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旧約神なき世界の異端姫  作者: 斑鳩睡蓮
第5章〜五星学園交流〜

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乙女の年齢

楓はずっと同じ格好で寝ていた所為でバキバキの身体を伸ばし、バスを降りた。


「うーん……」


目を細めて辺りを見回す。側に大きな建物が建っているだけで、周りは森しかない。この建物が学園交流会の舞台になるのは分かるが、思っていたよりも外見は普通だった。


「他の学園はまだ来ていないようね」


木葉がキョロキョロしながら言う。


「なんで分かるのさ?」

「んー?何となくそう思っただけよ」


と言いつつ、どうせ当たっているんだろうな、と楓は思う。説明はできないが、それが木葉なのだ。


「……今から何するんだろう」

「たぶん、他の学園の生徒と顔合わせする、という感じだったと思うわ」


楓は顔をしかめる。


「なんかあんまり楽しそうな感じじゃないな……」


木葉が眩しそうに空を見上げた。今日は雲もほとんどない晴天だ。太陽はただ暑いだけで、楓の微妙な気分は蒸発しない。


「何とも言えないけれど……、覚悟は必要かもしれないわね。それに、この交流会は本家の血を引く生徒達を強化するのも目的に据えられているから、そっちの方も……」

「……え?」


楓は青ざめた顔で瞬きする。嘘ですよね、そう目で必死に問いかける。木葉は目を伏せた。


「……残念ながら、それが伝統よ」


楓は絶望に顔を染めた。


要するに、校外教室と同じ事が超ハイレベルコースで行われるわけだ。つまり、楓の居場所は校外教室以上に無い!……そもそも存在しているかどうかすら怪しい。


「……どうしよう」


はぁ、と楓は重い溜息を吐いたのだった。


「皆さん、暑いですし、そろそろ移動しましょう」


照喜は全く暑くなさそうな爽やかな表情で生徒達に指示を出す。ちなみに楓は暑くて汗が止まらない。他の生徒達もほぼ同様だ。


楓達の荷物はもう既に部屋に運び込まれ始めたようで、目に付くところには無い。楓は木葉が歩き出したのを見計らって、歩き始めた。


眩しい太陽を避けるように楓達は日陰を歩く。


隣に建つのはとても不思議な建物だ。

広大な森の中に一つだけ建っているが、その様相は寂れたり地味なものではない。むしろ、手入れが行き届いた綺麗なホテルのような建物だった。


聞くところによると、この建物は五星結界の中心に位置するらしく、内部には結界の調整と転移陣があるらしい。楓には対して関係は無いのだが、結構重要なものだという事は理解した。


おそらく、ホテルのような感じになっているのは、年に一度、本家の交流会が行われるからなのだろう。本家の当主と言えばやはり財力のある権力者達なのだ。


無言で足を動かしていると、巨大なプールが目に入った。遊ぶ為の物かと思えば、その深さは2、3メートルほどもあり、到底遊び向きとは思えない代物だ。もしかすると、何かの訓練にでも使うのかもしれない。


「楓、着いたわよ」


木葉に肩を叩かれ、楓は足を止めた。


「あ、うん」


楓は頷き、建物の中に入る。途端、温度が下がり、冷気が身体を撫でた。クーラーという名の文明の利器がせっせと仕事をしている成果だ。楓は心の中でクーラーに感謝を捧げる。


「青波学園の皆様ですね?お待ちしておりました」


黒い燕尾服を着た初老の男が胸に手を当て、丁寧に礼をした。場違いにも、暑くないのかな、などと思ってしまった事は秘密だ。


……だが、この男はおそらくただの案内人ではない。


優しそうに細められた目をしていても、その戦闘慣れした動きは微かに見て取れる。しかし、それを隠すのも上手い。伊達に本家が集まる場所で案内人を務めている訳ではないようだ。


照喜は案内人にお辞儀をする。


「青波学園に勤めております、佐藤和宏です」


注視しなければ気づかない程僅かに、照喜の口元が吊り上がった。案内人はそれを見て、微かに呆れた表情を滲ませる。


火影の人なのかもしれない。


案内人はくるりと踵を返し、着いてくるように言った。楓達は照喜を先頭に、石でできた玄関ホールを抜ける。そして案内されたのは広い部屋だった。広い、と言っても、30人程で狭い部屋になるという程度で、そこまでの物ではない。そこには椅子はなく、テーブルだけが置かれていた。


「ここで残りの学園の生徒様方をお待ち下さい」


そう言って軽く頭を下げると、案内人は姿を消した。代わって照喜が口を開く。


「この後、他の学園の生徒さん達と自己紹介諸々してもらうので、しばらく待ってて下さいね。……まあ、そう待たないと思いますが」


楓は最小限の動きで部屋を見渡した。何かあっても対応できるように、部屋の確認は大事な事だ。


シンプルではあるが殺風景ではない内装に、部屋の一つの角はガラス張りになっていて、日光をふんだんに取り入れる作りになっている。テーブルは楕円形の大きな物で、動かすことはできない物のようだ。


ふと、こちらに歩いてくる光希と目が合った。光希は無表情で楓の隣にやって来る。


「……なるべく離れないようにしろ」


楓だけにぎりぎり聞こえる小さな声で言う。楓はコクリと小さく顎を引いた。


「分かった」


涼達も楓の側に近づいて来た。そして何故か亜美と美鈴も。美鈴はともかく、何故亜美が近寄って来るのか。……謎は多い。


しかし、確かに1年生で固まっているのは良い案かもしれない。一人で居るのはこの場では危険だ。


そして、3年生は天宮清治と神林空で固まっていて、芦屋啓と2年生の如月唯斗は各々で立っている。だが、他の学園のスペースは十分に取ってある、一応青波学園で固まっているような立ち位置だった。


