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旧約神なき世界の異端姫  作者: 斑鳩睡蓮
第4章〜蘇る悪夢〜

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突然の敷地外デート

夕馬は時間を確認し、木にもたれかかった。約束の時間まであと少しだ。昨日、仁美に出会ったこの場所で今日も待ち合わせをするという事になっているのだ。


ただ問題は会った所でどうするか、という事である。現状、夕馬に打つ手はなく、光希達もあんな感じで頼れない。仁美の力にはなりたいが、何もしてやれないというのが現実だった。


サクッ、と土を踏む音が後ろで響いた。夕馬はゆっくりと振り返る。そこに居たのは夕馬の待ち人だった。


「……来て、くれたんだ……」


人形のように動かない少女の表情が少しだけ明るくなる。だが、夕馬の他に誰もいない事を不思議に思ったようだった。不思議そうに夕馬を見る。


「ああ、でも、どうやら俺の仲間は君を信用していないみたいだ」


事実を告げる。この言葉を予想していたように仁美は顔色を変えずに頷く。


「……笹本君も、そう、だよね?」


夕馬は僅かに目を見開く。人造人間(クローン)だからといって、仁美は決して馬鹿では無い。夕馬達が仁美を警戒する理由を完全に理解していた。ここで嘘をついても、信用を掴めない。そう思った夕馬はあっけらかんと肯定した。


「……そうだ。流石に初対面の人を信用しきれる程俺は甘くない」

「……うん、それが正しい」


仁美の目が複雑な色を浮かべる。寂しさのような哀しみのような、そんな色だ。だからきっと彼女は何かを知っているような気がする。何か、重要な事を。


「でも、俺は、俺達は君を救いたい。だから、君自身に敵意が無いことを示して欲しいんだ」


仁美は首を傾げた。


「……わたしに、敵意が無い事……?」

「そう、君が君自身の意思で助けてもらいたいのかどうか、知りたい」


夕馬ははっきりと言う。仁美はそれで理解したようで、コクリと頷いた。


「……ん、わかった。わたし、どうすれば、いい?」


夕馬はその先を何も考えていなかった事を思い出す。一瞬考えて、それから視線を彷徨わせる。


「……ど、どうする?」


結局質問に質問で返し、仁美はキョトンとした。


「……わからない、の?」


夕馬は頭をかき、明後日の方向を見る。


「……あ、そのー、……わからん」


仁美は反応を返さずに突然こちらに歩いて来た。夕馬は驚いて、警戒する。だが、仁美がしたのは夕馬の隣で芝生に座り込んだ事だった。その意外な行動に夕馬が今度はキョトンとしてしまう。


「……なんで座ってんだ?」


仁美は夕馬を上目遣いで見上げた。


「……立ってるの、疲れた」

「はあ?」


スカートに草が付くのも御構い無しで仁美は座り込んでいる。女とは普通地べたに座るのは嫌がるのでは?、と考えたが、身の回りの女はみんな地面に平気で座り、しかも足を開くような奴ばかりである(主に楓と夕姫だ)。それに、この少女は楓の元親友だ。常識が通用するわけがない。


