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5/10

5 未来

 まだ幼さの残る爽やかな表情。

 ボサボサだが活力を感じさせるショートカット。

 少年漫画の主人公のようなまっすぐとした瞳。


 

 こいつこそ勇者。

 そして俺の未来を奪う悪魔の子だ。



 そんな悪なる存在が、俺の前で剣の稽古をしている。



「師匠! これでいいですか!?」と言いながら、汗を流している。


 どうでもいいよ。適当に振っとけば。

 それよか、早くこいつを抹殺しなければ、俺の死亡イベントがもれなく発生してしまう。

 死神に監視されているので、殺すタイミングがつかめない。

 今日も死神は木陰に隠れて、俺を見張っている。

 吹き矢とか口に加えているし。

 そうこうしていると魔王が復活して、あのイベントが発生してしまうじゃねぇか。


「ククク。ここにいたのか!? 勇者よ」


 上空から凄まじい轟音を感じた。

 見上げるとそこには魔王がいた。

 いつの間にか辺り一帯にはモンスターに囲まれ、そして炎に包まれている。


 そして魔王は指先から「死ねぃ」と叫んで魔法を発射。


「危ない!」と言いながら、俺はよけた。

 勇者をかばうことなく、よけたのだ。

 まっすぐ、ジャンプしたんだ。

 懸命に。


 それなのに。


 魔王の放った光線は俺の胸を貫通した。


「ぐああああ!」


「師匠―――――――――――――――!!!」←勇者


 俺はよけたんだ。

 なのに、どうして俺に当たる!?


「し、師匠。ど、どうしてぼくの盾に……」


 いや、よけたんだよ。

 こうなることは知っていたから。

 狙いは、勇者だし、普通にボーとしていても当たらないはずなのに。

 更にプラスアルファでよけるという行動を付け加えたんだよ。

 なのに、どうして俺に当たる?


「ぐふ……」


「し、師匠。動いちゃ駄目です。じっとしていてください」

 

 いや、ほっといたら死ぬのよ。

 治療とかしてくれんの?


「ゆ、ゆるさないぞ!! 魔王!!!」


 俺の治療が先だろ!

 あ、勇者の額に伝説の炎の紋章が……。


「ど、どうしたんだろ? 全身に力が! 師匠、これはいったい?」


 はい、覚醒したのですよ。

 ストーリー通りね。

 視界がだんだん暗くなる。

 師匠、見ていてくださいとか言っているけど、もう無理なの。



 *


「は!?」


「ヴァルドさま! ヴァルドさま! 大丈夫ですか? 随分とうなされていましたよ」


 まただ。

 また、あのおぞましい夢を……。



 そうなのだ。

 あの日以来、俺は毎晩のように悪夢に襲われるようになった。

 早く何とかしなくては、夢の通りになってしまう。


 リーザを見た。

 心配そうに俺を見ているが、勇者の嫁3に成り下がってしまうんだ。

 その前に食っちまうか。


「おい、リーザ。わしと結婚しない?」


「え? 急にどうされたのですか?」


「ダメか?」


「い、いいえ。なんといいますか、ご冗談ですよね? 私をからかって遊ばれいるんですよね?」


「ガチで聞いている。ダメなのか?」


「あ、あのぉ……」


「もしかしてキサマは、わしに拾われた恩を忘れてたわけではないだろうな?」


「どんでもございません。片時たりとも、ご恩を忘れた日などございません」


「じゃぁ、答えは? わしと結婚するか? もしNOと言ったら分かっているよな?」


「分かりました。ヴァルドさまと結婚します」


「結婚させてくださいだろうが!」


「あ、はい。申し訳ございません。結婚させてください」


「心がこもっていない。もう一回! ちゃんと頭を下げて言うのだ! ほら、ちゃんと土下座して、三つ指ついて」


 リーザは俺にお願いしてきた。


「仕方ない。そこまで言うのなら、結婚してやろう」


 亡くなったばあさんにやった結婚指輪を、白くて細い指にはめた。


 そして、肩に手を置き抱きしめた。

 ふくよかな胸の感触を感じながら、頭を撫でてやった。


「泣くな。これからもしっかり可愛がってやるぞ」

「……あ、はい……。よろしくお願いいたします」



 よし。

 勇者の未来を一つ奪ったぞ! 

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