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一つの物語【断章】  作者: 世界の一つ
ある秋のパーティータイム
12/14

ある秋のパーティータイム・ユマリ編

やっと客足が減った……先程までごった返してたフロアが少しスッキリしている。

とは言っても行列はまだあまり減っていないが、部下達に声掛けをさせて正解だったようだ。


「隊長、お疲れ様でした!丁度いい時間ですし、あとは私たちにお任せ下さい!」


「ほら男性陣!気を抜かいでよ!」


「はぁ……人使いが荒いなぁ、女性陣は……」


くたびれてる男性陣を見てると、女ってかなりタフなんだなと感じさせる。悪いな男性陣、僕はこれで失礼させてもらうぞ……と言っても、見回りも兼ねての自由行動だから厳密には休み時間ではないんだ。僻んだりしないでくれよ


「じゃあ、悪いがあとのことは任せたぞ。何かあったときはいつでも連絡しろ」


『了解しました!』


と、隊員達の敬礼と返答を確認した後、僕はフロアから出た……それと同時に聞きなれた声が近づき、やがて歩みを止めた


「兄さんお疲れ様、今から休憩?」


「やっぱりユマリだったか、僕はこれから見回り兼休憩だ。お前も休憩か?」


「ええ、だから私も見回りに付き合うわ。丁度兄さんを誘いに来たところだから」


ふむ……しかし僕の仕事にこいつを付き合わせて良いものだろうか?

