ある秋のパーティータイム・アカリ編
やっと客足が減った……先程までごった返してたフロアが少しスッキリしている。
とは言っても行列はまだあまり減っていないが、部下達に声掛けをさせて正解だったようだ。
「隊長、お疲れ様でした!丁度いい時間ですし、あとは私たちにお任せ下さい!」
「ほら男性陣!気を抜かいでよ!」
「はぁ……人使いが荒いなぁ、女性陣は……」
くたびれてる男性陣を見てると、女ってかなりタフなんだなと感じさせる。悪いな男性陣、僕はこれで失礼させてもらうぞ……と言っても、見回りも兼ねての自由行動だから厳密には休み時間ではないんだ。僻んだりしないでくれよ
「じゃあ、悪いがあとのことは任せたぞ。何かあったときはいつでも連絡しろ」
『了解しました!』
と、隊員達の敬礼と返答を確認した後、僕はフロアから出た……それと同時に聞きなれた声が近づき、やがて歩みを止めた
「りゅういちお兄ちゃん見っけー!わぁ、凄い行列だねー」
「アカリちゃん?自分たちの所で手伝いしなくて良いのか?」
「うん!サツキ先輩が"あとはあたし達でやるから、休憩入っていいよ"って!だから遊びに来ちゃいましたー♪」
「そうかい、でも僕はこれから見回りに行かなきゃいけないんだ。だから僕じゃなく他の誰かとーー」
「じゃあ私も一緒に行くー!」
このやろう、皆まで言わせない気か……
アカリちゃんは僕の言葉を遮るようにそう言うと、僕の腕に絡みついてきた。
「人気者は辛いですね、リュウイチ様。お気をつけてデートをお楽しみ下さい☆」
「レイ、お前は後でしばきまわす」
くそ、今日だけでもう4度目だ……
「ありがとうございます、レイさん!ほらほら、早く行こうよ、りゅういちお兄ちゃん!♪」
「おい……!」
強引に連れていかれる僕……なんか情けないぞこの光景……!
しかしこのまま拒み続けても埒があかない、それに騒げば騒ぐほど余計に目立ってしまうだろう。やむおえん……
「はぁ……分かったから引っ張るな、そして放れなさい!あまり騒ぐと周りの視線が痛いんだよ」
「ぶー……じゃあ逃げない?」
「はいはい、逃げないよ……やれやれ、本当に困ったプチデビルだな。お前は」
「またプチデビルって呼んだー!その呼び方禁止!もぉ……あ、そう言えば、サツキ先輩が自分たちのフロアに来てほしいって言ってたよ」
サツキたちのフロアに?
「あいつが?一体何の用があるというんだ?」
「さ、さあ……とりあえず行こうよサツキ先輩を待たせたら悪いし!」
何か引っかかる態度だな……まあ行けば分かるか、面倒事はさっさと消化するに限る
ーー
ーー
「"組手道場・己の武を見せてみよ!"……何だこれ……」
「サツキ先輩が考案したんだよ!本部に来る各国の強者たちと組手をしてお互いを高めようっていう素晴らしい企画なのです!パチパチパチ!♪」
うわー……入りたくないぞこんな所……
見るからに暑苦しそうで面倒そうな企画じゃないか、僕の苦手とする分類だぞこれ……
「さっ!どうぞどうぞお入り下さーい!♪」
「……お前、サツキとグルだろ」
「ぎく……」
「あっ!りゅうくんだぁ!!いらっしゃ〜い♪ アカリ、りゅうくんを連れて来てくれてありがと!」
「ど、どういたしましてー!」
やはりそういう事か……
「どうかしたの??あ、大丈夫だよ、あくまで組手だから本格的な武術大会じゃないから♪ 」
「そういう意味でしり込みしているんじゃない!こういう暑苦しい事が嫌いなだけだ、それはお前もよく知っているだろう」
「分かってるよぉ!でもでもぉ、上司として色んなフロアを見回りしなきゃいけいんでしょ??だったらあたし達が本当に適切な事をしてるかどうか確認しないとダメなんじゃなぁい??♪」
こういう時だけ思考を回転させるな、もっと日常でも思慮をめぐらせろ!
