9 合体
このお話は魔王視点です
くそう。
なんて強さなんだ。
まったく歯が立たない。
予はみっともなく地に這いつくばり、ゲホォと血反吐を吐き散らかしている。
ジジィが「弱ぇぞ! もっと本気を出せ」とか好き勝手ほざきながら、ドカドカ蹴りまくってくる。
65535もあったHPも、あとわずかになっている。
なぜだ!?
どうして?
何やら勇者の額に炎の紋章が浮き出てきてから、この逆転劇が起きている。
覚醒した勇者が強いのなら、辛うじてまだ理解できる。
奇跡の力で凄いことが起きているというのなら、まだ納得がいく。
なのに、何故だ?
どうしてモブキャラのじじぃが、勇者を差し置いてこんなに強いのだ!?
「弱ぇぞ! なんたる弱さだ!」と言いながら、蹴りまくってくる。
奴の軽い蹴りだけでHPが500も削られた。
げぼはっ。
「お、おい、魔王……」
「だ、誰だ?」
「私は死神だ」
「し、死神……? どこにいる?」
「我々の会話が、モブジジィに聞かれたらまずい。だから私はお前の脳に直接語り掛けている。私の事は、この世界の管理者と思ってもらったらいい。今、お前に死なれたら、色々と困るんだよ」
「んなことを言われても……。モブのジジィ。あいつはどうなっているんだ? 強すぎるじゃねぇか! 管理者だったら理由を教えろよ」
「すまない。私は誤ってゲームの達人を召喚してしまったみたいなんだ」
「は? なんだ、それは?」
「この世界を狂わせるのは勇者や賢者ではない。ゲームの達人だ。我々はゲームの達人が番狂わせをすることを学んだ」
「我々?」
「裏方のことは気にしなくていいから。それよりか、よく聞いてくれ、魔王。私には、とっておきの秘策がある」
「早く教えろ!」
「合体だ!」
「は?」
「私と合体するのだ。私は管理者、お前はラスボス。この二人が融合することで、圧倒的な強さを手に入れることができる」
「……奴に勝てるのか? だがお前と合体すると俺の精神はどうなる?」
「分からない。統合されるのか、一人の中に二つの意思が生まれるのか……。これは本来ヴェネザードクエスト2で実装される機能だから、まだ詳しく発表されていないのだ」
「いいのか? それはまだお披露目したらダメな技術なんだろ? ヴェネザードクエスト2を予約した子供たちが悲しまないか?」
「その前に我々がモブキャラにやられたら、前作の冒険すら始まらず、勇者をプレイしている良い子のみんなは怒り出すぞ!」
「良い子のみんながブチ切れたらどうなるんだ!」
「売上が伸びず、アマゾンとかに酷評されて、ヴェネザードクエスト2の発売は中止になる」
「なんだと? それはかなりヤバイことなんじゃないのか?」
「そうだ。発売中止ということは、すなわち我々にとって世界の滅亡を意味する」
「そうか……。あのモブのジジィこそ、諸悪の根源か」
「そうだ。魔王。我々はヴェネザードクエスト2を良い子のみんなに届けるためにも、モブジジィを葬らなくてはならない。そのためには……」
モブジジィは「とどめだ! くたばりやがれ!」と叫んで、両手に強大な魔法弾を生成した。
あれを浴びればひとたまりもないだろう。
予に選択肢はなくなった。
「あんたと合体するしかないというのだろ? 分かったぜ。死神」
「魔王よ、今こそ、合体だ!」
「おう! 死神!」
その声と同時に、予は強大な光に包まれた。