そう考えていた矢先、フロアからカイが顔を覗かせて来た。


「行ってこいよリュウイチ、せっかくのレディからのお誘いなんだ、断ったら失礼だ」


「仕事に付き合わせるのは失礼に値いしないのか?」


「私は構わないわ、兄さんと過ごせるだけで嬉しいから」


「らしいぜ?俺も休憩入ったら一等と二等の粛正官フロアを見回ってくるからさ、だから……な?☆」


本当にこいつは爽やかボーイだな……まあ、ここでこいつの気遣いを断ったら返って悪いか


仕方ない……


「わかった、ならばカイはそのフロアを任せて、僕とユマリは別のフロアに行こう……一応感謝しておく」


「はは!了解っ!じゃあ、良いパーティーを!」


そう言うと敬礼をしながらカイは再びフロアへ戻って行った。

列に並んでいた客……何故か男が一人もいない女性のみの客がこちらに痛いほどの視線を向けている。


にも関わらず、ユマリはこれ見よがしに僕の意志を無視して腕を絡めて来た

騒ぎになったらどうする気だこいつ


「兄さん、どこか行きたい所ある?」


「いや、特に無いんだが、ユキタカが家でバンドの練習をしていたのが少し気になってる。多分この日のために練習してたんだと思う」


「ユキタカが……?似合わないわね」


ユマリはそう短く言い捨てた……やっぱりそう思うよな?あいつに似合わないと思っていたのは僕だけではなかったようだ。


「そうだよな、けど毎日の様にトモカちゃんと一緒に家に来て練習していたから、見に行ってやろうと思ってるんだ」


確か、二等粛正官ベースの第3ホールで合唱コンサートがあるみたいだから、ユキタカもそこでやるのかもしれないな。


「そう言えば、ハクも合唱に出るとかカイと話してたわ、二等粛正官とコラボするとか言っていたような……」


「ほお、なら少し見に行ってみるか、合唱コンサートは……16時からみたいだな」


僕はSPDでこのパーティーの案内サイトを開き、ユキタカ達がやるであろう合唱コンサートの開演時間を確かめた。


「今は14時半過ぎだから少し時間があるわね」


「だな……この近辺だと一等粛正官ベースが近いな、キラたちのやっているフロアに足を運んでみるか……ユマリはそれで良いか?」


僕の質問にユマリは「ええ」と短く返答したので僕たちはそのまま一等ベースへと歩き出した。確かキラは射的屋をやると言っていたな、少し楽しめそうだ。


「兄さんはお祭りの時、必ず絶対たこ焼き屋と射的屋に行くわよね。昔……まだ私たちが子供だった頃に、私が欲しいって言った物を取ってくれた事、兄さんは覚えてる?」


「ああ、お茶魔女のフィギュアだろ?覚えてるよ」


「あの時の兄さん、すごくかっこ良かった……そんな兄さんが取ってくれたフィギュア、今でも大事にしているのよ」


「あれが欲しいと言って泣きそうな顔してたよな、よく覚えてるぞ」


「意地悪……」と言ってユマリは顔をそむけた。

……あの時のフィギュアまだあったのか、かなり昔の物なのに……少し嬉しいな


「フッ……お、着いたみたいだぞ。ご苦労だなキラ、それにミラーも」


「あ、お疲れ様ですリュウイチ隊長!来てくれたんですね、いらっしゃいませ!」


「あら、二人揃ってデートかしら?」


「そうよ」

「違う」


何を当然のように言ってるんだユマリは……と言うかミラーも茶化すんじゃない!


「デートじゃない、見回りを兼ねてパーティーを堪能しに来ただけだ。そんな事より、射的をやりたいんだが?」


「はい!ありがとうございます、1回10発です」


どれ景品は……?

モデルガンに飛行艇のプラモデル、それに動物のぬいぐるみと車のプラモデル、他などなど……少しキラの趣味が混ざっているようだが、まあ良いか


「私も1回やってみようかしら……はい、これ……兄さん、何か欲しいものある?」


「モデルガンに少し興味がある。ユマリは何かあるか?」


「私は……あれが欲しい」


そう言って指をさしたのは、アニメに出てくる女の子キャラのフィギュアだった。あれか……相当落としにくそうだ


まあいい、やってみるか……行くぞ!


パン!パン!パン!パン!パン!


パタ……


「す、すごいリロードの速さだ……こういうのも得意だったんですね、リュウイチ隊長……!」


「あんただけよ、本気で景品を落としにかかってる人は……はい、これ景品」


「ほら、ユマリにやるよ。これが欲しかったんだろ?」


「あ、ありがとう兄さん……!まさかあんな大きなフィギュアを落としてくれるとは思わなかったわ……すごく嬉しい」


フィギュアを抱くようにして持つユマリ、本当に欲しかったんだな。


「兄さん、今度は私が取ってあげる……待っててね」


ユマリはフィギュアを片手に射的ようのコルク銃を持ち、狙いをつける。


パン!


パン!


パン!


パン!


ーー


ーー


ーー


数分後、ユマリは2回やったにもら関わらず、残念ながらモデルガンは取れなかった。


「射的って難しいのね……でも初めての体験が兄さんと一緒で良かった……」


その言い方やめろ、しかも前にも似たような事を言われた事があるぞ


「はは、残念でしたねユマリさん。リュウイチ隊長、おめでとうございます!」


「それはどうも」と返答し、キラにコルク銃を返却した。


「もうやめるのですか?まだ5発分残ってますよ?」


「ああ、目的のものを撃ち落としたからな。おかげさんで良い時間を過ごせたよ、感謝するぞ二人とも」


「そうですか、こちらこそありがとうございます!また後でお会いしましょうね」


「私たちが楽しませた分、後で倍にして返してもらうから覚悟しておきなさいよ、リュウイチ!」


フッ……はいはい

二人に軽く手を振り、僕とユマリはキラたちの射的屋を後にした。


「少し喉が渇いた、まだ時間あるしどこかで飲み物を……ん?」


なんだあの人集りは?

一等粛正官のメインホール近くまで歩いていると、何やら言い争っているもの達が視界に入った。


「兄さん」


「ああ、行ってみよう……お前たち、どうかしたのか?」


「あぁ、お勤めご苦労様ですリュウイチ様!それが、合唱コンサートの演奏者の一人が風邪をこじらせてメディカルルームで安静するようにとドクターストップがかかってしまって……それでメンバーが欠けてしまったので、実行委員からコンサートを中止するようにと言われてしまったんです……」


