方がいやらしいぃ!」
どこがだよ!
みぃ姉は昔から風呂が長い、シャワーだけでも小一時間程かける。普段は皆んなの事を考えてて気立ての良いやつなんだが、こういうところは何故かマイペースなんだよなぁ
「あ〜あ、ずっと立ってたら疲れちゃった……ねぇねぇ、りゅうくん!暇つぶしに浜辺でお散歩デートしようよ♪」
ずっとって、さっき別れてから10分くらいしか経ってないじゃないか。しかもデートって……
「ダメよ、サツキ。兄さんは私とあそこにあるお土産屋さんでお買い物デートするんだから……ねぇ、兄さん?」
ユマリ、本人の意思関係無く決定事項にするのはやめなさい。
……とは言っても、みぃ姉はまだ出てきそうにないし、確かに時間潰しには丁度良いかもしれないな。
しかしみぃ姉が本当に遅く出てくるとは言いきれない、でも僕もここの近くにあるもう1件のたこ焼き屋に行ってみたいんだが……さて、どうするかな?
「仕方ない、僕はここに残ってみぃ姉が出てくるのを待っている。もしかしたら早く出てくるかもしれないからな、お前たちは買い物や散歩をしてこい」
「えぇ〜……まあ、ここでみぃ姉に借りを作っておくのも悪くないかなぁ……次の争奪戦ではこれをネタにりゅうくんとラブラブするのも良いかもぉ……♪」
聞こえてるぞサツキ、そんな事を堂々と本人の目の前で言えるお前はなかなかの大物だと思うぞ、ある意味ではな。
「……兄さんがそう言うなら……でも、私が居ない所であまりイチャイチャしないでね」
そのイチャつくこと前提でものを言うのやめてくれないか、ユマリさん……
「さあ、行くならさっさと行ってこい。今から30分程自由行動とする、それまでに戻って来いよ」
「了〜解♪」
「了解」
二人はそう返事をして各々の行先へ歩き出した。
僕はと言うと……たこ焼きは我慢してその辺に座って待ってるか
「今日蒸し暑いねぇ」
「うん……シャワー浴びたいなぁ」
そう言えばここの従業員は……
ピピッ
ん?誰からのメッセージだろう……みぃ姉?
"リュウイチ、タオル持ってない?持ってるなら貸してくれないかしら、私忘れてきちゃったみたい……ごめんだけど、女子更衣室まで来てください!ちなみに誰もいないから気にしなくて良いからね"
……海に来ておいてタオルを忘れるとは、本当にみぃ姉はおっちょこちょいだな。
にしても、誰もいないからって気にしない訳ないだろう……さっさと行って渡して戻ろう
……
……
"女子更衣室"
はぁ……にしても何で僕なんだ?同じ女同士のサツキ達に頼めばいいものを
「みぃ姉、僕だ。タオル持って来てやったぞー」
「あ、リュウイチ!?ごめんなさい、中まで入って来てくれる?隠す物がないからシャワー室前まで来てくれると助かるんだけど!」
マジか……
それはあまりにも酷な選択なんだが?
「……ったく、なんで僕がこんな事を……入るぞ、見てしまったとしても事故だからな?」
「分かってるわよ!こっちこっち!」
みぃ姉の声がする方へ向かう……しかしこんなところを他の人に見られたらただの変態だぞ!?
誰も来ませんように……誰も来ませんように……誰も来ませんように……誰も来ませんように……
……ここだな
「みぃ姉?」
「リュウイチ?ごめんなさい、わざわざ来てもらって……タオルは?」
ほら、と言って僅かに開いたシャワー室の扉の中へタオルを持った手を差し出す。
僅かな隙間から甘い香りがさらに漂ってくる、更衣室に入った時点で思っていたが……それが強くなってきた。
「ありがとう、リュウイチ!サツキかユマリに頼もうと思ったんだけど、履歴の中で一番早かったのがリュウイチだったからつい……」
そんな適当な選び方で僕をこんな目にあわせるなよ、どうして検索する気をなくしたんだ!我慢して慎重に選べよな!
「そうかい、じゃあ僕は戻るぞ。こんなところ誰かに見られでもしたら、犯罪ものだぞ」
「あはは!大丈夫よ、私が弁解してあげるから……」
ガチャ
んなっ?!