「見回りだからってわざわざ出場する必要はない、見学するだけで十分だ。それに見回りは僕だけじゃない、みぃ姉やハクだって見回り担当だからその二人に任せればいい事だ、僕の出る幕じゃない」
「もぉ、りゅうくんのケチんぼ!!良いじゃんせっかくこうして来てくれたんだからぁ!ね?お願〜い!」
お前らが無理やり連れて来たんだろうが
「そうだよりゅういちお兄ちゃん!本の10分だけで良いから参加してー!お願いします!」
そう言ってアカリちゃんは頭を下げて懇願している、サツキも手を合わせている……周りの連中もチラチラとこちらを見ており、その視線が少々鬱陶しい……
はぁ……一つ貸しだぞ
「……仕方ない、出てやるよ。ただし10分だ、それ以上は相手をしてやらんぞ」
「ありがとぉ!りゅうくん♪ スリスリスリ〜!」
「流石りゅういちお兄ちゃん、優しいー!良かったですねサツキ先輩♪」
……余計鬱陶しくなった感じがする……さっさと入るか
……
……
「で?ルールはなんだ?」
サツキのフロアに入り、その真ん中には少々小さめの舞台に畳が敷かれている。どうやらそこで組手をやるのだろう。僕は隣でウキウキしているサツキとアカリちゃんにルールの説明を求めた。
「ルールは単純、相手に一発でも打撃を与えたり、ダウンを先取した方が勝ち!もちろんプロテクターを着た状態でね!ファイト、りゅうくん!♪」
「見事勝利した方には私たちお手製の手作りトロフィーをプレゼントします!頑張ってね、りゅういちお兄ちゃん!♪」
……サツキたちのファンだろうか?二人が僕に微笑みかけると、鋭い視線が突き刺さった。
さっさと終わらせて外に出た方が良さそうだ
「先ずは第1回戦、りゅうくんVSカサハラ選手!位置について下さぁい……それでは、開始!ピーー!!」
サツキがホイッスルを吹くと同時に相手が一気に間合いを詰めてきた。お相手さんも手短に終わらせたいらい……
好都合だ
ドンッ!
「うがぁ!!」
「そこまで!!勝者、りゅうくん!♪」
『おおーー!!』
あと8分……
「ではでは第2回戦!りゅうくんVSイマイ選手!行きますよぉ、それでは、開始!ピーー!」
ーー
ーー
ーー
あと5分……と言うか何回戦あるんだ?これで6回戦目だぞ、少しは休ませろよ……て、あいつはっ!
「いよいよ最終決戦!ここまで勝ち抜いてきたりゅうくん!最後も余裕の勝利を掴み取る事ができるのか!?それでは!りゅうくんVS伯父さんことリョウマ選手!最終戦、始め!!ピーー!!」
おいおい……
「久しぶりだな、リュウイチ……またお前とこうして対峙する事になるとはな」
「まさかお前までここに出場してたとはな、サツキたちの策略に乗せられたのか?」
「ああ、ここに居たら良い友人と再会できるって言われてな……それがお前の事だったとは……」
友人ね……あいつらも上手いこと言うものだな。
「友人として認識されていたとは思わなかった、光栄だよ」
「相変わらずだな……まあ、話しはここまでにして……そろそろ始めようぜ!」
来るっ!
そう思うと同時に素早いパンチを繰り出され、僕はそれを回避しつつこちらも攻撃を開始する
「そっちも相変わらずの鋭いパンチだな、いや、前より少し鋭さが増したか?」
「フッ!そんな事言いながらサラッと避けやがって、褒められてる気がしねぇな!」
……あと3分、それまでにケリをつけられるか?
そう言いながら更に強力なパンチやキックを連続で繰り出すリョウマ。
僕はそれらを回避しながらスキを探す……
「頑張れー!りゅういちお兄ちゃん!!」
「りゅうくんも伯父さんも頑張れ〜!あ、特にりゅうくんね♪」
アカリちゃんとサツキが声援を送ってくれると、攻撃の手を止め一歩下がるリョウマ
「フンっ……少し妬けるぜ、親戚の俺よりも愛する人を応援するとは……人気者じゃねぇか」
「想いが少しばかり上回っているだけで、大切だって事には変わりないさ」
……次の一手で勝負に出るか
リョウマもその様子だ、先程より闘気が増した気がする。
行くぞ!
