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旧約神なき世界の異端姫  作者: 斑鳩睡蓮
第2章〜波乱の校外教室〜

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新たな護衛

 次の日の夜、楓の部屋に荷物が届いた。何も頼んでいないのにな、と首をひねる。


「開けてみなさいよ、どうせ天宮本家からでしょ?」


 ダラっとカーペットに寝そべる木葉に言われて、楓は送り主を確認した。確かに『天宮』と記してある。


「何でわかったの?」


 首を傾げて木葉を見ると、木葉は笑みを浮かべた。箱を指差して言う。


「ちなみにその箱の中身もわかるわよ?そこに入ってるのは新品の制服よ」

「そうなの?」


 そう言って、箱を開け始めた楓を見て木葉は思った。


「バカなの?」


 その声に楓は顔を上げた。不満げに頰を膨らませる。


「心外だな、テストはちゃんとできたんだぞ? ボクはバカじゃない!」

「あ、ごめんなさい。心の声が漏れてしまったみたい」


 楓は木葉をジト目で見た。木葉は苦笑いのようなものを口元に浮かべている。絶対反省してないな、アレは。


「反省してないでしょ?」

「……。まあいいわ。とりあえず箱を開けなさいよ」


 話題を逸らされた気がしなくもないが、楓は箱を破壊する作業を再開させて中身を取り出した。既に箱はゴミクズと成り果てて原型を留めていなかった。


「新品! 制服! 嬉しい!」


 新しい制服が届いた喜びでカタコトになる楓だった。孤児院暮らしからの貧乏性が楓に感動を感じさせていた。目を輝かせて、木葉を見る。


「何で、木葉、わかった?」

「何でカタコトになってるかはわからないけど、当たり前じゃない。昨日、あなた何したの?」

「え? カレンとおっさんをボコった!」


 満面の笑みで楓は答える。木葉はため息をつく。


「頭悪い解答ね……」

「どこが? ボクは事実を包み隠さず完結にまとめたつもりなんだけど?」

「……まあ……そうね……」


 話が通じていない気がする、と思わなくもない。木葉はもう一度溜息をつくと、口を開いた。


「だから、昨日、あなたは制服を大破させたわよね」


 楓は納得の表情を浮かべた。手をポンと叩く。


「あー! なるほど! そう言うことかー!全然気づかなかったよ?」

「普通、気づくでしょ、むしろ気づかない方がすごいわよ」

「そうかなぁ、えへへ〜」


 楓は緩みきった顔で頭をぽりぽりとかいた。全くの予想外の反応に木葉は困惑した。


「何喜んでるのよ!? 褒めてないわよ!?」

「え? そうなの?」


 キョトンとした楓に木葉は頭を抱えた。


「どこをどう理解したらそうなるの!?」

「まあまあ、明日は学校だし、さっさと寝よう!」


 楓は話題を逸らした。我ながら上手くいったはずだ。楓はにこにことしながら、自分の部屋に引っ込む。なぜか木葉は苦笑いを浮かべていたが。


「おやすみ〜」

「えぇ、おやすみ」



 ***



 月曜日の朝。のりでパリパリの新品制服を纏った楓は木葉と共に寮を出た。


「なんて爽やかな朝なんだー!」


 楓は手を広げてくるりと回った。


「昨日も同じだったと思うけど?」

「んもー、いいんだよ! そんな事は!」


(……いいのね)


 楓は木葉の冷たい視線に気づかずに、一人、るんるんしている。そして周りの人は普通に歩いているから、目立ちまくりである。


 ……何でそんなに元気なの?


「新しい制服だよ? 嬉しいに決まってるじゃん!」


 呆れた木葉の声も楓のるんるん気分を乱すことはなかった。


「おはよう……、天宮」


 寮を出たところで光希は楓の横に並んだ。光希も新品の制服を着ているようだった。まだ馴染んでいなくて、肩のところが角ばっている。


「おはよう! 相川! お前も新しい制服じゃないか!」


 と、楓は光希の肩をばんばん叩く。


「微妙に痛いからやめろ」

「大丈夫だよ? あんまり力入れてないから」


 楓は光希の顔を少し見上げて笑顔を浮かべた。なぜか光希は目を逸らす。


「そう言う問題じゃない。お前はただでさえ力が強いんだ、手加減しろ」

「大丈夫! 手加減してる!」


 楓は胸を張ってアピールをするが、光希に一蹴された。


「お前の手加減は手加減になってない!」

「そんな事はないさ! ちゃんとやってるわ!」

「できてないから言ってるんだよっ!」

「あぁん? 何だと!?」


 睨み合いを始めた二人を見て、木葉は引きつった笑いを浮かべた。賑やかで楽しそうなのはいいのだが……。


「光希、“護衛対象”にそんな態度を護衛が取っちゃダメだろう? 天宮様に失礼だよ」


 突然横から聞こえた声に二人は睨み合いをやめた。聞いたことがある声だと思って、楓はその方向を見た。光希と同じくらいの背丈、だが髪の毛も目の色も光希よりも色素が薄い。顔立ちは整っていて、光希とは反対の性格のようだった。