「本当に大丈夫かなぁ……いくら休憩中と言っても他にお客様がいたら……」
「大丈夫!大丈夫!お客様は4名で内1人は男性の方だから、そんな低確率な事起こりっこないって!」
……その低確率が的中してるんだが?!
とりあえず、早くここから脱出しなければ……って、うわっ!
スニーキングで出て行こうとした僕の手を突然引っ張られシャワー室の中へと引きずり込まれた。
「み、ミツキ!?」
「シー!」
「ミカ、何か言った?」
「えー?何も言ってないよぉ?」
まずい、やばい、マジかよ、なんで僕がこんな目に……!
……って、ん?
僕の真ん前にSPDを見せられた
"急にごめなさい、声を出さないで!あと振り向かないで!"
咄嗟に振り向こうとしたが、その文書を見てそれを止めた。声に出したい思いをこらえて、僕も自分のSPDを取り出し、それを文書にしてミツキに見せる。
もちろん振り向いたりはしない、SPDだけを見せた。
"見つからないようにここを出るから、手を放せ"
それを見たミツキは再び僕にSPDを見せてきた
"下手をしたら本当にヤバイわよ!私の事は気にしなくて良いから、ここに居なさい"
タオル越しかもしれないが、背中の感覚が生々しいんだよ……!こんな状況堪えられるか!
「(僕の技術なら大丈夫だ、ここから見つからずに出る事なんてわけない。ミツキこそ早く手を放せ!)」
「(リュウイチ!?例の力ね、ビックリした……そんな事より、本当に大丈夫なの?)」
「(ああ、人に気取られない様に行動するのは仕事柄慣れてる。良いから見てろ)」
僕はそう頭の中でミツキに返事をし、ミッションを開始する。
ギィ……
「っ!?な、なに今の音!」
「ええっ!?ど、どうしたの?!」
っ!?
なんで聞こえるんだよ!!
「あ、ヤッバ!扉が半開きになってたぁ!」
「もぉー驚かせないでよぉ!」
「(ダメだったじゃない!)」
「(い、今のはあいつの扉が開いた音だろ!?僕が開いたドアの音じゃないはず!もう一度……!)」
ギィ……
「カヨ!今何か音しなかったぁ?」
「えー?私は何もきこえなかったよ?」
……嘘だろ、本当に聞こえてるのかよ
しかし、このままここにいるのはどう考えてもまずい、いくらミツキが同意してるからと言ってもこの場に長居をしたらサツキ達にも怪しまわれる。
「(聞こえてるじゃない!やっぱり下手に動かない方が良いわ……私なら大丈夫……だから……!)」
「(そうは言っても……なっ!?)」
瞬間、僕は後ろから強い力で抱きしめられた
ミツキが僕を後ろから抱き締めている……なんでこんな事してるんだこいつは!
「(お、おい!何してるんだよミツキ!?)」
「(し、仕方ないでしょ!こうしないとあなた大人しくしないんだもの!)」
「(逆に落ち着かないんだよ!服を着てるならまだしも、お前タオル1枚だろ!?お嫁にいけなくなるぞ!)」
「(だったら……その……り、リュウイチが責任とりなさいよ……)」
なんで僕が……
でも、ここでミツキを責めたところでなにも始まらないし解決にもならない、どうにかしてこの状況から抜け出さないと……
とりあえず、SPDの音を切っておこう……これでよし
さて、問題はあいつらの聴力だ。ドアを開けるにもどうしても音が鳴ってしまう、それをもう一度でも聞かれたら絶対に怪しまれるだろう。見つかったら当然犯罪者扱いされる、しかしこのまま時間が経てばサツキたちに不審がられるだろうし……それにミツキも辛いだろうし……どうする?
「(すまないな、ミツキ。もう少し我慢してくれ)」
「(う、うん……でも私、別に苦ではないからね?このままでいても私は……その……)」
やはり相当無理をしてそうだな……早くこの状況を打開してやらないと
「(貴方って本当にこういう事に関しては鈍いわね)」
「(ユリナ?お前にはなんか策があるのか?)」
「(ふふ……なんだか逆に笑っちゃうわ、ごめんなさい。別に策があるわけではないのよ、貴方の反応が面白いなと思っただけ。頑張ってね、リュウイチ)」
「(面白いって……不謹慎なやつだな、ユリナってこういう性格だったっけ?)」
僕はそう思いながら、何となく腕時計を確認した
17時18分、時計はそう指している。
時間ばかり過ぎていく……自分の判断力が憎たらしい、なんの案も思い浮かばない!