「他の学園と交流かぁ……、なんか怖いな……」


夕姫が呟く。夕馬も頷いた。


「他の学園のヤツがどんなヤツなのか……、関わった事がないから分かんないなぁ」

「あれ?二人ってどこの学園の中等部だったっけ?」


夏美が聞く。夕姫と夕馬が同じタイミングで答えた。


「「紅月(こうづき)学園」」


楓は4月当初に芦屋啓から聞いた笹本兄妹の伝説を思い出す。確か、兄妹喧嘩で旧校舎一個をまるっと破壊したという話だった筈だ。


「それじゃあ、火影さんとかも居たんじゃないかな?」


涼がそう言うと、美鈴が遠慮がちに声を出した。


「……私も、です」

「そうなんだ!一緒だね!」


夕姫が目を輝かせ、美鈴の手をガシッと握る。美鈴は驚いてしばらくの間固まった。


「え、あ、その……」

「夕姫、怖がらせてるだろ……」


白い目をした夕馬は夕姫を美鈴から引っぺがす。


「うー、……すんません」

「あ、別にいいんです」


美鈴はいえいえと小さく手を動かした。


「んじゃあ、夏美はどこの中等部だったんだ?」


楓が聞くと、夏美は頰を紅潮させて答えた。


「光希と涼と同じ、紫陽花(しようか)学園だよ」

「一緒なんだ〜!」

「うん!」


夏美は嬉しそうに胸を張る。それだけ嬉しかった事をその顔は物語っていた。


「楓さん、私を忘れていなくって?」


突然話に割り込んだ亜美が、さあ聞いてくれとばかりに胸を逸らす。楓は少し呆れた目で亜美に問いかけた。


「霞浦さんは……」

「亜美で良いですわよ」

「あ、はい。亜美はどこの中等部だったの?」


亜美は嬉しそうに言った。


燈黄(とうおう)学園よ」

「そうなんだ、じゃあ大阪の方の人なのか?」

「ええ、そういう事になりますわ」


にこり、と愛想良く亜美は笑顔を見せた。その悪役令嬢という感じのつり上がった目は、何故かとても嬉しそうに細められていた。


「そういえば、木葉は中学って行ってたの?」


涼が声の音量を落とし、黙っている木葉に話を振る。木葉は微笑む。


「行ったことないわよ」

「!」


夕姫が目を見開く。それから納得したような表情をした。亜美と美鈴は事情を知らない分、夕姫よりも驚いている。


「……木葉って何歳?一体?」


楓がぼそっと疑問を口にした。中学に行かずに青波学園で上位の成績を収める木葉だ。絶対に楓達よりも年上のような気がする。

木葉は口をにやっと動かす。


「俺達が中学1年の時にはもう天宮で動いていただろ?」

「ちょっと待って!今、天宮と言いましたわよね?」


亜美の言葉に光希は無表情で頷いた。


「ああ、木葉は天宮の人間だ」

「なるほど……!だから……」


亜美は納得した表情で一人で頷いている。

亜美の様子を全く気に留めず、木葉は光希の問にニヤニヤしながら答える。


「ええ、もちろん。あなた達が中学1年生の時に会ったのよねぇ」

「木葉は本当は何歳なの?」


真剣に木葉を見つめる夏美。木葉はその目を真っ直ぐ見た。


「少なくとも産業革命くらいの時には生きてたわよ」

「うそっ⁉︎」


夕姫が驚きを隠せずに大きな声を出した。慌てて口を塞いでオロオロしている。だが、光希も含め、全員懐疑的な目で木葉を見た。


「本当なの?」

「さあね」


涼が聞いてみても、木葉は妖しく微笑むだけで何も分からない。


「それで一体何歳なんですの⁉︎」


亜美が食いつく。


「ひ、み、つ、よ。乙女に年齢を聞くなんてダメじゃない」

「……木葉がそれ言う?」


楓は思わずそう呟いてしまい、木葉に睨まれた。苦笑いで誤魔化す。


「でも、……下田さんは私達よりも年上なんですね?」


美鈴が確認を取るように尋ねた。


「ええ、その通りよ。だからもっと私を敬っても良いのよ」


全員が遠い目をした。


「えー、それはご老人としてでしょうか?」


楓が言うと、一部が吹いた。木葉は満面の笑みを浮かべる。


「ぐ、ぎゃあ⁉︎あダダダっ⁉︎」


楓の腕がおかしな向きに曲がる。楓を捻り上げている木葉の顔は天使のような笑みを湛えているからその怖さは半端ではない。


「ふっ……」


光希が笑い声を漏らした。肩を震わせ、笑い声を抑えようとしている。


木葉は楓の腕をパッと離し、光希を見る。楓も容赦のない力で捻り上げられた腕をさすりながら光希に視線を向ける。気づけば、全員光希の方を見ていた。そして光希は周りの視線に気づき、笑うのをやめてしまう。


「……どうかしたか?」

「ううん、光希がそんな風に笑うのが珍しかったから」


夏美は笑顔で光希を見上げた。


「相川さんってそんな風に笑う事もありますのね」


亜美も意外そうに呟く。光希は微妙な顔をした。


「……」


光希が口を開いたその時、部屋の扉が開いた。

木葉の年齢は一体……?



一章辺りの編集などをしているので、話数が変わったりしますが、よろしくお願いします。

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