「……だ、だったら、そこで座るのも何だし、どこか行ってみる?」


夕馬は自分でも驚きの提案をした。仁美のガラスのような目が一瞬キラリと光る。


「……いいの?」


目に感情は写っていないのに、その中にある期待が透けて見える。夕馬も自分が言い出した事を撤回するのも失礼だと思って、頷いた。


「いいぜ」


仁美の目がもう一度キラリと光った。スクッと仁美は立ち上がる。その膝には草がぶら下がっているのだが、本人は御構い無しだ。


夕馬は夕姫に連絡しようと、霊力を微かに引き出す。夕姫と繋がる線のようなものを手繰り寄せ、ピンと張るまで引く。


『夕馬?何かあったの⁉︎』


夕姫は慌てて叫ぶ。心の声ではあるが、叫ばれると耳に来る気がする。


『いや、何も無いけどさ。その、例の子と一緒にどっか行く事になった』


夕姫の驚愕がダイレクトに伝わって来る。


『はあぁぁ⁉︎ちょっ、何なの⁉︎どっかってどこ⁉︎』


夕馬は答えるのが面倒くさくなり、適当に返す。


『まあ、たぶん、敷地外だ。なんかあったら呼んでくれよな』

『ちょっと⁉︎夕馬っ⁉︎ゆー』


夕姫の慌てふためく声を意識からシャットアウトする。もちろん、聞こえてはいるが、意識しなければそううるさく無い。


「……どうか、した?笹本、君?」


仁美がずいっと夕馬の顔を覗き込んだ。


「うわっ⁉︎」


夕馬は後ろに倒れ込みかけるのを必死で耐える。仁美はその様子を不思議そうに眺めていた。


「……それで、どこ、行くの?」

「と、とりあえず、敷地外だっ!」


夕馬は慌てて叫ぶ。仁美はコテリと首を傾げた。


「……敷地、外?」

「なんか、問題が?」

「……ううん、違う。……外、遊ぶの初めて」


仁美が聞き返したのは、嬉しかったからのようだ。やはりその顔は人形のように無表情だが、嬉しいという気持ちは何となく夕馬にも伝わってきていた。


「それじゃ、行くか?」

「……ん」


夕馬は学校の正門に向かって歩き出す。その後を仁美が静かについてくる。あまり人気の無い道を選び、正門に向かう。しかし、正門には多くの生徒達が群がっていた。


「はあ……、人多っ」


夕馬は溜息をついて人混みを通る覚悟をする。仁美はぼーっと夕馬の隣に突っ立っているだけだ。


「ここを突っ切るぞ」

「……わかった」


仁美はコクリと頷くと、文字通り人混みを突っ切ろうとした。誰がどこにいようが気にせず、真っ直ぐ門を目指す。


「ちょっと待てよっ⁉︎君、なんでまんま突っ切ろうとしてんの⁉︎」


夕馬は人にぶつかりまくっている仁美の袖を引く。仁美は不思議そうに夕馬を見て立ち止まった。


「……突っ切る、って、言ったから」

「え?」


仁美の答えに夕馬は頭が追いつくのに少し時間がかかった。


「……いや、文字通り突っ切るなよ……」


夕馬は内心頭を抱えて、突っ立っている仁美を見る。


「……じゃあ……どう、すれば良い?」

「普通にゆっくり歩けばいいんだよ」


仁美は僅かに目を見開いた。


「……あ、……なるほど、……それは、思い付かなかった」


さっきのはどうやら納得の表情だったようだ。こう思うと、この少女にも表情がある事に気づかされる。夕馬はその事に安堵した。


今度はゆっくり歩いて誰の迷惑にもならないようにする。仁美も人混みの流れに乗って、無事に正門の外に出た。


「ホント、人多いな……。出るだけでこんなに疲れるとか……」

「……人、多い……」


げっそりした夕馬は仁美を連れて道に出る。仁美はぽーっとしているので、見張っていないと危険である。


「信号赤だっ!」


夕馬は道の真ん中をゆっくり歩く仁美に向かって叫んだ。仁美は歩行者信号を見て、それから夕馬を見た。


「……それは、気づかなかった……」


パァーッと車のクラクションが鳴る。夕馬は焦ってその場で足踏みをし、まだゆっくりと横断歩道を渡っている仁美を引っ掴んだ。そのまま愛想笑いで今にもブチ切れそうな運転手一同に頭を下げつつ撤退する。その間、クラクションの音量は倍増していた。


「ちょっと危ないだろ!何やってんだ!大体なぁ……」


仁美は、柄にもなく説教を始めた夕馬をやはり不思議そうに見る。その顔に夕馬はだんだん毒気を抜かれていった。


「……はあ、……だからな、気を付けろよ……」

「……わたしの、心配、してるの?」

「し、してねぇっ⁉︎」


夕馬は仁美の言葉にどきりとしたのを誤魔化し、視線をそらす。


「……ふうん、そっか……」


仁美は夕馬の苦しい言い訳であっさりと納得していた。いや、もちろん残念などというわけではない。ただ、あっさり過ぎて拍子抜けしただけだ。


「……それで、どこ行きたい?」


夕馬は取り直して、仁美の顔を見ずに言う。敷地外だと叫んでやって来たが、目的地などは存在しない。叫んだのもノリだ。


「……この辺、何が、あるの?」


夕馬は返事をしてもあまり意味のない質問に呆れる。何せここは旧日本の首都、東京だ。大抵の物は何でもある。


「……何って言ってもな……、なんでもあるぜ?……いや、待てよ……。外で遊んだ事がないって文字通りの意味か⁉︎」

「……そう、だけど、……何かあった?」


仁美は何でもない事のようにそう言うが、全くそういう物ではない。こういう所で普通の人とは違う事が感じられてしまう。それを不思議と思わない彼女が、夕馬には少し痛かった。


「そうなのか……。初めての外出が俺みたいな奴で悪かったな……」

「ん?……わたしは、いい。外で遊べる、……それだけで充分」

「そう。なら良いけど……」


夕馬は外で遊べるというだけで喜ぶこの少女にどうしようもない悲しみを覚えた。笹本家は相川や荒木、神林などと言った家とは違い、一般の霊能力者と同じような、平凡な生活をしている。だから夕馬と夕姫は十本家の誇りなどは大して持ち合わせていないし、それに縛られた事もない。それはきっとある意味で幸せな事だと思う。それなのに……。


夕馬の思索は仁美の発した一言で中断された。


「……笹本君、また、わたしの事、……心配してくれた」

「はあっ⁉︎だからしてねぇって⁉︎」


反射的にこう返す。すると仁美はやはりあっさりと納得した。


「……そっか」


……いや、絶対納得してない。

夕馬がメインです!

仁美は行動がおかしい……

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