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旧約神なき世界の異端姫  作者: 斑鳩睡蓮
第1章〜無能少女と青波学園〜

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史上最凶の兄妹喧嘩

 部活体験の会場に着いた楓と慧はぶらぶらと人混みを縫って見回りを開始する。あまりの熱気と活気に楓は楽しさ半分、疲労半分というところだ。背伸びをして見渡すと、遠くに光希の姿を見つけた。光希は色とりどりのユニフォームに囲まれて、揉みくちゃになっている。


 ざまぁーみろ


 楓は困っている光希をニヤニヤと見る。有名人は大変らしい。その様子を光希のペア、舞奈も楽しそうに見ていた。楓が思うに、もはや楽しんでいるのだろう。にやにや笑いが口元に浮かんでいた。足を止めた慧に合わせて楓も立ち止まる。


「うわっ」


 全力で走っていた誰かにぶつかられて楓はバランスを崩した。そのまま人混みに流されて、慧を見失う。


「ありゃー? どこだろ?」


 慧を探しているうちに、楓は部活体験に夢中になってしまった。銃のようなものを使っている部活、剣を振り回している部活、光弾が飛び交う激戦地、ほのぼのした雰囲気で武器を触っている部活。おまけに何やら木登りをしている部活まで存在する。何の部活なのか皆目見当もつかない。意外とまともじゃない学校だったらしい。キョロキョロしながら歩いていると、人が少なくなってきた。何かが後ろから飛んでくる。


「……っ!」


 楓はその気配を察して飛び退った。振り返ったその先に見えた光景に、言葉を失う。


「……」


 自分の目を疑いすぎて、三度見してしまう。


「超必殺! かめはめはぁぁっ!」

「何が『かめはめはぁぁっ!』っだよ⁈」


 よくわからない会話を繰り広げていたのは意外にも笹本兄妹だった。夕姫は両手から何かを打ち出すと見せかけて、夕馬に盛大にドロップキックを放った。それを華麗にかわした夕馬は右手を夕姫に合わせて水色の物体を打ち出す。


「甘いっ!」


 ニヤッと不敵に笑った夕姫は微かに光を纏った手刀で飛んできた物体をぶった斬る。


「うげっ!」


 弾け飛んだ水が顔にかかって、夕姫は女らしさの微塵もない声を上げた。夕馬はそんな夕姫を見て、勝ち誇った笑みを浮かべた。


「あははは、はい、残念でした〜。俺に喧嘩をふっかけるなんて100年早い!」

「何をぉぉ! まだ同点に追いついただけでしょ! ふん、次は必ず勝ぁぁつっ!」


 夕姫は夕馬を指差し、水に濡れた顔で堂々と宣言する。


 どうやら先程の飛んできた物体は、2人の喧嘩の流れ弾だったようだ。人が少なかったのも、このせいだろう。楓は自分の中の夕馬の人物像が崩れ落ちていく音を聞いた。


「あっ! 楓! ヤッホー!」


 楓に気づいた夕姫は濡れたまま駆け寄ってくる。少し遅れて夕馬もだ。夕馬は照れくさそうに頭をかくと、苦笑いを浮かべた。


「なんか変なところを見られちゃったね」

「いや、別に。ところで何が喧嘩の原因だったの?」

「なんか、俺が料理部のケーキの最後の一個を買ったらさ、ちょうど後ろにいた夕姫になんか霊力をぶつけられて……」


 斜めに目を逸らしていた夕姫が顔を真っ赤にして弁解を始めた。


「違うしっ! 分けてって言ったのに分けてくれなかった夕馬が悪いんだもん!」

「いやー、寄越せって聞こえたけど?」

「空耳だし!」


 楓は言い争いを始めた笹本兄妹を生暖かい目で見た。


 不毛な争いだ……。っていうか、料理部なんてものが存在するのか、この学校……。そして、こういう人たちを野放しにしているこの学校って……。


 まともだと思っていた学園のいろいろとまともじゃない所を見てしまった楓は遠い目をした。それを呆れだと受け取った夕姫は、事情を説明し始めた。


「なんか、本当は高校になったら、喧嘩をしないっていう協定を結んだんだけど、」


 夕姫は視線を夕馬にスライドさせる。


「俺はちゃんとやってたよ! やってなかったのは夕姫じゃん!」


 夕馬は自分を責めるような夕姫の目を睨み返す。


「だって、夕馬がすごい頑張って大人しい性格を演じてたから、いつも通りでいいかなって思ったの!」

「は? 何それ? 協定は? あれはなんだったんだよ!」



 夕姫はわざとらしく視線を逸らす。


「あっ、あんなの破棄! もともと守る気もなかったし!」

「なんだって!?」


 楓は突然夕馬が飛ばした小さな電撃に驚いて、後ろに下がった。


 どんっ!


「あ、ごめんなさい」


 ぶつかった相手の顔をよく見ずに楓は謝った。


「なんか、めちゃくちゃやってるな」


 聞き覚えのある声を聞いて、そろそろと振り向いた。腕組みをした慧がそこに立っていた。


「せ、先輩!? あ、その、はぐれちゃってごめんなさい」

「別に気にしてない。人もいっぱいいたしな」


 慧は楓の謝罪をあまり真剣に受け取らなかった。笹本兄妹を楓同様生暖かい目で見た慧は突然楓に質問した。


「笹本の双子がなんで有名か、知ってるか?」

「いえ、知らないです」

「笹本家の特性は広範囲干渉の術式だ。特にあの双子は2人の霊力を練って融合することで、強力な結界を張ることで知られている」

「そうなんですかー」


 楓は慧の言葉に感心して、頷いた。慧は苦笑いを浮かべて、続ける。


「だが、笹本の双子はその兄妹喧嘩の激しさでもすごく有名なんだ」

「……」


 それでアレなのか。誰も騒がずに兄妹喧嘩を避けているのはこういうわけか。きっと本人たちは気づいていないだろうな。すごく不名誉な有名さだ。


「でも、何でそんなに有名に……?」


 あれくらいなら、すごく有名になるというほどではないはずだ。


「何でも、紅月学園の中等部だった時に校舎を一個、喧嘩で壊したらしいぞ」

「……校舎を?」


 慧の言葉を飲み込めずに、思わず聞き返す。


「ああ、丸ごと粉砕したとかなんとか……。旧校舎だったから幸い死傷者は出てないが。むしろ壊す予定だったみたいで、学校にはなぜか感謝されていたようだな」


 それって大丈夫なの!?


 楓はもう一度未だにギャーギャーやっている2人を見た。2人なら校舎を壊しかねないだろう。呆れたような驚いたような……。なんだか微妙な気持ちになった楓だった。

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