学校初日の試験2
「おはようございます」
入学式よりも楽そうな服を纏った和宏がチャイムが鳴った数秒後に姿を現した。
「「おはようございまーす!」」
元気な声でクラスメート達(主に女子)が挨拶をする。和宏は相変わらずのイケメンスマイルを浮かべて、ホームルームを始めた。
「皆さんご存知のように今日は試験があります。試験は5時間目からなのでお願いしますね」
あ、あのー、何の事でしょう? ボク、聞いてないんですけど……
不安に駆られてちらちらと周りを見てみると、楓を除く全員が緊張した面持ちで和宏を見ていた。動揺の声は無く、やっと来たか、という様子だった。
「では、詳細は5時間目に説明しますね。なのでチャイム五分前には教室に居てください」
ガラリとドアを開けて、和宏はにこやかに教室を出て行った。その次の瞬間、教室の空気が緩み、はぁーというため息が多くの生徒達から漏れた。
「何の試験なんだ……?」
ぼそりと楓は呟いた。その声に応える者はいなかった。
4時間目の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。社会が終わり、楓は立ち上がって硬くなった体をほぐすべく伸びをした。
「うーん……」
木葉は椅子から立ち上がると、すぐに楓に声をかけた。
「一緒に昼ご飯、食べない?」
「私達も一緒でもいい?」
木葉に続いて、夏美が夕姫共にやって来る。
「うん、もちろんだよ!」
楓は友達ができた喜びを噛み締めて頷いた。4人は教室を出て、食堂に向かう。4時間目が終わった後で、案の定、そこには沢山の生徒たちが集まっていた。漂ういい匂いに鼻をヒクつかせていると、夕姫に手を引っ張られた。
 
「ほらほら、席、埋まっちゃうよ?」
「あ、うん。そうだね」
 
それぞれ思い思いの食べ物をトレーに載せて、4人は奇跡的に残っていた4人がけの席に腰を下ろした。
「いやー、今日、試験があったなんてなー。勉強してないよー」
夕姫はお箸を動かしながらぼやく。行儀よく食べ物を口に運んでいた夏美は手を止める。
「でも、大事な試験なんでしょ? 3年間かどうかはわからないけど、少なくとも1年間くらいは響くんだよね?」
「そうだったかしら? たぶん、毎年あると思うわよ」
木葉はそう返して、夏美を見た。夏美は木葉の視線に気づき、言い返す。
「ふーん、そうなんだ。間違えてたらダメだよ」
「大丈夫、あってるはずよ」
木葉と夏美の間の空気がピリピリしてきたのは気のせいだろうか。木葉は夏美を知っていると言っていた。では、仲が悪い?
「はず、ねぇ……確証がないのに情報ばらまいたらダメだと思う」
「あら、あなたは何をそんなにムキになってるのよ?」
どうやら仲が悪いようだ。空気がこれ以上汚染される前に、と夕姫は2人の不毛な会話に横槍を入れる。
「まあ、どっちにしろ、大事な試験だってことは確かだね」
「うん、そうみたいだね。てか、何の教科だっけ?」
今まで黙っていた楓は夕姫に便乗して、空気の換気に助力する。不穏な会話をしていた2人がいきなり楓の方に振り返った。
「えっ、なに? ボク、なんか変なこと言った⁈」
木葉が目配せをしてきた。下手なことは言うな、そう言っているように見える。楓は小さく頷いた。
「大丈夫? 楓、試験は霊能力理論だよ?」
「当たり前でしょ?」
「…………。そ、そうだね! なんで忘れてたんだろう!? あは、あは、あは」
答えるまでの間が長かった事に気付いた夏美と夕姫は首を傾げた。
ぬぉぉおーう……なんかわけわからんやつキタァー! 内心でこの学校さっさとやめたいと思いつつ、引きつった笑顔を浮かべる。ボクの学校生活、終わった……さらば、素晴らしき高校生ライフよー
「もう、楓は本当に物忘れ激しいんだから」
木葉は笑顔でフォローする。その言葉の裏から「なに下手な事口走ってるのよ!」という怒りが漏れ出している事に楓だけが気がついた。
「何!? ボクはおばあちゃんじゃない! 認知症と一緒にするなー!」
「いいじゃない、認知症。介護が必要ですねー」
「うぬぅー! この……えーと、えーと、ロン毛!」
「楓もロン毛だと思うけど……」
「うぅぅ……」
楓の反撃は見事に跳ね返されて自爆した。ぐうの音も出ないとはまさにこの事だ。ただ、この不毛なやり取りによって夏美と夕姫の疑問は忘れられたようだった。
「みんな! もう、教室に帰らなきゃだよ!」
夕姫は全員に話しかける。夏美はちらりと携帯で時間を確認すると頷いた。
「あと7分で5時間目が始まるよ! 行かなきゃ」
4人は急いでトレーを片付けると、教室に向かった。
  




