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家族面接

作者: 奏弥

 全ては、ある日の夕食の際に娘から伝えられた言葉から始まりました。

 

 いつも通り定位置で、家族4人食卓を囲んでいました。

私の向かいに長女、その隣に長男、そして私の隣に次男が座っていて、その日あった出来事なんかを子供たちから聞ける、私の毎日の楽しみの時間です。

 その日も、これもいつも通り、娘が食事を終えました。しかし、いつもであれば、『ごちそうさま、お先にー』と、すぐ部屋に戻るのですが、今日は『ごちそうさま』と言うと数分沈黙し、席を立つこともありませんでした。

「どうしたの?」

 不思議に思った私は、娘が何か言いたげなことを察しましたが、口を開くのを待ちきれずに問うてしまいました。せっかちなのは私の悪いところです。

 娘は、うん、や、えと、などと何度か口ごもり、決心したように、ついに口を開きました。

「明日、恋人を家に連れてきます。・・・結婚も考えています。」

 妙にかしこまった口調で語られたこの一言、いや、二言に私は頭が真っ白になりました。視線を娘から横にずらすと、姉を見詰めたまま口を大きく開いて固まっている息子の姿が目に映りました。私の隣の、まだ幼い息子の方はというと、もくもくとご飯を食べ続けていました。

 突然、爆弾発言を発した張本人は、明日の時間や相手の人物像を簡単に言い終わると、

「じゃあ、お風呂入って寝るね。」

 と、言い残すとそのまま席を立ち去っていきました。私はまだ頭が働ききっておらず、飯、風呂、就寝とせわしないやつだな、なんてボーっと考えていました。


 1時間後、宣言通りにとっとと寝入ってしまった娘を除いて、急遽、家族会議が開かれました。と、いうのも、前々から恋人がいると聞いていれば家族会議など開かないのですが、この日、娘の口から聞かされた事で、初めて知りました。これは話し合わずにいられません。

 本来この場には、娘もいなくてはならないのですが、入浴後の娘に参加するように促したのですが、ですが、ですが、娘は頑なに、

「明日、全部話すから。」

 と言い、取り合ってはくれませんでした。私は納得しかねましたので、少し怒気をはらまして言いました。

「結婚どころか、そのまま交際を許すかも、わからないよ」

「うん、わかってる。でも、許してもらえるようにちゃんと説明するから・・・。あの人と一緒に。」

 私は少し考えた後、軽く頷きその場を離れました。


 リビングで待ってもらっている息子たちのもとに戻ると、もうすでに8時を少し過ぎてしまっていました。幼稚園児である次男は、いつもならもう寝る時間なのですが、幸い翌日は休日なので少し夜更かししてもらうことにしました。

 私は絨毯の上に座り、テーブルに腕を組んで乗っけて深呼吸しました。

「ごめんね、善樹。もう少しだけお話合いしてくれる?」

「うん、いいよぉ。」

 次男の善樹は、軽く目をこすりながら答えてくれました。

「ありがとう。じゃあ、はじめるね。」

 私はすでに決めてある方針を二人に伝えるため、なるべくわかりやすく心がけて話しました。

「明日、お姉ちゃんが恋人、結婚したいと思うほどの男の人を連れてきます。そこで、私たちは明日、その彼を、面接します!」

 それは家族会議とは名ばかりの、娘にも負けない、突然の通知でした。決定事項でした。

「母さんも姉さんも勝手だ。」

 長男の正人はそう言い、呆れたようにため息をついていました。

「女って、勝手な生き物なのよ。」

「めんどくさ。」

「にいちゃん、ねえちゃんけっこんするの?あと、めんせつってなに?」

「んとな、結婚するかは、まだわからないけど、好きな人を連れてくるんだってさ。そんで面接ってのは、んと、まぁ、その人と姉ちゃんのことを、話すんだよ。大切にしてくれるかとかさ。」