それはまた難儀な……


「誰か一人、補助員とかいないのか?」


僕はコンサートに出演するであろう人物に話しかけた。


「それが、他の奏者ならいるんですが、ギタリストには補助員がいないんです……あの!あなた様は特務執政官のリュウイチ様ですよね?私はリンドウと申します、突然で申し訳ございませんが、リュウイチ様の権限でコンサートの中止を撤回して頂けませんか!?みんな今日の日の為にたくさん練習を重ねて来たんです、だからどうかお願い致します!!」


リンドウと名乗る女性隊員が僕に懇願してきた。

さて、どうしたものかな……


「その演奏はギタリストが居ないとできないような曲なのか?」


「はい……ボーカリストと同じくらいの大役です……でも、どうしてもコンサートを成功させたいんです!せめて歌だけでも!」


ふむ……


「ユマリ、イブキに連絡してそのギタリストの容態を確認しろ」


「了解……こちら一等粛正官ユマリ、イブキ先生、今少し宜しいでしょうか?」


ユマリが連絡している間、僕はリンドウに再び視線を向け、話しかけた。


「そのギタリストの名前は?」


「ミユキ・ナカムラです」


僕はユマリの方を見ると、お互い軽く頷いた。


「はい、名前はミユキ・ナカムラです……はい……そうですか、分かりました。お忙しい中ありがとうございます……ダメね、今は眠っていてとても演奏できるような状態じゃないみたい」


「そんな……」と、悲痛な面持ちでリンドウはそう呟いた。他のギタリストを探すにも今からじゃとても間に合わないだろう。仮にその曲をすぐに覚えられるやつがいたとしても、そいつを探すのに時間がかかるだろうからその案も却下だな。


ギターか……


「リンドウ、その曲ってどんな曲なんだ?」


「え?あ、私たちが作詞作曲したオリジナル曲です」


「譜面は?」


「フロアに戻れば予備のがありますが……どうしてそんな事を?」


オリジナル曲の上、残り時間は約1時間……試してみるか


「すぐにその譜面を持って来い、僕が代演してやる。ギターの経験もあるし記憶力にも自信がある、他を探すより僕がやった方が早い」


「リュウイチ様が!?でも、練習するにしても時間が……」


「だから早く持って来いと言ってるんだ、それともこのまま中止を受け入れるか?」


僕がそう述べると、リンドウ達は顔を見合って決心したかのように頷き、リンドウは走り去って行った


「リュウイチ様こちらへ、練習できる場所までご案内いたします!」


「そういう事だユマリ、すまないが僕は行く」


「イブキ先生に連絡した辺りから何となくそんな気がしてたわ、その代わりにステージの一番前の席で聴かせてもらうわ、終わったら入口で待ってるから……兄さん、頑張ってね」


「ああ」と返答し、僕は練習場へと走り出した。


……本当にすまないな、ユマリ



ーー



ーー



ーー数時間後、第3ホール



「ふぃー!やったなトモカ、それにみんなも!観客の人達すっげぇ盛り上がってたみたいだし、なっリュウ兄!」


「そうだな、トモカちゃんもハクも良い歌声だったぞ。他の隊員たちの照明や演出も良かったし、これで良い反応しなかったら逆におかしいくらいだ」


観客たちからの拍手喝采を受け、何とかコンサートをやり遂げた。ユキタカたちも満足そうに笑顔を浮かべている。


「カイ君たちも来てくれてたし、本当に良かったね!一安心したらどっと疲れてきちゃった」


「そうですね、みんな楽しんで貰えたみたいで……恥ずかしいけど、とても嬉しい」


皆んな満足しているようだな、さて……僕はそろそろ戻るか

ギターを裏方のスタッフに手渡し、僕はその場から移動しようと歩き始めた。


「あ、リュウ兄!もう行っちゃうのか?!」


「ああ、人を待たせてるんでね。また後でな」


「リュウイチ様!本日は本当にありがとうございました!お陰でみんなで作った大切な曲を無駄にしなくて済みました、本当に本当にありがとうございます!!」


「コンサートを成功させたのは僕が出たからじゃない、お前たちの願いの強さが成し遂げた事だ。僕はそれをあと押ししただけさ、風邪でダウンしたやつにも伝えといてくれ"お前のお陰で笑顔にさせる手伝いが出来た、礼を言う"ってな」


