ある秋のパーティータイム・フューム編
やっと客足が減った……先程までごった返してたフロアが少しスッキリしている。
とは言っても行列はまだあまり減っていないが、部下達に声掛けをさせて正解だったようだ。
「隊長、お疲れ様でした!丁度いい時間ですし、あとは私たちにお任せ下さい!」
「ほら男性陣!気を抜かいでよ!」
「はぁ……人使いが荒いなぁ、女性陣は……」
くたびれてる男性陣を見てると、女ってかなりタフなんだなと感じさせる。悪いな男性陣、僕はこれで失礼させてもらうぞ……と言っても、見回りも兼ねての自由行動だから厳密には休み時間ではないんだ。僻んだりしないでくれよ
「じゃあ、悪いがあとのことは任せたぞ。何かあったときはいつでも連絡しろ」
『了解しました!』
と、隊員達の敬礼と返答を確認した後、僕はフロアから出た……それと同時に聞きなれた声が近づき、やがて歩みを止めた
「ご苦労だなリュウイチ、待ちくたびれたぞ」
「フュームじゃないか、わざわざ僕を待っていたのか?」
「勘違いするな、ここのベースの案内役として働いてもらうためだ」
案内役ならみぃ姉とかサツキとユマリとか他のやつに頼めば良いものを……
「僕はこれから見回りだ、お前の行きたい場所を案内する事はできないと思うぞ?」
「構わん、ちなみにお前はどの辺を回る予定なんだ?」
「とりあえず、特務執政官、一等粛正官、二等粛正官、三等粛正官のベースを巡回する予定だ」
フュームはそれを聞くと、腕組みをして少し何かを考えているような素振りをし、やがて僕に向き直った。
「できればマスターにお会いしたかったのだが……まあ良いだろう、以前会った者達や他の者達にも一応挨拶をしておかんとな」
こいつなりに仲間達に対しての礼儀を持っているようだな。流石一国の王女様だ。
「なら先ずはみぃ姉の様子を見に行ってみるか、確か第4ホールで舞台劇をやるとか言っていた」
「うむ、ではそこに案内してもらおう。行くぞ、リュウイチ」
スタスタ先を歩いてるが、案内してもらうつもりあるのかこいつは……
「そう言えば、ライザはどうしたんだ?」
「やつには私の留守を任せている、と言っても支部長代理をさせているだけで、王女としての職務は誰にも任せていないがな」
「と言うことは、現在進行形で職務を遂行しているということか?ハードだな」
「もうとっくに慣れている」
国王の仕事か、そう言えばそういうものを深く考えた事はなかったな。漠然とした想像とニュース等を見てある程度の事を見聞きしただけだ。
マスターの職務に近いものなんだろうか?
「と、ここが第4ホールだ。演劇は……ちょうど終わったところみたいだな、中に入ってみよう」
「あら、リュウイチ様!お疲れ様でございます」
ホールの入口で受け付けをしていたカズミがいつものように明るい口調で挨拶をしてきた。僕たちも軽く挨拶を済ませる
「お前も受け付けご苦労だな。フューム、この受付嬢はカズミ、ミツキの秘書だ」
「カズミか、我はフュームだ。宜しく頼む」
「こちらこそ宜しくお願い致します!」
「挨拶はこれくらいにして、本題に入らせてもらうぞ。カズミ、ミツキは中に居るか?」
「ええ、舞台裏で監修とスポットライトの調整をしておられますよ……リュウイチ様、フューム様とはどんなご関係なんですか??」
好奇心の塊の様な瞳で僕とフュームをチラチラと見てくるカズミに少々呆れながら「戦友だ」と短く返答をしカズミの期待を打ち砕いてやった。
「あら、そうでしたの……でもそしたらミツキ隊長や私たちにも希望はありますね!うふふ☆」
「はいはい……じゃあ裏方に入らせてもらうぞ」
こいつは僕に誰かとくっつけたいのか、それとも自分がくっつきたいのか相変わらず底が読めないやつだな……
「変わった思考回路をしているやつだな、ミツキの部下にしてはなかなか意外だ」
「あいつが少し特殊なだけだ、他の部下たちはそこまで変わってないぞ」
「そうか……にしてもお前はかなり人気者のようだな、ここへ来るまでの間、女達がお前を熱い眼差しで見つめていたぞ……ここにいる女たちも同じ目をしているしな」
辺りを軽く見渡したフュームは皮肉を言うような発言を僕に放ってきた……観察力のあるやつだな。痛いところ突いてきやがる……
「やかましい……お、居たな……みぃ姉!」
舞台裏で部下たちと話しをしている後ろ姿を見つけ、僕はその人物の名前を呼ぶと、みぃ姉は僕たちの方を振り向いた。
「リュウイチ!来てくれたのね!……って、なんでフューム様といるのよ……!」
「我が案内役を頼んだのだ。久しいなミツキ、元気にしていたか?」
「え、ええ。お久しぶりでございます……フューム様もお元気でしたか?」
みぃ姉とフュームはガールズトークを開始したので、僕は二人をおいて舞台裏の様子を何となく見渡した。
結構作り込まれてるな、確かに学生時代の雰囲気に似ている。この仮装衣装は……"アイスアンドホワイト"か?それとこの衣装は"フライング"だろうか?
ほお、この模造刀もリアルに作られているんだな
「リュウイチ、どうかしたの?」
「ん、いや、ここの舞台劇の事を考えていたんだ。話しは終わったのか?」
「ああ」と答えたフュームは何かに気付いたらしくスタスタとその方向に歩み寄った……何を見つけたんだ?