ふと、腕時計に反射して写っているミツキの顔が見えている事に気づいた。顔が赤らんでいるように見える
それはそうだよな、ほぼ裸に近い状態でいる時に男とこんなに密着させてしまっているんだ。
……でも、ミツキの大胆な行動から考えればこれくらいしてきそうな勢いだけど……それは少し思い過ごしだったみたいだ
「ふぅーさっぱりしたー!今日すごく蒸し暑かったからラッキーだったねぇ」
「だねぇ!後で改めてあの方にお礼言わないとね!」
あの方……?
「急がないと店長にバレちゃうけど、髪乾かしてから行かないと」
「ショートヘアにしたら早く乾くのにねぇ……思い切ってこの夏の間は髪の毛切っちゃおうかなぁ」
……あの方……店長……ミツキの行動……
「それ良いかも!ミカはショートも似合いそうだし!」
「ありがとう!でもショートにするのって結構勇気いるよねぇ」
「だよねぇ、ショートが無理そうならあの方みたいな長さにしてみたら?」
「えぇーそれじゃ今と変わんないじゃーん」
……
「(リュウイチ、どうしたの?)」
「(いや、少し考え事をしててな……)」
……もしかすると……後で確認してみるか
「はーこれでよしっと!ミカ、は終わった?」
「うん、じゃあ行こっか!」
ガチャ……バタン
……
「……行ったみたいね」
「ああ、その……悪かったな」
「い、いいの!気にしないで……私こそごめんなさい、こんな目にあわせちゃって」
僕は正面を向いたままノブに手を伸ばした。
「気にするな、でも次回からはちゃんとタオル持って来いよ」
「ええ……あ、待ってすぐ体拭くから少し待ってて、出入口に誰もいないとは限らないから……」
「その必要はない、気配なら人一倍敏感だからな。じゃあ、また後で」
とにかくここから出なければ、今はそれが最優先だ。
それに、確認しなきゃいけないこともあるしな。
更衣室からそっと出て、足早にサツキ達との待ち合わせ場所に向かった。
「あ、りゅうくんおかえり〜!どこいってたの?」
ユマリは……まだいないみたいだな。
「お前、ここの女従業員二人を嗾けただろ?」
「……えぇ??なんのことぉ??」
こいつ、とぼけやがって……
「お前の目論見通り僕は一時更衣室に閉じ込められたよ、その時に二人が"あの方"と言っていた。上司の事は店長と呼んでいたのに、それ以外の目上の者と言ったらビーチを買い取ったというアサギリ家の者くらいだ。ビーチを買い取ったならこの辺りの敷地も買い取っていても不思議じゃない。ここの従業員は女だけだからな、女だけの隊員で構成されているミツキやお前の部隊と同じだ。ちなみにその従業員はシャワーを浴びたいと愚痴っていた二人と同じ声だった……つまり、お前が従業員二人にシャワーを浴びてくる事を許し、僕とミツキをシャワー室に閉じ込めた……何の為かは知らないが、おかげで冷や汗ものだった。覚悟はできてるだろうな……?」
「うぅ……りゅうくん論破しすぎぃ!!わかったよぉ、白状するよぉ!全部あたしが仕掛けた事ですぅ……ごめんね♪」
ビキ……
「可愛く謝れば済むと思うんじゃない!危うく変質者になるところだったんだぞ!」
「うわ〜ん!ごめんってばぁ!せっかくの休暇だからみぃ姉とりゅうくんにラブパニックをセッティングしようと思ってぇ……!」
ふざけた事しやがって!
