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何だかよく分からない。唐突で意味不明な意思表示だが、とにかく突然事故で死んだという事だけは覚えている。

本当によくあるシチュエーションだが、その事故のせいで明らかに自分の体が殺人鬼も目を背けるほどのグロ展開になっているため詳細は省く。

とりあえず、その後に僕は目が覚めたのだ。

ここは何処だろうか。僕が目を覚ますとそこは大きなお城の建物だった。

そこは問題ない。だが、何かが決定的に間違っている事に僕は何も言う事が出来なかった。

「おぉ、勇者よ目覚めたか。」

等というテンプレにも程がある言動をこの僕に吐きつけた王様はどう見てもドット絵だった。

有名なRPGによく見かけるその単純な絵柄。

周囲の建物もよく見るとほぼ四角形の集まりになっており、ある意味今風のゲームデザインにも近い所はあるのだが・・。

「今、自分が何処に居るのかわかるかな?」

首を振った。

「ふむ。そうだろう。この世界は、とある邪悪な魔王によって全ての人間や物をドット絵にされてしまった場所なのじゃ。」

他の兵士等も、何処を見てもリアルな人間を見る事はできなかった。

「古典的な話だと思うだろう?」

「そうですね。帰っていいですか?」

「駄目じゃ。それに帰るといってもどう帰る気じゃ?」

「えっと。どうして僕はここに居るのです?」

すると、目の前に別の人間がやってきた。魔法使い風の人間だが、やはりドット絵である。

「それは私から話そう。私はマリガン、この城の宮廷魔術師だ。貴方は私が召喚したことでこの世界に留まって居る、そういう単純な話だということを理解してもらいたい。」

「貴方が、この世界に呼び出したんですか?」

「方法としては、魂はまだ健全ではあるが肉体的には木っ端みじんに粉砕されているタイプの死人を呼び寄せる事だ。」

かなり嫌な事実を知ってしまったが、それはつまりこの世界に適応できるレベルで前の僕はぐちゃぐちゃになっていたらしい。

「うぐぅ。」

「何を泣きべそかいている。もう少し勇者らしくしろ、いや男らしくしろ。」

「それで・・どうして僕が勇者なんです?」

「それが一番の問題でな。私が試した魔法は、この世界では十分に優位に立てるポテンシャルを秘める魂、ようは設定を用意できる存在を召喚する事なんだ。今、君のステータスを見て見たまえ。」

そう言われて、僕はイメージでステータスを開いた。


名前:勇者ユート レベル:1

と、期待してはいたが実際の所最初からレベル1という妥当な能力値だった。

「別に最初からチートじゃないじゃん。」

「馬鹿を言え。私たちは皆レベルが固定値なんだ。むしろ伸びしろがある気様こそが我々にとって勇者と見なす事ができる存在なんだ。」

「はぁ、固定値・・。」

そういえば、サブキャラは確かに基本的にはレベルが固定値だった気はする。

「我々は基本的には無力な存在だ。それだというのに、あの邪悪な魔王によって私たちはこのような姿にされてしまっている。しかもお姫様まで奪われてしまうとなると、もはや我慢の限界だからな。」

「他に強い人は居ないんですか?」

「強い人ならちゃんと戦っているが、数は少ないからな。むしろ勇者が頑張ってレベルを99まで上げて魔王を倒してくれれば話は速い。」

レベルを99まで上げる前提でクリアを迫られるのは少し面倒くさすぎるような気はした。

「それは分かりましたけど。そのお姫様は助けないといけないんですよね。」

「そうじゃな。もし、魔王を倒してくれればそのお姫様を助けてくれても構わんが・・。」

王様は何故かはっきりしない様子であった。

「どうかしたんですか?」

「いや、その。わしの娘であるフレアにはかなり嫌われていてな。王様なのに臭い!とか言われて、魔王に連れていかれるときも・・。」

「あぁ、分かりました。もういいです。」

そっとしておこう。とりあえず、僕は自分がやれる事をやればいいのだ。

「それで、仲間は?」

「今呼ぼう。君たち、入り給え。」

王様の号令に従い、三人ほどの男女が入って来た。

「戦士コリキだ。レベルは4だ。」

「えっと、そ、僧侶レアナです。レベルは・・5です。」

「・・・盗賊ココ。レベル1」

「あの、王様?」

その三人の適当過ぎる紹介のせいで、僕は非常に不安な気持ちを抱いてしまった

「最初からレベルが強い人たちとは組めないんですか?」

「残念だが、はっきり言うと人手不足だ。魔物の卑劣な略奪行為によって国は今も貧窮しているのだからな。戦える奴は皆外に出て行っている。つまり、勇者よ。君の力が頼りじゃ。」

