ようこそ、チルドレン教会へ!
「……嘘だろ?」
15歳の夏、今日は俺の誕生日で、仲のいい友達に祝ってもらいたくさん遊んだ後、帰って家族にも祝われる!最高の1日になる予定だった。なのに、帰ったら村は壊れてるし、壊したんだろうドラゴンはまだ暴れてるし!とりあえず町の外れにある家を目指して崩壊した町の中をドラゴンに見つからないよう隠れながら走る。あちこちから煙が出ていてむせそうになる。燃えている家もあって、顔に熱気が迫る。
なんで誕生日にこんな思いしなきゃいけないんだよ!瓦礫でかすり傷はつくし…熱いし…町の人達は逃げれたみたいだけど母さんは大丈夫か?まだ逃げれてないなら助けないと…!
今から約3000年前、この世界は機械を使う国、薬を発明する国、魔法を使う国、様々な文化に生きる国で別れていた。国同士仲が悪く、文化を認め合うことはなく、手を取り合うこともなかった。このまま世界は互いに塞ぎあっていくはずだった。突然に世界は変化した。人口が減り、大地が割れ、他の大地と組み合わさり、全くもって別の世界が誕生した。別れていた文化、言葉、人種が混ざり合い、独自の国を作り上げていった頃、存在するはずのない生き物達が人を襲うようになった。今までの砲弾や兵器は効かない、倒し方が分からない。人類は少しずつ減っていった。そこに終止符を打ったのが[教会]と呼ばれる少人数の団体。教会は魔法を使い、襲ってくる生物から世界を救った。それからというもの教会に所属する人が増え、世界各地に教会ができ、世界は落ち着いたのだ。
ドラゴンから隠れつつ後ろをこっそり振り返る。村の近くの教会と言えば、馬車で3時間はかかる場所にある。まだ時間がかかるだろう。
ギャォォォーーーっ!
吼えるドラゴンの口から炎が出て町が燃やされていく。
自分にあいつを倒せたら!そんなことを思うも自分にドラゴンを倒せるような力はないし、今は家に行くことが先決だ。
角を曲がる。そこには赤い屋根の家があるはずだった。だが、俺の目の前にあるのはただの残骸。赤い屋根なんてものはない。所々崩壊しており、中が丸見えだ。とうてい家と呼べるような代物ではない。
「……嘘だろ?」
軽い絶望感に襲われるが、頭は正気を保とうと必死に考えを巡らせる。
別に、家ならまた建てればいい。少しお金はかかるけど俺の家はそこまで貧しくないし、人並みの貯金はある。それより、まだ母さんが家の中ぬいるかもしれない。
そんな考えで崩壊してる家の隙間から家の中に入る。そこに母さんはいた。正しくは母さんだったものがいた。服は敗れ、血を流したのか、赤黒いシミが床にはついていた。駆け寄り触ってみる。身体は冷えていて、もう動くことはないと、分かってしまう。力が抜けて座り込んでしまう。
「…あ、ぁ、あぁぁぁぁぁあぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
空気が震え、負の感情を乗せた声を周辺に響かせた。声を出したら家と母さんをただの塊にしたであろうドラゴンが気づく、そんなことはわかっていた。でも声に出さずには入れなかった。父さんは俺が小さい時に仕事で死んでしまった。親戚なんているかも分からない。俺の家族は母さんだけだった。それをその家族を母さんを、俺は誕生日という祝福されるべき日に奪われた。これからどうしろていうんだよ。
フーッフーーーッ!グギギギャオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!
俺が先程あげた叫び声に気づいたドラゴンが家に空いた穴からこっちを睨みつけていた。
「あー、俺もここで終わりか…母さんと父さんのところにいけるなら、それもいいかもな。でもさ、誕生日が命日ってなんだよ。もう少しだけ、楽しませろよ。空気読めなさすぎだろ。」
視界が歪んでいく。
ドラゴンが家の上半分をつめでなぎ飛ばす。
今殺してやるからな、とでも言うように、鼻息荒く、近づいてくる。
「死んだらどこに行くんだろ。死後の世界的なところか?だったらいいな。父さんと母さんにも会えるかもだし……はは…」
波が少しずつ流れていく。
ドラゴンが口を開け、鋭い牙を近づけてくる。噛みちぎられるのだろう。
「誕生日なのに、悲惨すぎるな。来世は長生きできますように。」
目を瞑った時、声が聞こえた。女の子みたいな、可愛い声。
「誕生日なの?おめでとう!それと死のうとしてるとこ悪いけど、君はまだ生きるよ〜。というか、生きてもらわなきゃ私が困る!来世も今世も長生きしようねっ!」
明らかにこの場には合わない声に涙は止まった。ドラゴンが吼える。ザシュッと音が聞こえて温かい物が体に降り注ぐ。目を開けると、衣服に赤い液体がついていて、俺を噛みちぎろうとしていたドラゴンは傷つき倒れていた。俺についた血はドラゴンのか…。早く服を洗いたい……
「あー、血ついちゃったかな?ごめんね。もっと気をつければ良かったね。」
声の方へ顔を向ける。
ドラゴンの顔の上に女の子が座っていた。
「このドラゴン倒したのは君?」
こんなに細い少女に倒せるはずがないと思いつつ聞いてみる。
「うん。私。自己紹介まだだったねー。
私は、チルドレン教会に所属してるリル。
リル・スプリト。よろしくね!君の名前は?」
「俺はテムル・ミラー。よろしく。助けてくれてありがとう。」
「どういたしましてー。ところでテムル君、ここは君の家だよね?……倒れてるのはお母さんかな。お父さんはいる?」
リルと名乗った少女は教会からきたらしい。ドラゴンを倒せたのも納得だ。リルは俺の母さんを見ると少し気まずそうに尋ねてきた。
「あぁ、倒れてるのは母さんだ。もう助からないだろうな。父さんは俺が子供の時に死んだよ。」
「…そっか。お母さんのこと、間に合わなくて本当にごめんなさい。……あの、テムル君。行くところがなかったら、うちに来ない?良ければ、だけど…。」
リルは頭を下げて、謝罪を述べた後、俺に話しかけてきた。俺としては、帰るところは無くなったのでありがたい提案だった。
「ここは教会から離れてるし、教会が来るのが遅れるのは仕方ないよ。母さんのことは残念だけど、君が謝ることじゃない。それと、お誘いありがとう。邪魔じゃなければ、行ってもいいか?帰る場所なくて困ってた」
「うん!私は大歓迎だよ!みんな、喜ぶと思う!」
みんな?リルの家族か?まぁ、いいか。なんか疲れた……
俺には悲しみと疲れで考える気力も残ってなかった。
「よし、じゃあさっそく行こっか!」
馬車に乗るんだろうな、近くの村でも歩くと1時間かかるからなー。
「移動するよ。捕まってねー。」
俺とリルの周りが輝く。慌ててリルに近寄り袖を掴む。
「え、ちょっ、待って。馬車で移動するんじゃ……うわっ⁈」
光がより一層輝いて、目がくらむ。急いで目を閉じる。光が収まり目を開けると、違う景色が広がっていた。畑なのだろう、野菜やハーブ、花が植えられていた。遠くには白い建物が見える。建物の前では子供たちが遊んでいる。
「あ、リルねぇだー!おかえり!」
1人が気づき声を出すと、全員がおかえりー!と寄ってくる。
「子供がたくさん?」
リルは振り返ると笑って言った。
「チルドレン教会へようこそ、テムル君!」
こんにちは!桜木 千春です。小説は初心者で、これが初めての投稿になります。誰かが見た時にワクワクしていただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。