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脳筋図書店員の私に悪役霊嬢が取り憑きそうなので殴りました

作者: 伊野壱市野

 小国クラロワールの外れにある古びた図書館にはある噂があった

 夜通ると女の声がするとか窓に人影が映ったなど


「ただの噂でしょ?」


 昼に友人のキーナと行きつけの店で食事をしているシンクレアはばっさりと切り捨てた


 小麦のような金色の髪を長く伸ばしクリッとした丸い紅い瞳がキーナを見つめる

シンクレアは説明の出来ないことを信じないわけではない


食事という1日に何回も出来ない至福の時間をそのような話題で過ごしたくなかったのだ


 しかしキーナはそれに気づかず話しを進めていく


「でも花屋のマルシェも見たって!絶対あそこには何かいるよ!」


 彼女の図書館への興味は益々盛り上がっていく一方でそれを余所に上の空で聞くシンクレアは皿に盛り付けられた肉を躊躇なく手に


「そんなことよりこの肉おいしいわ〜」


「指が油まみれじゃない……」


 図書館に何かいるとはシンクレアは微塵も思っていなかった

 ずっと前から人のいない図書館に急にそんな噂が出来ることが何よりの証拠だ


「そこまで言うなら今夜確かめてみましょう?!」


 きたか……


 彼女は何でも白黒はっきり決めたい性格ゆえにこのような事に付き合わされたのは一度や二度とではない


 ドラゴンを見つけるといって一週間一緒に近くの山に篭ったのは人生最大の汚点だ


 今回こそははっきり断らなけ…


「ここは私の奢りにするから」

「何時にする?」

 キーナ(ちょろいな〜)「9時にしましょ」


 丁度昼も終盤になった頃合いだった


 店に2人戻ってからは忙しいとはいかないまでもそれなりに動き回る事が多く、時間が過ぎるのもあっという間であった


 一度家に帰ってから現地集合になった


「やっぱり辞め……」

「クレア〜?奢ったでしょ?」ほっぺたツネる

「ひゃい」


 休む間も無く残酷にも約束の時間になり、シンクレアは足取り重く図書館に歩みを進めるのだった


 クラロワールは小国ゆえに外敵から守るため筒状の壁の中に王城を中心に城下町が連なっている


 それゆえ中心から離れると人通りは少なくなっていく


 そして町外れとは壁の近くに必然的になるのだ


「薄気味悪いな〜」


 暗さも相まって人通りはほとんどない


 徐々に目も暗闇に慣れ、外とクラロワールを遮る壁が目の前に見えてきた


 と同時に長く使われていないであろう廃墟もとい図書館が現れた


「やっと来た〜1人で待つの怖いわ」


 キーナが胸を揺らしながら私の腕にしがみつく


 クソがっ!私がスカスカなのを知って揺らすかこのおんなっ!


 と2人の思惑が交錯した所で真偽のほどを確かめるために扉を開く

 前は不良が溜まり場にしていたが幽霊騒ぎで誰も近づかなくなった


 受付カウンターを超え、本棚が密集するフロアにたどり着く


 10分ほど2人で探索してみたが特に何もなかった


「何もないわね」

「ほら、言ったじゃない」

「えー?でもクレアも楽しかったでしょ?」

「次胸押し付けたら殴る」


 騒がしいキーナが急に大人しくなった


「何か聞こえない?」

「え?」


「図書館では静かにしろぉぉ!」


 展開の速さゆえに状況を飲み込めずにいた


 突如現れた霊に真っ当に叱られたのだ


 黙ったままの私達にすーぅっと平行移動で近づくる霊

 ジロジロと一瞥したと思いきや


「なんや死んだんかいな」

「生きとるわっ!」


 はっ!


 咄嗟に返してしまった

 しかし霊は意外な事にケタケタ笑い始めた


 変な喋り方をする割には黒髪ロングの端正な顔立ちだ

 所々破れた薄ピンクのドレスに裸足という姿に昔王冠をフリスビーにして遊んで壊した幽閉され無くなった皇女を思い出した


 キーナの方を振り向くと驚いたのだろう

 白目を剥き気絶しているのだが、相変わらず胸だけはゆらゆらと揺れている

 そこまで私をおちょくりたいのか…


 ふと急に部屋の中が寒気を帯び始めた


 霊の方を見た途端に体に自由が効かなくなる


 金縛りか!


 何とか動かそうとしてもどうにもならず、キーナはアホ面のまま気絶している


 クヒヒヒハハハハハ


 女が出すとは思えない声、キーナを守らなければ……私が殴りたいし

 そんな想いが私の筋肉に届いたのか体が動く


 耳元に声が届いた


「貴方はもう逆らえない♡さぁ、私のしもべn……」


 霊の顔面に渾身の右を叩き込むと3回転半空中を回って顔面から落ちた


 霊にも物理が効くのか

 流石私のパンチだ


 起き上がりきっていない隙に間合いを詰めもう一度叩き込もうとする


 ……が


「いったぁいよぉぉぉぉ〜」


 号泣である


 さっきまでの余裕の表情は何処へやら


 よく考えれば女性の顔面に渾身の右パンチをするなんてとてもひどい


 ましてや"まだ"何もされていないし


 若干の申し訳なさを感じながら近くまで寄ってみる

 身体をダンゴムシみたいに丸め蹲って頬を抑えながらブツブツ何か呟いている


 かと思うと勢いよく立ち上がり


「なんであんた私を殴れるのよっ!」


 と叫んでからは『金縛りも何故か効かないし』とか『せっかく従者が出来たと思ったのに』など理解し難い言葉の数々だ


 何もないところに向け夢中で独り言を放っている様はまるで徘徊老人のよう


 そんな高霊者にまだ聞いていなかった


「あなたの名前ってもしかして……?」


 この服装に裸足で破天荒な性格で幽霊なんてもうあの人しかいないだろう


 待ってましたと言わんばかりのドヤ顔でこちらに名乗り始める


「何を隠そう私はこの国の皇……」

「知ってる。王冠フリスビーで餓死したアホ皇女ね」


 口を開けたまま固まってしまった


 まあ、珍しいもの見れたし帰ろうとした時だ


「あんたの事気に入ったわ!憑いていってあげる」

「丁重にお断りします」


 いつのまにか左肩の後ろに陣取るコリエ


「看板してよっ!さっき殴ったことは謝るからっ!」

「もう決めたもーん!スタンドみたいに側にいてやるから」

「なんだよそれーっ!」


 そんな言い合いをしている合間に外を見ると少し明るみが出始めていた

 明日もとい今日が仕事は休みで良かった


 仕方がないので霊嬢を肩に図書館を出る


「これからよろしくね?ダーリン♡」

「女なんですけど?」

「そういうの気にしないから〜」


 絶対除霊してやる


 並々ならぬ決意を小さい胸に、帰路に着くのだった


 あれ?何か忘れてるような


「クレア〜どこ〜?もう胸無しとか言わないから〜」

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