5 未来
まだ幼さの残る爽やかな表情。
ボサボサだが活力を感じさせるショートカット。
少年漫画の主人公のようなまっすぐとした瞳。
こいつこそ勇者。
そして俺の未来を奪う悪魔の子だ。
そんな悪なる存在が、俺の前で剣の稽古をしている。
「師匠! これでいいですか!?」と言いながら、汗を流している。
どうでもいいよ。適当に振っとけば。
それよか、早くこいつを抹殺しなければ、俺の死亡イベントがもれなく発生してしまう。
死神に監視されているので、殺すタイミングがつかめない。
今日も死神は木陰に隠れて、俺を見張っている。
吹き矢とか口に加えているし。
そうこうしていると魔王が復活して、あのイベントが発生してしまうじゃねぇか。
「ククク。ここにいたのか!? 勇者よ」
上空から凄まじい轟音を感じた。
見上げるとそこには魔王がいた。
いつの間にか辺り一帯にはモンスターに囲まれ、そして炎に包まれている。
そして魔王は指先から「死ねぃ」と叫んで魔法を発射。
「危ない!」と言いながら、俺はよけた。
勇者をかばうことなく、よけたのだ。
まっすぐ、ジャンプしたんだ。
懸命に。
それなのに。
魔王の放った光線は俺の胸を貫通した。
「ぐああああ!」
「師匠―――――――――――――――!!!」←勇者
俺はよけたんだ。
なのに、どうして俺に当たる!?
「し、師匠。ど、どうしてぼくの盾に……」
いや、よけたんだよ。
こうなることは知っていたから。
狙いは、勇者だし、普通にボーとしていても当たらないはずなのに。
更にプラスアルファでよけるという行動を付け加えたんだよ。
なのに、どうして俺に当たる?
「ぐふ……」
「し、師匠。動いちゃ駄目です。じっとしていてください」
いや、ほっといたら死ぬのよ。
治療とかしてくれんの?
「ゆ、ゆるさないぞ!! 魔王!!!」
俺の治療が先だろ!
あ、勇者の額に伝説の炎の紋章が……。
「ど、どうしたんだろ? 全身に力が! 師匠、これはいったい?」
はい、覚醒したのですよ。
ストーリー通りね。
視界がだんだん暗くなる。
師匠、見ていてくださいとか言っているけど、もう無理なの。
*
「は!?」
「ヴァルドさま! ヴァルドさま! 大丈夫ですか? 随分とうなされていましたよ」
まただ。
また、あのおぞましい夢を……。
そうなのだ。
あの日以来、俺は毎晩のように悪夢に襲われるようになった。
早く何とかしなくては、夢の通りになってしまう。
リーザを見た。
心配そうに俺を見ているが、勇者の嫁3に成り下がってしまうんだ。
その前に食っちまうか。
「おい、リーザ。わしと結婚しない?」
「え? 急にどうされたのですか?」
「ダメか?」
「い、いいえ。なんといいますか、ご冗談ですよね? 私をからかって遊ばれいるんですよね?」
「ガチで聞いている。ダメなのか?」
「あ、あのぉ……」
「もしかしてキサマは、わしに拾われた恩を忘れてたわけではないだろうな?」
「どんでもございません。片時たりとも、ご恩を忘れた日などございません」
「じゃぁ、答えは? わしと結婚するか? もしNOと言ったら分かっているよな?」
「分かりました。ヴァルドさまと結婚します」
「結婚させてくださいだろうが!」
「あ、はい。申し訳ございません。結婚させてください」
「心がこもっていない。もう一回! ちゃんと頭を下げて言うのだ! ほら、ちゃんと土下座して、三つ指ついて」
リーザは俺にお願いしてきた。
「仕方ない。そこまで言うのなら、結婚してやろう」
亡くなったばあさんにやった結婚指輪を、白くて細い指にはめた。
そして、肩に手を置き抱きしめた。
ふくよかな胸の感触を感じながら、頭を撫でてやった。
「泣くな。これからもしっかり可愛がってやるぞ」
「……あ、はい……。よろしくお願いいたします」
よし。
勇者の未来を一つ奪ったぞ!