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旧約神なき世界の異端姫  作者: 斑鳩睡蓮
第3章〜孤高の天才と聖夜の祈り〜

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遠い記憶と伊織の涙

「光希、私達はね、天宮家の為に存在しているんだ。それ以外の理由では生きられない。存在する事を許されないんだよ」

「どうして? お父さん、」


 幼い光希はみのるの顔を見上げ、首を傾げた。みのるは優しく微笑んだ。その表情が少し哀しそうに光希には見えた。


「それはね、私達が××××だからだよ。光希は××××だから、私よりもずっと辛い思いを

 する事になるかもしれない。あまりにも強すぎる力は自分自身をも滅ぼすんだ。そして、あの精霊だけは絶対に使っちゃいけないよ。それは……」


 大事な言葉だけが聞こえない。そして最後は全部の音が消えた。聞きたいのに聞こえない。聞いたはずなのに思い出せない。


「お父さん、今何て言ったの?」


 幼い姿で光希は縋るようにみのるを見る。だが、その声はみのるには届いていないようだった。みのるは何かとても大事な事を伝えている。それは痛い程にわかる。でも、何も聞こえなかった。


 教えて……! 僕達はどうして……!?


 みのるの姿が薄れていく。光希は必死に手を伸ばした。そしてその手は空を切った。




「……っ! はぁっ、はぁっ」


 光希は荒い息を吐いて、身体を起こした。何故か右手を伸ばしたままだった。ハッとして周りを見渡す。


 いつもの家の……居間?


 追手が現れる前と何一つ変わっていない。静まり返った居間、キッチン。ひんやりとした冷たい空気が部屋でわだかまっている。おそらく今は夜なのだろう。


 光希は足を動かそうと力を入れるが、すぐに力を抜いた。足に重石を乗せたような重みがある。それを落としてはいけないと思ったのだ。光希はそれに手を伸ばす。さらさらした白い糸のようなものに触れた。


「伊織……?」


 光希は自分の足の上に頭を乗せて眠る少女に気が付いた。伊織は眉間に皺を寄せたまま、眠っている。どうやら光希の事を心配しながら眠ってしまったようだ。


「俺の心配なんて……」


 優しく伊織の頰を撫でる。伊織はもぞりと身動きし、小さく笑みを浮かべた。そして、光希の手を小さな手で握る。


「……光希君」

「ありがとう、伊織」


 光希はそう呟く。その顔には優しい笑顔があった。前に笑ったのはいつだっただろうか。そう思いつつ、再び光希はソファーに身体を預ける。襲って来た睡魔に身を任せ、光希の意識は再び闇へと沈んでいった。





 ……眩しい


 光希はゆっくりと瞼を持ち上げた。突然降ってくる朝日に目を細め、光希は身体を起こした。


「おはよう、光希君」


 嬉しそうな伊織の笑顔が光希の顔を覗き込んだ。数回、目を瞬かせてから、光希は伊織と目を合わせる。


「……おはよう、伊織」


 伸びをして、光希は立ち上がった。身体が軽い。そして傷の痛みも消えていた。あのまま寝てしまったようで、どのくらい眠っていたのかわからない。


「俺、どのくらい寝てた?」

「丁度一日くらい、かな?元気になったみたいで本当に良かった……」


 伊織が光希の胸に飛び込んでくる。光希は目を見開いた。少し躊躇ってから、伊織を抱き締める。


「……ありがとう、伊織」

「光希君!……」


 伊織は瞳一杯に涙を溜めて、光希を見上げた。光希に抱きつく手に力が籠もる。


「私、私……、光希君が死んじゃうんじゃないかってすごく怖かったんだよ⁉︎こんな私なんかの為にこんなにぼろぼろになって……!ほとんど見ず知らずの人に命をかけて……。どうして、どうしてここまでするの……?」


 光希は伊織の頭に手を乗せた。伊織がハッと息を呑む。


「……なんでだろうな。だが、伊織は俺が守りたいと思った唯一の存在。それに、俺はお前の護衛だからな」


 光希は微笑む。


「……光希君は、バカだよ」


 そう言った伊織の声は震えていた。伊織の手が光希から離れる。


「ところであの後どうやってここまで来たんだ?」

「大変だったんだよ、もう」


 伊織は頰を膨らませ、説明し始めた。


「倒れてる光希君を頑張ってここまで運んで来たの」


 伊織の言葉に光希は耳を疑う。明らかに非力な伊織が自分を運ぶのは無理がある。


「ちょっ、運べたのか?俺を?」


 伊織は得意げに笑って胸を張った。


「身体能力強化だよ。一応私にも使えるんだよ! まあ、戦闘には向かないけどね……」

「使えるのか、」

「うん、これでも『兵器』としてつくられたからね」


『兵器』である事を伊織は明るい声で告げた。その言葉に下を向いてしまいそうになる。だが、伊織が気にしていないように言った、その気遣いを無下にしないように表情には出さない。


「それに、私、頑張って治癒もしたんだよ!」


 さあ褒めて、とばかりに伊織は目をキラキラさせる。


「そうか、ありがとな」


 光希はそう言って伊織の頭を撫でた。伊織の白い頰が赤く染まる。ある意味で自爆、したのかもしれない。


「それで……、あの精霊が光希君の物なんだね。あの蒼い綺麗な龍が」


 光希の顔が強張る。その表情に気づいたはずの伊織は、光希を逃がさないように真剣な瞳で光希の目を捉えていた。しばらく間を空けて、光希は肯定する。


「……ああ、俺はアレの所為で長時間全力で戦えない。限界を迎えると……、あの時みたいに精霊が暴走を起こす。ああなるともう自分では制御できないんだ」


 伊織は少し視線を彷徨わせる。それから何かを決心したように口を開いた。


「ほ、本当はね、私――」


 伊織の言葉を遮るように光希のスマホが振動した。光希は慌ててメッセージを確認する。


「この場所は……!?」


 光希は画面を凝視する。


 旧愛知県第一研究所跡


 涼から届いたメッセージにはそれだけが記されていた。


微妙にキリが悪いので短めです。

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