……っ!くそ、時間切れか。
「兄さん……?サツキと何かもめてたの?」
「いや何でもない、こいつのいつもの悪ふざけに対して少し注意していただけだ……なっ!?」
「う、うん!そうそう!ご、ごめん……なさぁい……!」
「……?そう……それより兄さん、これ食べる?さっきここのお店で買ってきたんだけれど」
そんなユマリの親切心に素直に「頂こう」と受け入れ、ここのご当地マスコット形のクッキーを1口頬張った……美味いな、ミナトのお土産はこれにするか
「美味かったよ、ユマリ。僕もそれを買いに行くから、ミツキが来たら少し待つように言っておいてくれ」
「あ、じゃああたしもぉ……」
「お前はユマリとおとなしくしていろ!と言うわけだ……ユマリ、サツキを頼む」
「了解」
僕は少し早歩きで店に向かった。
ふむ……僕の分も買っておくか、良い甘さだったし
……
……
早めに買い物を済まし、僕は再び待ち合わせ場所へと戻った。今度はミツキの姿もある、これで全員集合だな。
「あ、おかえりなさい。早かったわね」
「少し急いだからな……ユマリ、サツキはおとなしくしてたか?」
「もちろん、兄さんの為にずっと見張ってたわ……ご褒美のキスしてくれる?」
「キスの代わりにこいつをやる……十分それに見合う報酬のはずだ。喜べ、みぃ姉達の分も買ってきた」
僕はそう言って、三人に先程買った品を手渡した。
「なにかしら……?開けてみて良い?」
みぃ姉の質問に僕は「ああ」と答えた。
三人は僕の返事を聞いた後、包みを丁寧に剥がし中身を確認し始めた……そんな丁寧に剥がさなくても……
「わぁ!!これって写真立てだよね?可愛い!♪」
「本当だ!ありがとう、リュウイチ!大切にするわね!」
「本当に可愛い……我が家の家宝にしましょう」
そ、それはさすがに大切にし過ぎじゃないか?ユマリ
。
「まあ、今日は何やかんや記憶に残る一日だったからな……それに、お前たちの……水着……珍しい姿も見れたし……その礼だ、ありがたく思えよ」
「うん!」
「うん!」
「うん……!」
フフ、本当に良い笑顔をするやつらだな。
ーー数十分後、車内ーー
僕は信号待ちをしている僅かな間にバックミラーと助手席をチラりと確認する……三人ともぐっすり眠っている。そんなに全力ではしゃいでたのだろうか、それともモンスターとの戦闘で疲れたのか……
「ん……りゅうくんの海パンばーじょん……」
どんな夢見てやがるんだサツキは……寝言にしてもおかしいだろう
信号が変わり、車を発進させる。もうそろそろ家に到着するが、起こすべきだろうか?
……
もう少し寝かせておくか、起こしたら起こしたでやかましいだろうし。
今回はトラブルに遭ってあまりゆっくり楽しめなかったが、次回行くときは少しはマシな日を過ごせれば良いな。
と、思ってる内に到着した。案外早かったな
「お前たち、着いたぞ。さっさと起きろ」
……って、全然起きないし
「おい、みぃ姉!家に着いたぞ、起きろー」
「ん……兄さん、おはよう。運転ありがとう」
ユマリが起きるのかよ!僕はみぃ姉を揺すって声をかけてるのに、しかもみぃ姉は寝ぼけて僕にしがみついて来たし……
「ふぁ〜……あ、おはよ〜りゅうくん……なんかりゅうくんが運転するとついウトウトしちゃって……」
ウトウトどころじゃなく熟睡してたぞ、そもそもなんでサツキが起きるだよ。変なところで気配に敏感なんだな、こいつらは……
「みぃ姉!寝ぼけてないでさっさと起きろ、家に着いたぞ!」
「んんっ……!リュウイチの手あたたかぁい……」
やめろ恥ずかしい!
「お、おい!いい加減起きろって!ミツキ!」
「……んー……ふぁー……リュウイチ……?おはよう……ごめんなさい、ウトウトしちゃって……」
姉妹揃って似たような事言いやがって、ウトウトじゃなく熟睡だっての!
「まったく……サツキ、ガレージ開けてくれ」
「は〜い!」
僕は寝ぼけてまなこのみぃ姉を手で揺らしながら僕は車をアサギリ家のガレージへと停車させ、僕を合わせ全員が外へと出る。
「兄さん、運転お疲れ様」
「お疲れ様りゅうくん!また今度タイヨウビーチに行こうね!」
「リュウイチ、次回は私が運転しましょうか?」
「いや、女に運転させるのはあまり好きじゃないと言ったろ、だから次も僕が運転してやる」
……こいつらとまた海でお遊びか
……まあ、たまにはそういう日があっても良いか……悪くない。