 大分噛み砕いた説明だったけど、正人の説明で善樹には理解してもらってればいいと、私は思いました。

「ふぅん・・・。ねえちゃんたいせつにしてくれるかな?」

「さあなあ?」

「とりあえず、明日面接するから!二人ともお姉ちゃんの彼に聞きたいこと考えておいてね。」

「はぁ・・・。」

「はぁい。」

「ため息つかないの。」

「はいはい。」

 難しい顔をした正人は、やれやれと肩をすくめていました。

「じゃあ、家族会議終わり!善樹はもう寝なさい。」

「はぁい。」

 半分以上目を閉じた善樹を部屋に送り届け、再び私はリビングに戻りました。するとそこにはまだ正人が座っていました。座って顔をテーブルに伏していました。

「母さん、知ってた?」

顔を伏したまま正人が尋ねてきた。

「知らなかったよ。」

「俺も。変なやつじゃないといいな。」

「あの子に限って大丈夫だとは思うけどね。」

「何でだまってたんだろうな。」

「あの子と恋人君にしかわからないよ。」

「結婚考えてるっていうぐらいだし、本気っぽいな。」

「私たちも本気で答えてあげないとね。私たち3人が本気で。」

「それで面接?」

「うん。勝手だけど、失礼だけど、計らせてもらおう。あの子を大切にできるか。」

「なんか重いな。」

「重いよ。」

「まぁ、急に挨拶に来るのもどうかと思うけどな。」

「その理由もちゃんと聞かないとね。」

「じゃあ、俺も早いけど寝る。おやすみ。」

「うん。おやすみ。」

 正人は自室に帰っていきました。そのあと私はノートとペンを用意して、面接で聞くべきことをリストアップしていくのでした。


 そして、翌日。流石に私も緊張を隠せずにいました。時計の針が刻む音がやけにゆっくりと聞こえてきました。昨日書いたノートを何度も見返していると、

「落ち着けよ、母さん。」

 正人が声をかけてくれました。正人は高校の制服に身を包み、やはり緊張を顔に張り付かせていました。そんな正人ですが、何も言わずとも自ら正装を纏っている所に私はこの子も成長しているんだな、と思い、ふと、感動しました。

 これから真剣な面接をするのですから、私も女性物のスーツを着ていました。善樹はというと、兄の真似をしたのかこちらも幼稚園の制服を着ていました。エライ。

 それから十分程経過したその時、インターホンが鳴りました。息子たちを連れ、玄関まで来た私は扉を開け、そして、驚きました。驚愕しました。すぐにその驚きから我に返ると、娘から彼の紹介があり、その後に彼が口を開きました。

「真さんとお付き合いしています、鳴海輝彦と申します。本日はご挨拶のお時間を頂き、ありがとうございます。突然のご訪問驚かせてしまい申し訳ございません。」

「真の母の葉子です。・・・そうですね、驚きました。が、とりあえず中へどうぞ。」

「それでは、お邪魔させていただきます。」

 初めて見ると思っていた顔は、私のその予想を裏切って、私も何度か顔を合わせたことのある人物でした。いろいろと頭の中で思案していると娘から声がかかりました。

「お母さん達なんでみんな正装してるの?」

 私はフッと笑い、

「戦争だからよ。」

 と、冗談めかして言いました。あながち冗談ともいえなかったけども。娘は困惑した様子でした。


 二人をリビングに案内すると、改めて全員の自己紹介をしました。それが終わると菓子折りを渡され、受け取りました。

「じゃあ、」

 娘が何か言う前に私は宣言しました。

「では、面接を始めます。」

「は?お母さん?」

「真は黙っていなさい。聞きたいことは全て彼に聞きます。」

「ちょっとまってよ」

「真、いい、いいんだ、僕が答えるよ。」

 彼、鳴海さんは芯の通った声で優しく真を諭しました。

「輝彦さん・・・。わかったわ。」

 数瞬黙ってから真は了承しました。

「面接というのも失礼な話ですけど、貴方達の突然の挨拶も酷いと思いますので、おあいこという事にしてください。」

「はい。僕、失礼しました。私のほうこそお願いします。」

 そして遂に私たち家族にとってとても大事な、大事な面接が始まりました。

「まずは、我が家の末っ子から質問させてもらいます。善樹、この人がお姉ちゃんの恋人よ。あなたが聞きたいことを聞きなさい。」

「うん。あのね、ねえちゃんはぼくとけっこんするんだけどね、ぼくよりねえちゃんをたいせつにできるなら、やだけど、ぼくはあきらめるね。」

 私たちより真のことを大切に思えるのか。私たちの最も切なる思いでした。やっぱり皆同じ気持ちなんだと目頭が熱くなってしまいました。

「もちろん、大切にします。信じてください。」

 彼は善樹の目を真剣な目で見詰めました。そして、正人に、私に、真に同じ眼差しを順に交わしました。

「ん。ぼくはこれだけだよ。つぎにいちゃんね。」

「ああ。鳴海さん、俺は貴方のことが気に食わないです。」

「直球ですね。」

「いきなり現れて、姉さんの恋人です。では到底納得できないっ!・・・です。過程がわからないんです。」

「それは当然ですね。申し訳ありません・・・。真実を話します。私が真さんと出会ったのは真さんが15歳の時でした。私は年甲斐もなく真さんに一目ぼれをしてしまいました。当時の私は25歳でした。してはいけない恋だと思い、2年がたったある日のことです。私は真さんに告白されました。驚きました。それまで特別なことなど何もなかったからです。理由を聞くと2年前に一目ぼれしてずっと思い悩んでいたそうです。私は恥ずかしながら、運命というものを信じました。同じ時期に互いに一目ぼれしあったのですから。その告白を受けて私は真さんが高校を卒業するまで一切の交際をせず、卒業した後も互いの気持ちが変わらなければ、そこで初めて交際を始めようと提案し、真さんは了承しました。そして真さんの卒業とともに交際を始めました。」