「うおお!!」
「はあっ……!」
僕はリョウマの鋭いパンチを受け流し、後方にまわる。リョウマは瞬時に対応し振り向きざまに攻撃をしてくるそれとほぼ同時に、僕は回し蹴りを放った
「ぐぅっ!!」
「そこまで!!勝者、りゅうくん!!♪」
おおっ!!
観客席いる連中が歓声の声を上げた。
「チ……やっぱりお前には敵わねぇな、だが久々に良い勝負が出来た……感謝するぜ、リュウイチ」
リョウマは穏やかな表情をしながら僕に手を差し出した。その手を素直に握り、握手をした。
「僕もだ、後で乾杯しよう。僕たちの再会を祝してな」
サツキの言う通り、良い友人と再会できた……少々不本意だが、まあ良しとしよう。
「それではトロフィーの授与でーす!りゅういちお兄……隊長、おめでとうございます!♪」
どうも……ほぉ、結構作り込まれてるな。流石に重量は無いが、色や形はなかなか良いものだ。
「おめでと、りゅうくん!私の声援が効いたのかな??流石ラブパワー!♪」
調子に乗るな!
「やれやれ……丁度10分経ったな、じゃあ僕はこれで失礼させてもらうぞ」
「え〜もうそんなに経った??もう少し居てよ〜」
拗ねるサツキを放っておき出入口へと歩きだすと、アカリちゃんが慌ててついてきた……まだ何か策があるのか?
「ま、後でいっぱいラブラブすれば良いかな……りゅうくん、アカリ、また後でね!!」
「ああ、またな」と返答しながら僕たち二人はフロアから出ていくとすぐ、アカリちゃんが声をかけてきた。
「りゅういちお兄ちゃん、これからどこに行くの?」
「とりあえず、ユマリたちのフロアを回ろうと思ってる。ここみたいになかなか面白そうな所があれば良いんだが」
……しまった!つい素直になり過ぎた
「……良かった、りゅういちお兄ちゃんに迷惑かけちゃったかなって不安だったんだ……楽しめたなら良かった♪」
「フン……退屈しなかったのは認めてやる。さあ、他のフロアも回ろう」
「うん!」
その後、僕とアカリちゃんは色んなフロアを見て回った。ユマリの占いフロア、ミツキたちの舞台劇、ユキタカ、トモカちゃん、ハクの合同合唱、他にも多数のフロアを見て回った。
それから数時間後
「お姉ちゃんの歌声久々に聞いたけど、すごい上手かったなぁ!ユキタカお兄ちゃんのバンドもなかなかカッコよかったし、ハクさんも綺麗な歌声だったね!♪」
「そうだな、ユキタカがあれほどバンドの腕前が上がっていたとは思わなかった……まあ、僕の弟なんだからそれぐらいこなして貰わないと一族の恥だけどな」
「あっははは!でたでた、りゅういちお兄ちゃんの上から目線!……でも何となくだけど、りゅういちお兄ちゃんに少し同感できるかも」
悪かったな、上から目線で
……なんだろう、今のアカリちゃんの雰囲気が穏やかに感じる。いつものサツキ並のやかましさがあまり感じられない
「……ん?どうしたのりゅういちお兄ちゃん?」
「いや、さっきと雰囲気が変わったなと思ってな。初めはいつもよりやかましかったが、今は……そうだな、トモカちゃんに似ていてお淑やかな感じがする」
「ちょっと!?やかましいってどういう事!?」
「気にするな」と、微笑を浮かべながら答えた。
……アカリちゃんは最初こそ怒った表情をしていたが、それもすぐに消えて今度は少し複雑そうな表情になった。
「……りゅういちお兄ちゃん、私と居る時とサツキ先輩たち居る時、どっちが楽しい??」
……?
