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旧約神なき世界の異端姫  作者: 斑鳩睡蓮
第5章〜五星学園交流〜

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五星結界の違和感

最近、初めの方の編集をしまくってます。

話数変わってもびっくりしないでください……。

また編集し終わったらお知らせします!

 楓の目に飛び込んできた制服の差し色は、赤、黄、緑、そして紫の四色だった。つまり、紅月学園、燈黄学園、緑風学院、紫陽花学院の四学園が到着したのだ。これで五星学園が揃った事になる。


「今年は珍しく全部揃いましたね、天宮さん」


 そうにこやかに言ったのは、赤の差し色の制服を纏った長身の男子生徒だ。


「ああ、そうだな、風間(かざま)


 10本家に入ってるな、と楓は復習がてら思い出す。確かに強さそうだ。清治の話し方が崩れている所を見ると、二人は知り合いなのだろう。


「ところで、青波学園には今年、優秀な1年生が入ったそうですね?」


 風間の名を持つ紅月学園の生徒は、楓達の方を観察するように見回した。値踏みするようなその視線が楓を通り過ぎ、それから楓に戻ってくる。目が合わないように下を向く。


 天宮清治は楓達を一瞥し、答えた。


「まあそんな所だ。そっちにも一人、入ったと聞いたが?」

「ええ」


 男子生徒は後ろを振り返り、一人の女子生徒に目をやった。きっと新入生はその子なのだ。


「有望な人材が今年は多いという訳か……」


 清治はそう呟く。


「……それでは、そろそろお互い、紹介の時間と行きませんか?」


 男子生徒は微笑みを浮かべ、清治に提案をした。清治は間を置かず頷く。


「ああ、毎年恒例の自己紹介の時間と行こうじゃないか」


 二人の会話を盗み聞いていた部屋の生徒全員の空気に緊張が走った。

 楓は一変した空気に戸惑い、夏美達の顔を見る。夏美は楓達の不安そうな顔を見ると、小さく笑って緊張を解そうとしてくれた。

 だが、楓の気持ちは軽くならない。


 もう既に序列戦は水面下で始まっているのだった。


「順番はどうする?」


 テーブルに手を付け、天宮清治が全体に問う。流石、天宮家当主候補だ。場の支配権を掌握する事に長けている。


「僕はどうでもいいですよ、燈黄学園の光神(こうがみ)さんはどうですか?」


 光神と呼ばれた女子生徒はフンっと鼻を鳴らし、紅月学園の風間を見た。


「あたしは別に気にしない。そっちで好きにやれば?」

「そうですか」


 彼女の様子もいつもの事のようで、風間は軽くその返事を流す。


「紫陽花学院の綾瀬(あやせ)と緑風学院の葉隠(はがくれ)はどうだ?」


 紫色の制服の少年と濃い緑色の制服の少女が反応した。


「青波学園からで良いかと」


 片眼鏡を掛けた少女はそう言った。その表情は楓の位置からでは確認できない。


「て訳で、天宮さんの所からで良いですか?」


 微笑んで風間は口を動かす。清治は顎を引き、最小限の動きで頷いた。


「わかった」


 もしかすると、これも毎年のように見られる順番決めなのかもしれない。

 いつもこうして各学園の代表に聞き、最終的に天宮のいる青波学園になっている、そう考えても良いくらい、各学園の代表は落ち着き払っていた。


「先ずは私からだな。知っている者も多いと思うが、私の名前は天宮清治。青波学園の生徒会長を務めている。ランクはSだ」


 ランクまで言わなければいけないのかこれは……。


 楓は天宮清治が発言の最後に付け加えたその情報に思わず反応してしまう。だが、慌てる前に先ず様子見だ。


「僕は神林空です。副会長を務めさせて頂いています」


 空はそれだけで流した。

 楓はホッと胸をなで下ろす。ランクは言わなくても良いみたいだ。そうなると、天宮清治の発言はその実力を誇示する為の物だったに違いない。


「芦屋啓。風紀委員会副委員長です」


 啓は義務的にそう口にして、直ぐに自己紹介を終えた。


「2年の如月唯斗です」


 あっという間に順番は回ってくる。次は光希だ。光希は無表情で淡々と名前を言う。


「1年、相川光希です」


 ザワッと周りが動いた。光希に全ての視線が突き刺さる。だが、当の本人はそれを無表情で受け流していた。


「神林涼です。よろしくお願いします」


 涼がその空気を断つように自己紹介をする。お陰で他の学園の生徒達の注意は僅かではあれ、光希から離れた。


 次は楓の番だ。あの生徒会室での自己紹介からちゃんと学んだこの順番。今回は間違えない。楓はグッと下で握った拳に力を入れた。


「天宮楓です。……よろしくお願いします」


 光希の時よりも一段と空気が騒ついた。


 これが例の天宮か、と誰もが思っている筈だ。楓の治療をしてくれた鳩羽真紀も言っていたように、色々バレかけているみたいだし……。


 不意に強い視線を感じて顔を上げた。刺すような視線があったはずなのに、今はもう感じられなくなっていた。


 それから先も自己紹介は続いていく。


 10本家は全部揃っていた。紅月学園の生徒会長は風間隼人(はやと)、燈黄学園は光神(あかね)、緑風学院は葉隠桐果(きりか)、そして紫陽花学院の生徒会長は綾瀬(わたる)という如何にも立派な名前の人達だった。


「自己紹介はこれで終わりだな。では、各学園の現状報告に移ろう」


 勝手に清治が仕切っているが、良いのだろうか。他の学園の生徒会長が何も言わないので良いのだろうが、少し不安だ。


「青波学園からどうぞ。また順番決めに時間をかけるのはバカバカしいわ」


 ツンっと尖った物言いで光神茜が言う。


 それにしても、青波学園の人数が多いと楓は思う。他の学園は数人程度なのに対し、青波学園は10人近くもいる。その差に理由はあるのかもしれないが、明らかにアンバランスだった。