 数分かけて彼は、これまでのあらましを滔々と語りました。当時の真の生活態度から考えると、矛盾はしてないように思えました。真は部活動には所属しておらず、学校が終わると直ぐに帰宅していました。休日はいつも、自宅で勉強しているような、私が言うのもなんですが、優等生でした。その後順当に某難関大学に入ったのだから自慢の娘ではありますが、今思えば、全て布石だったのかもしれません。まじめに勉学に取り組み、不純なことは一切していなかったと、その学歴が訴えかけてくるのですから。私自身その証人になっているのですから。

「なるほど、禁断の恋。まるでテンプレだな・・・。確かにその話は信憑性があります。姉さんはずっとまじめだったから。」

 正人は前半部をボソッと呟き、私同様にその話を大筋信じたようでした。

「ただ、その話の筋からして、交際を始める前に挨拶に来るべきだったと思いますけど?」

「その通りです。非常に申し訳ないのですが、仕事が大変な時期にさしかかったもので挨拶が遅れてしまいました。」

「言い訳だろっ?・・・ですよね?遊ぶ時間はあったんだから。」

「・・・その通りです。真さんと過ごすことに夢中になり、その時間と仕事を優先していました。」

「わかりますよ。付き合いたての時期って楽しいし。でも貴方は大人でしょう?姉さんの10も上の。」

「私が愚かでした。情けない限りです。」

「まぁ、いいです。わかっているなら。これで俺の質問は終わりです。」

 正人は始めから交際については肯定的でした。ただ、大事な姉のことですから、理性でわかっていても感情がそれを上まっているように見えました。

「では、最後は私が質問させてもらいますね。先生。」

 そう、先生。彼、鳴海輝彦さんは真の高校三年次の担任教師でした。

「はい・・・。」

「恋人を連れてくると娘から聞いたときも驚きましたけど、まさか貴方がお相手とは、まさに仰天しましたよ?」

「申し訳ありません。娘さんの恋人が元の担任である、それもいきなり知らせる形となってしまい本当に申し訳なく思っています。」

「そんなに謝って頂かなくても結構ですよ。挨拶が急になったのもどうせうちの娘のせいでしょう?私に似てせっかちなんですよ。」

「いえ、実際真さんと過ごすことが楽しく私は盲目的になっていました。一月以上も挨拶を怠ったのはやはり私のせいです。」

「正人はああ言いましたけど、私は恋は盲目に年齢なんて関係ないと思っています。一月たって周りが見え始めた娘がいの一番に私たち家族にあなたの事を紹介したくなったのでしょう。」

 視線をずらし私は真を見ました。真は黙って小さくうなづきました。

「真の、この子達の父親についての話はきいていますか?」

「はい。存じています。」

 などと、それから私はいくつかの質問をしました。

 そして残る二つの質問をしました。

「善樹が問いましたけど、もう一度聞きます。あなたは真を私が想うよりも大切にできますか?」

 母親である私よりも娘を、真を大切にできるとは、生半可な気持ちでは言い切れないはずです。私は試しました。娘が信頼しているはずの彼を私も信じるために。

「はい。」

「結婚も考えていると聞きましたが、貴方は真の、私たちの家族になる覚悟がありますか?」

「はい!」

 不思議と短い返事が心にスッと入り込んでいくようでした。

「私たちは新しい家族を歓迎します。」

「ありがとうございます。・・・ありがとうございます。」

「なんか結婚まで確定みたいになったな。」

 ボソッと長男が呟くのでありました。


 長いようで短かった鳴海輝彦さんの私たち家族による面接はこうして終わりました。少しずつプレッシャーを与え、最後の私の質問にイエスを突きつける覚悟があるかどうか、そこが肝でした。ここで『はい』と答えれば認めようと三人で決めていました。それでも、正人はまだ少しぶーたれてますけれど。姉離れできないのです。ふふ。

 鳴海さんが帰った後私は真に話しかけました。

「鳴海先生に一目ぼれした理由あててあげようか?」

「お母さん・・・。わかった、じゃあ、せえので答え合わせしてあげる。」


「「お父さんに似ていたから。」」


おわり



小説を書くのはエネルギーがすごく消費されます。

私の稚拙な文ですらそうなのですから、面白い話を上手に書く人たちの苦労は計り知れませんね。


小説を書くのは二度目なので(一度目は完結させれませんでした。)無茶苦茶かもしれませんが、もしここまで読んでくださった方がいれば、本当にありがたい限りです。ありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 読みやすい文章でした。 最初「私」がお父さんか思っていたので読み進むにつれて混乱しました。お母さんだったのですね。 小さな子も面接に参加できるのが良かったです。
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