「ごめん、ただ少し気になって……」
「お前の中で何があったのかは分からないが、僕からしてみればお前と居る時もサツキ達と居る時も大差変わりない。それがどうかしたのか?」
「そうだよね……でも……ううん、だったら……私も大切にしてくれてるってこと?」
なんだ?さっきより表情が暗くなった気がする……いや、間違いなく変わってる
「……大切にしてるつもりはない、全ては僕が平穏に過ごせるために行動している。お前たちをどうとか思ってはいない」
「大切にしてるよ……サツキ先輩からたくさんりゅういちお兄ちゃんの良いところ聞いてきたもん!……サツキ先輩と居る時のりゅういちお兄ちゃんの顔、呆れつつもすごくリラックスしてる顔してるよ」
そんなつもりはないんだがな……
「私がいたら邪魔かなとか、りゅういちお兄ちゃんとサツキ先輩が幸せで良いと思ってた……でも少しだけ羨ましいなって……」
「……」
「……あのさ、18時にダンスパーティーあるの知ってるでしょ?」
あの広告の最後の方に書いてあったあれか?
「ああ、知ってるぞ」
「……良かったら……ううん、せめて今日だけは甘えさせてほしい!だから、私とダンスパーティーで踊りませんか!?」
……
「アカリちゃん、何かあったのか?僕でよければ話聞くぞ?」
「それは言えない……私はりゅういちお兄ちゃんの妹みたいなものだから……でもだからこそ、今日だけでも甘えたいの……お願いだよ、りゅういちお兄ちゃん……」
アカリちゃんは明らかに切迫しているように感じる……それは僕が関わっているのであろう……
……でもな
「アカリちゃん、少し落ち着け。そんなに卑屈にならなくていいんだぞ?僕はアカリちゃんを蔑ろにするつもりはない、これからもずっとな」
「……じゃあ、せめて今日だけは素直に自分の気持ちを言っても良い?」
「ああ」と答えるとアカリちゃんは泣きそうな顔をして僕を見つめた。
「……りゅういち……さん、私に思い出を下さい。りゅういちさんと思い出を作らせて下さい……だから一緒に踊りませんか?」
……少し背伸びしてる感はあるが……
「……今日だけだぞ、それでも僕は特別視する事はできないが、それでも良いか?」
「うん!!りゅういちお兄ちゃんと思い出作れるなりそれでも良い!♪」
もしかしたらアカリちゃんは僕より成長しているのかもしれないな。ヒメカが言った通り、こういう事が人の成長につながるのかもしれない。
「じゃあ、私ドレスに着替えなおしてくるね!第1ホールの前で待ち合わせで良いかな?」
「それでいい、待ってるよ」
アカリちゃんは満面の笑みで頷き、すぐに更衣室へと走り出した。
僕も移動するか……はぁ、後でミツキたちから何か言われそうだな……
それから数分後、僕は第1ホールでアカリちゃんが来るのを待っている。案の定ミツキたちから連絡があったが、軽く説明してなんとか、宥めることができた……やれやれだ。
「お、お待たせ、りゅういちお兄ちゃん……」
これはまた……と言うか最初に着ていたドレスと違うじゃないか
「……だいぶ……その……大人びて見える」
「そ、それって褒め言葉?私ってそんな魅力なかったの!?」
「はは、少し言い方が悪かったな……似合ってるし綺麗だぞ、良いセンスだ」
僕がそう答えるとアカリちゃんは頬を染め照れくさそうに視線を逸らした。
「あ、ありがとう……りゅういちお兄ちゃんもカッコイイよ♪」
「それはどうも……さあ、踊りに行くか……と、違うな……アカリ、僕と踊ってくれるか?」
一応作法にのっとって僕はアカリに手を差し伸べた、そしてアカリは顔を真っ赤にし、やがて僕の手にそっとアカリの手が触れた。
「はい!喜んで!♪ ……りゅういちお兄……りゅういちさんとこうして過ごせてすごく幸せだよ、私はまだまだ子供かもしれないけど……変わって行くの……でも一つだけ変わらない事があるんだ……私はそれを大切にしていく……ずっと、ずっと、ね!!♪」
「そうか……なら僕が見守ってやろう、アカリの成長過程をな」
「うん!よろしくね、りゅういち……さん!♡」
「はいはい……さあ、踊りに行くぞ!」
……
……
……