「……神林、何でそれを?」


 光希は驚きを言葉に滲ませる。涼はにっこりと笑って、頭を下げた。


「本日より天宮様の護衛を仰せつかりました。以後、よろしくお願いします」

「はい?」

「……!?」


 衝撃のあまり口をぽかーんと開けた楓と言葉を失った光希は、涼を見つめて立ち尽くす。それを全く気にもせずに涼は頭を上げると、光希に視線を移した。


「光希の護衛の任が解かれたわけじゃないよ。『九神』として、僕も正式に天宮様の護衛に指名されたんだ」

「ん? ってことは、護衛が二人になるって事?」


 楓はなぜか少し不安になって、涼に尋ねた。涼はにこにことしながら、優しく返事を返してくる。


「はい、そういう事になります」


 ただ、あまりにも口調が丁寧すぎて落ち着かない。これ以上目立つのも嫌だったし、護衛についてはあまり知られないようにしろと言われたのもあって、涼に頼む。


「あー、その、天宮様、とか敬語とかやめてくれるかな? ボクが落ち着かないからさ」


 涼は嫌な顔一つせずに頷いた。


「いいよ、これでいいかな、楓?」

「あ、ああ、うん」


 名前を呼ばれて楓の心臓が跳ねた。少し恥ずかしい。だが、不思議と嫌ではなかった。こんなに異性に優しくされたのは初めてだ。いつも、楓は避けられるか、それとも男扱いをされるか、のどちらかだったのだ。特に後者の方は80パーセント以上楓自身のせいなのだが。


「えっと、じゃあ、教室に向かう?」


 楓はぎこちない動作で歩き出した。木葉は軽い足取りでついてくる。さらに、ムスッとした光希とにこやかに笑顔を浮かべた涼がその後に続く。


「ねえねえ、何でボクら目立ってるの?」


 楓は小声で隣の木葉に問いかけた。さっきから、たくさんの生徒たちからの視線が楓たちに注がれている。その中でも楓にはチクチクした視線が突き刺さってくるのだ。嫌でも気づく。


「当たり前じゃない、学年首席と次席のイケメン二人と絶世の美少女が『無能』で有名な天宮と一緒にいるのよ。目立つに決まってるでしょ」


 同じく小声で木葉は答えた。


「絶世の美少女って……、自分で言っちゃう?」

「事実なんだから、しょうがないじゃない? ふふふっ」


 妖しげに笑う木葉に楓は溜息をついた。楓の容姿は凡人並み、可愛くもブサイクでもない。よく言えばハズレではない、悪く言えば特徴がない。あまり自分の容姿を気にしない楓だが、周りが美男美女で囲まれていると思うと、嫌でも自分の容姿が気になってくる。自分も可愛く生まれたかった、なんてガラにもなく思ったり。


「でも、楓。眼鏡外したらもっと可愛いんじゃないかしら?」

「そうかもねー、でも、残念ながらそれはできないんだよ。ボクすっごい目悪いし……」


 楓の視力はおそらく両目とも0.1以下。眼鏡を外せば、視界がボヤけ、すごく近づかなければ物がはっきり見えない。


「矯正すれば? 今時、眼鏡って珍しいわよ」

「それもダメ、眼鏡外しちゃダメだって良子さんに言われたんだよぉ〜! 何度も頼んだのに。そりゃ、ボクだって好きでこれ、かけてるわけじゃないしさ」

「そう、まあ、いつか外せる時が来るはずだし、気長に待てばいいわよ」


 本当に外せる時が来るのかはわからないが、楓は期待を込めて木葉の言葉に頷いた。


「そうかもな」


 楓はふと振り返った。誰かがこちらへ走ってくる音が聞こえたような気がしたのだ。思った通り、見覚えのある顔の三人が人を上手に避けてやって来た。約一名、引きずられている人がいる気がする。そして、さっきの話を思い出して、楓は少し落ち込んだ。やっぱり、みんな顔が良すぎる。


「楓〜! おっはよー!」

「おはよ!」


 元気いっぱいの夕姫は夕馬を引きずっていない方の手を振った。夏美も笑顔で手を振っている。と、二人の目が見開かれた。その視線は楓の側に立つ涼に注がれる。


「涼? 何でここに?」


 夏美は不思議そうに首を傾げる。


「なんていうか……、楽しそうだったからかな? 僕も仲間に入れてもらおうかと思って、ダメかな?」


 ダメだ、と即座に言おうとした自分に疑問を覚え、光希は口を閉じた。楓はちらりと光希を見てから、口を開く。


「もちろん、いいよー! って、ボクが決めることじゃないけどね」


 少し、その楓の言葉が光希には恨めしく思えた。楓を守るのは自分だと決めたのに。涼がやって来たのは、自分の実力が疑われたからなのだろうと思う。確かに、楓の能力が無ければ光希も楓も死んでいただろう。だが、楓を守るのは自分だけの任務であって欲しかった。しかし、その気持ちは心の奥底に押し殺す。それは望んではならないこと。任務に自分の感情を持ち込んではいけない。光希は本心を隠して言う。


「もちろん、俺は構わない」

「ええ、私もよ」

「オッケーだよー!」

「いいよ〜」

「いいけど……って、俺もこのグループ入ってんの!?」

「夕馬も一緒に戦ったじゃん、入ってるのと同意義!」


 夕姫は夕馬を軽く小突く。そこで笑いが起こる。全員が了承したことを楓は確認すると、手を差し出した。


「というわけで、よろしく、神林!」

「うん、よろしく」


 涼は楓の手を握り返した。楓は嬉しそうに笑顔をこぼした。

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