4 死神
窓の外に人影がある。
あのクルクルロールは、俺をこの世界に連れ込んだ張本人だ。
俺と視線が合うと、コンコンと窓をノックしてきた。
不機嫌そうに眉根を寄せている。
なんか面倒な予感がする。
「リーザ、ちょっと待っててくれ」
「あ、はい」
俺は家から出ると、死神に声をかけた。
「何か用か?」
「用もなにも、あんた、今、勇者を殺そうと考えていたわよね」
「……なんでそう思うんだ?」
「なんとなく」
これから奴の家系を一人ずつ抹殺していく予定だ。
隠していてもいずれバレる。
「ククク。よく分かったな。俺はこれから勇者一家を皆殺しにする」
「ダメよ! 何考えているのよ、あんた! あんたはこれから幼い勇者と出会い、勇者に人の道と剣術を教えて、彼に慕われるという重要な役職なのよ! そしてあんたは勇者にとってかけがえのない人になるのよ。分かっているの!」
「あぁ知っている。その後の運命もだ」
「ギクリ」
「いま、やばいと思っただろ? 俺がこのままちゃんと真っ当なストーリーを進めていたらどうなるかくらい知っている。俺は勇者の中で永遠たる者へと昇格するんだろ? 勇者がピンチになったら俺との日々をセピア調のモノローグで思い出して、師匠……どうしたらいいんですか? てな具合の勇者の回想シーンにのみに出現するレアキャラに成り下がってしまう。だったらその前に手を打って何が悪い!」
「悪いわよ! 勇者がいなくなったら誰が魔王を倒して、誰が世界を平和にするのよ?」
「知るか! だってその平和になった世界に俺はいねぇじゃねぇか! そんなの興味はないわ!」
「だからって駄目よ。そんなことをされたら、私が怒られちゃうじゃない」
「知るか!」
「察してよ。これでも色々大変なんだからね」
「だからって俺を見殺しにしていいのか?」
「ちょっとくらいは悪いって思っているわよ」
「ざけんな! 反省するなら、それなりの態度で示せよ!」
「だってあんた、ゲームの達人なんでしょ? 自分が死んじゃうイベントくらい、そのゲームテクニックでなんとかしてみなさいよ」
「だからこうやって事前に勇者を葬って、イベント回避をしようとしてるんじゃねぇか! このゲームに自由度はないのかよ! パッケージには感動のフリーシナリオシステム搭載って書いてあったぞ?」
「そう書いた方が売れるからね」
「お前ら詐欺集団か!?」
「……お願い、勇者だけは、殺さないで……」
「その家系は?」
「なるべく生かしてあげてください。お願いします」
「ヴァルドさま……」
振り返るとそこにはリーザの姿があった。
指を組んで、何とも言えない苦悩の表情で俺を見つめている。
「ヴァルドさまは、勇者暗殺をお考えなのですか……? 私は、どうしたら……。ヴァルドさまが殺れと言うのでしたら、私は……」
リーザは涙を流している。
俺の嫁キャラが泣いている……
「ハハ。わしがそんな物騒なことをする訳ないじゃん。わしは紳士なナイス騎士じゃよ。アハハハ」と口では言いつつ、横目で死神をガチで睨んだ。
くそったれ、死神め。
別の方法で生き抜くしかなくなったじゃねぇか。