「この衣装は、ファレルのものか?」
ファレル?確かアイスアンドホワイトに出てくる主人公の名前だったな
「ほお、アイスアンドホワイトを知ってるのか?」
「うむ、幼い頃によくお聞かせて頂いたんだ。城の外にあまり出る事ができなかったからな、城にある絵本が我のささやかな世界だった」
なるほど……
フュームのそう話す表情は少し雲がかかっているようにどこか憂鬱そうだ。僕がそう見えただけで、他の者からしたらまた別の表情に見えたかもしれない
「……フューム様、良かったら舞台劇を観ていかれませんか?次の公演はあと30分後なのですが……」
「良いのか?」
「はい!座席の方はこちらで空けておきますので!」
ミツキの言葉にフュームは僅かに高揚したようだった、そんなフュームは僕の方をチラリと見て、何か言いたげな表情をしていたので、僕は頷いて見せる。
「……では、お言葉に甘えて観覧させて頂く……感謝するぞ、ミツキ……リュウイチ」
「ありがとうございます、良い思い出になりますわ!……リュウイチには後でたこ焼きをご馳走してあげる、良かったら観ながら食べてね!」
「それはありがたい……い、一応感謝しておく……」
僕の反応を見て、ミツキは「ふふ」とクスクスイタズラそうに微笑み、作業があるからと言ってステージ裏の奥へと消えて行った。
僕とフュームは指定された席に座り開演を待った。
「……フュームは童話とか好きなのか?」
「嫌いではない、よく絵本の登場人物に憧れていた事もあったからな。王位を継承したからは絵本を見る暇など無かったし、王たる者が絵本にうつつを抜かすのはどうかと思っているから少し複雑な心境だ……」
「良いじゃないか、お前も人の子なんだ。そういうことに憧れを抱くのは至極当然の事だ。僕だって憧れを抱いているものもある。人の気持ちや憧れを制限する事なんて、会っては行けたいことだと思うぞ」
「そうだろうか……我にそんな資格があるのだろうか?」
「もちろんだ、お前も時には大事なもののために我儘を言っても良いんだよ。お前も大きな世界の一人の人なんだからな」
『開演5分前です』
「フューム、この瞬間を思いっきり楽しんで良いと思うぞ」
そういうとフュームの表情は何か吹っ切れたような表情をして、キラキラとした眼差しで始まった舞台劇を楽しんでいるようだった……
ーー
ーー
ーー
「フューム様、御観覧頂きありがとうございました。これ……良かったらどうぞ、私たちで制作したミニキーホルダーです」
「ファレルとニーナのマスコットキーホルダーか……ふふふ、なら遠慮なく頂いておこう」
本当に、よく気が利く女だな、ミツキは。
「良かったじゃないか。いい記念になったな」
「ああ……大事にする」
フッ、キーホルダーを見ているフュームは何となく可愛く見えた、きっとあれがあいつの本当の顔なのかもしれないな。
ーー
ーー
ーー
それから数時間後、僕たちは一通り巡回を終わらせ、メインホールに来ていた。ここまでに来る官色んな場所を回った。キラたちのフロアやユキタカたちのフロア、などなど多くのフロアを巡回してきた。
案外楽しめた巡回になったな……
フュームはその間ずっと巡回に付き合ってくれたのだが……何かお礼をするべきだよな
「フューム、ここまで付き合わせて悪かったな。僕にできることであるならなんでもしてやる、できるだけな」
「ほお……いい覚悟だな……ではダンスパーティーを我と踊ってもらおうか」
ダンスパーティー??そう言えば、広告の最後の方に書いてあったな。
「それは……良いのか?一国の王女が僕とダンスなんて、変な噂がたちそうだが……」
「構わないさ、お前とならな……コホンッ
!そ、それで?どうするんだ?!」
照れ隠しが怖いんだよ、大剣を抜くんじゃない……
「……良いだろう、ただし僕はパーティー慣れしていないから、ダンスは少ししかできんぞ?」
「構わない、それで十分だ……ではドレスに着替えて来るから、ホール前でまっていてくれ。逃げるなよ?」
逃げるわけないだろう……それにしても、やはりあいつも一人の女なんだな。少し安心したかもしれない、あいつは国の事を考えなくてはいけない立場でその重責に押しつぶされるんじゃないかと思っていたからな……
……
……
そう思いながら僕はホール前に着き、辺りをぐるりと見渡す
……お、あれはフュームか?
「……待たせたな……おい、じっと見るな!切り裂くぞ」
「悪かったな」
しかし自然と目が言ってしまう大胆なドレス……
「フューム、似合ってるぞ」
「ふん、当然事だ……お前のスーツ姿も似合っているぞ……」
そいつはどうも……僕はそう言った後、作法に則りフュームに手を差し出した
「これは作法の一環だからな?……フューム、僕と踊ってくれるか?」
僕の質問に最初こそ照れたように目線を逸らしたがやがて僕手にフュームの手が置かれた。
少し震えてる様に感じるが、ダンスは初めてなのだろうか?
「……リュウイチ、こうしてお前と知り合えて我は運命に感謝している。お前のおかげで、王としてどう歩んでいけばよいか何となく分かってきたような気がする」
フューム……
「……ふ、言葉は不要だな。その誘い、喜んでお受けする……さあ、行こう」
僕たちは手を取り合いながらホールへと入っていった……
「リュウイチ、お前という存在がある事がとても嬉ししくおもう……お前がいなければずっと王室にいただろう……我を負かせたんだ、責任とってとらうぞ……一生な!」