「リュウイチ様……はい、必ずお伝えします!ありがとうございます!」


「あーあ、またリュウ兄のファンが増えたみてぇだな。さっすがリュウ兄だ!」


「やかましい」


戯言を言っているユキタカたちに背を向けたまま僕は歩き続けた。


ホールから出てすぐの椅子にユマリが座って待っている姿を発見し足早に近づき声をかけると、ユマリはこちらに気が付き、立ち上がるとその手には飲み物のボトルがあり、それを手渡してくれた。


「助かる。待たせて悪かったな」


「ううん、兄さんの演奏とっても良かったわ。流石兄さんね、短時間練習しただけなのにあそこまで演奏できるなんて、惚れ直したわ」


その最後の一言がなければ素直に感謝できたんだけどな


「まあ、一応感謝しておく」


「……じゃあ、感謝ついでに少しお願いを聞いてくれる?」


「抱きつくとかそういう系じゃなければ良いぞ」


釘を刺しておかないと、面倒だからな


「兄さん、私と一緒にダンスパーティーに行ってくれる?」


「ダンスパーティー?あぁ、広告に載っていたあのパーティーか」


「ええ……やっぱりダメ?」


「……良いぞ、途中で待たせてしまったその詫びだ」


「……え?本当に?」


ユマリがキョトンとした顔で聞き返してきたので、僕は「ああ」と返事をする。


「……優しい……ありがとう、兄さん……!ダンスパーティーは18時みたいだからすぐに着替えて来るわね。兄さんはホール前で待っててくれる?」


「わかった、じゃあまた後でな」


僕の返事を聞いたユマリは急ぎ足で走って行った。

……あいつ、嬉しそうな顔してたな。


それにしも、ユマリの誘いを快諾するなんて、僕自身驚きだ。ヒメカの言う通り、他者と過ごした事で僕もまた一歩前進できたのだろうか?


他者と過ごす事は進化するための過程……か


僕はヒメカの言っていた事を思い出しながらそう考えつつ、ホール前まで移動を始めた。


そして、数分後……


ホール前に着いた僕はユマリが来るのをホール前に置かれているソファーに座り待っていた。


「兄さん!ごめんなさい、少し遅くなってしまって……」


ユマリの声がした方へ目をやると、綺麗の一言しか言えないほど様変わりしていた……


「あー……言葉もでない……」


「それって悪い意味で?」


「逆だ……その……すごい似合っているぞ……き、綺麗だ」


「ありがとう」と、言って顔を赤くしながら視線を逸らすユマリ……横顔も綺麗だな


「ねえ兄さん、本当は嫌だったんじゃない?特定の人とこんな所に来るなんて……」


まあ、確かにさっきみぃ姉たちから連絡が来て相当やかましかった……けど


「こうして誰かとすごすのもたまには良い……ただし、今日だけだぞ?僕はダンスなんてする柄じゃないしな」


「そうかしら?私からしたら兄さんのダンス姿もカッコイイと思うけれど」


「そいつはどうも」


「……そんな兄さんを誰にも渡したくない」


……


「ごめんなさい……でも私、本当に幸せなの。兄さんとこうして過ごせている事が……私の家系の事も知っているはずなのに、私のそばにいてくれている事が本当に嬉しい……」


「ユマリ、そんな事気にする必要はないと前にも言っただろう?お前はお前として生きて行けばいい、例えどんな結果になろうが、僕はお前を咎めたりしないぞ……どんなユマリも兄さんが全部受け入れてやる」


「……ありがとう……リュウ君……」


「どういたしまして……さあ、そろそろ中へ入ろう……ユマリ、僕と踊ってくれるか?」


僕は作法に則りユマリに手を差し伸べた。

ユマリは一瞬驚いたようだが、すぐに笑顔になって僕の手にそっと手をおいた


「はい……喜んで……リュウ君、やっぱり私はあなたなしの人生は考えられない……幸せをありがとう……大好きよ、リュウ君……!」

















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