「じゃあ、ここに初めて来た1年生の為に説明しますね」


 風間隼人は楓達の方に向かって微笑んだ。


「五星学園の生徒会はその業務の一環として、各学園に存在する五星結界の術式陣の監視と守護を学園によって委ねられています。五星結界は知っての通り、僕達を外界の魔獣や霊獣から守る重要な結界です。その結界の霊力は学生が使った余剰霊力を使用しているので、過剰な霊力の暴走を防止する安全装置としても機能しています。もちろん、霊力供給が途絶えれば、五星結界が崩壊する事になるのです」

「つまり、私達の肩にに五星結界は掛かっているという事なのだよ」


 清治が口を挟み、隼人は頷く。


「そして、毎年、五星学園が集まるこの時期に、結界陣が正常に起動しているかの確認があるんです。何しろ、ここには結界の礎がありますからね」


 隼人は指先を地面に向けた。テーブルを指しているのではない。この建物の下に五星結界の礎があるのである。どんな物かは知らないが、それが壊れれば五星結界は長くは持たない。一番危ないのは、各学園の結界陣が破壊される事だが、礎も結果としては五星の崩壊に繋がる。


 コンコン、と葉隠桐果が指でテーブルを叩いた。


 ちなみに現在、生徒会長達がテーブルの近くに立っており、他の生徒はその後ろに立っている。楓達も例外なくテーブルから少し離れた位置で話を聞いていた。


 桐果の出した音に注意が向く。桐果の片眼鏡の白みがかった金の鎖が小さく揺れた。


「それくらい、ここにいる者なら知っているでしょう。私達がわざわざ長々と話す必要は無いかと」


 隼人の目が、一瞬楓を捉えた。


 見られた……?


 隼人の丁寧過ぎる説明は楓に向けた物だったのでは無いかという予感がした。それなら何のために?


「ええ、そうですね。すみません、葉隠さん」


 別段気分を害した様子もなく、隼人はニコリと笑った。桐果は無表情で清治に視線を移す。


「天宮さん、どうぞ報告を」

「ああ、」


 鷹揚に頷き、清治が話を始める。


「青波学園は今年、例年よりも霊力保持量の平均が高い1年生が多かった。それに伴って、青波の結界陣への霊力供給は増えた筈だが、実際にはむしろ少し弱まっているのが確認されている」

「それはどういう事なの?」


 光神茜の声が飛ぶ。清治はピクリと眉を動かした。


「理由はまだ分かっていないが、例年より微かに弱いという程度で、支障を来たす程のものではない」


 茜は不快そうに顔をしかめた。


「そういうのが良くないって言ってるのよ!これが何かの予兆であれば、それを見逃した私達が責任に問われるのよ!そんなのは御免だわ」

「……私達、という事はそっちもそうなの?」


 藤色の線が入った制服の袖がヒラリと動く。病的なまでに色の白い少年……、綾瀬渉だ。


「どういう事だ?そちらも同じ被害が?」

「僕達もですね」

「私達もよ」


 他の学園の生徒会長達も似たような反応だ。

 楓はその様子を静かに見守る。


「……これは何かありそうですね」


 隼人は顎に手を当て、生徒会長以外の生徒達を見る。


「他に、その変化を感じた人はいませんか?」


 もちろん、風紀委員会の楓には分からない。


「ここで何かが起きているって事は無いですか?」


 口を開いたのは如月唯斗だ。

 その発言に5人の会長達は顔を引き締める。


「ありえるね……、それは」

「はい。ですが、なぜ今年から?」


 桐果は楓達を睨んだ。

 まるで、楓達青波学園の1年生にこの原因があると見ているように見える。


「……それに、今年の青波学園はやけにワケありが多いみたいだね?」


 渉は楓、光希、木葉、それから夏美の4人をチラリと見やった。夏美は微かに顔を強張らせる。


 夏美もワケあり……?


 確かに、この年齢で当主になったのは普通ではない。


「……それに、あんたは誰?」


 茜の鋭い声が部屋中に響き渡った。その目線の先には木葉がいる。


「下田なんて名前の本家は存在していないわ!」


 木葉はそんな苦情などどこ吹く風、そんな顔をしている。茜はその余裕たっぷりな顔に苛立ちを露わにする。


「もう一度聞くわ、あんたは何者なの?下田木葉!」


 木葉は微笑んだ。呆気にとられた顔で茜は一瞬ポカンとする。


「私は天宮家に仕える者。これだけ言えば充分かしら?」

「何なの……⁉︎」


 茜の顔に戦慄が走る。他の生徒達も沈黙している。


「……まさかあなたが天宮健吾様に仕える者という事なんですか?」

「ええ、確認でもする?」


 木葉は妖しく笑う。


「いえ……、この場にいるというのはそういう事なんでしょうね」


 隼人は首を振り木葉に証拠を見せる必要は無いと示す。


「絶対に君、年齢詐称してるでしょ?明らかに高1じゃないよ」


 そう言って渉はクスリと笑った。


「さあ?ただ単に老けた高1かもしれないわよ」

「無いわっ!」


 茜が雄叫びを上げ、全力で木葉の台詞を蹴散らす。

 思わずそのやり取りに楓は笑いを漏らしてしまう。1人だけかと思って焦ったが、そうでもなさそうだ。


「……だが、まあ、どの学園も結界陣に僅かな違和感があるって事だな」


 清治が完全にどこか遠くに飛んで行ってしまった話を捕まえる。


「ですね」


 笑いを顔から消し、隼人は呟いた。

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