8bitのくせにかなり酷い参上になって居るのはちょっと悲しくなってしまった。

「一応金と武器は用意してやる。1000ゴールドもあれば宿には困らないだろう。」

そう言われたが、正直な所このまま本当にストーリーが成り立つのか疑問ではあった。



「うぅ、外に出るの怖いよ・・・。」

「大丈夫だ。俺たちには勇者という力強い存在が居る。彼のサポートをすることが今一番大切な事だ。」

「・・・。ねぇ、何で二人は私を捕まえながら意気投合しているの?」

これから先外に出てみる事にしていたが、レアナはかなり怯えている様子ではあった。勇者であるユート以外はレベルが上がらない仕様になっているため、これから先この人たちとは別れることにはなるだろう。

後、何故レアナとコリキがココを捕まえているかというと、正門に来る前に空き巣をしようとしていたからだ。

いくら8bitの世界だからといって、この世界で物を盗んでいいわけが無い。

それは勇者も例外ではなく、勝手に家の中に入ってきて壺を破壊するような行為はただの強盗だろう。

「ココの盗癖はちょっとやばくないか?」

「私も注意はしていたんですけど。ココはその、育ちが貧乏なのでよく盗みを働いていたんだそうです。」

「しかも盗賊スキルのせいで、盗みは非常に長けてしまっている。だから、君も油断しないようにしてほしい。」

それはそうだが、しかし魔物相手に盗む行為は可能だろうか。

「ココは戦闘経験はあるのか?」

「無い。盗み専門。」

「何であの王様はココを仲間にさせたんだ・・・!!?。」

その疑問に解答できる存在はここには居なかったため、その叫びはただ風にかき消されるだけだった。


外に出る。ローザンブリアという王都から西へ行く事が最初の旅路となっている。

魔王が存在している場所は最も北に存在する浮遊島らしいが、そこまで行くにはかなり時間がかかりそうだ。

「広さだけはリアルだな・・。」

「というより、広さだけはそのままでこの世界全てがドット絵にされてしまったんですよね。ですが・・問題はこれからです。」

「ん?何か問題があるのか?」

「あぁ。魔物という奴はどうも悪趣味な連中らしい。」

コリキもレアナも神妙な感じだった。

ふと、目の前に何かが近づいてくるのを感じる。多分、その正体は魔物だろう。

持っていた剣を構えたが、重さはある割に見た目がドット絵のため緊迫感がかなり低いのは悲しい。

「あ、人間だ。」

「人間発見。」

二匹の魔物が喋った!?といっても、相手はスライムのような見た目の魔物なのであまり緊張感は無い。

これなら余裕で倒せそうだが、他の三人はそれでも身構えていた。

「ぷーくすくす。」

「ん、何を笑ってるんだ?」

よく考えれば、スライムの方はむしろリアルに見えていた。

「あの人間たちもこの姿だと弱そうだね。」

「これなら僕たちでも簡単に倒せそう。」

「・・・・・・・。」

一瞬ぷちんってなりそうだったが、所詮相手はスライム。怒ったところで仕方が無い。

「ど、どうしましょう。私たち、スライムに笑われています!」

「案ずるな。注意深く戦えば死ぬ事はない。」

「あー。」

レベルが上がらないため他の二人にとってはむしろスライムでも強敵扱いになるんだなとやっと理解していた。しかも見た目がドット絵なので普通に馬鹿にされている。

「私・・逃げていい・・?」

「くっ、見た目がリアルだったら今の声で十分萌えたのに。」

「私、勇者にセクハラ発言受けた・・。」

「えっと、え?もしかして一番空気読めてないの僕!?」

他に誰が居るのだろうか。

そのまま戦闘は始まり、スライムの突撃を僕を含め四人は回避する。

殆どココは逃げてばかりで、僕とレアナ、コリキが戦う事になってしまった。

そのスライム二匹を倒すと、ピロリンと謎の効果音が発生したのでステータスを開いてみる。

現在、ユートのレベルは2に上がっていた。最初の内は上がりは早い方なのだろう。

「凄いです勇者様!まさか目の前でレベルの上昇を見れるだなんて。私、羨ましいです!」

「えっと。それはいいけど。この世界で死んだらどうなるの?」

「え?」

いきなりの質問なので、レアナは目を点にしていた。いや、ドット絵なので最初から点にしか見えないが。

「だから、魔物にもし倒されたらどうなるのか聞きたいんだけど。」

「何を言ってるんですか。倒されたら文字通り死ぬんですよ?勇者様、何を寝ぼけた事を・・!」

「・・・・。」

どうやら、この世界では魔物に倒される事はそのまま死亡を意味するらしい。

それなら何であの王様はココを勇者の仲間に選んだのかマジで聞きたいが、今はこの状況を頭で理解するのに精いっぱいだった。








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