第四章 ― 現実から夢世界へ
この世界を見渡した。たしかにここは現実とはかけ離れた異世界だ。
しかし景色が違うだけで特に変わった点はない。
「ここって夢世界なのにあんまり現実と変わらなくないか?」
さっき今回は質問をやめると言ったがこのことはやはり気になってしまった。
「そんなことないですよ!では証拠を見せましょう」
彼女はそういうと軽くジャンプし、宙に浮いたのだ。
「ほらっ!ご主人様もジャンプしてみてください」
言われた通り半信半疑でジャンプすると本当に宙に浮いたのだ。これが現実との違いなのか。
「他にもですね―」
今度は右腕を右に伸ばすとこの世界の神器?のようなものが現れた。
「これは神器 ハートブレーカー。心を壊すという意味です。私にピッタリの名前ですよね?」
あ、自覚はあったんだ。でもこんなシステムを現代社会に出したら世の中の中二病という中二病が覚醒してしまうぞ?というか中二病が増えるぞ?
俺も真似して右手を右に伸ばすが何も現れない。
「ユキ?何も出てこないがこれはバグか?」
「バグじゃなくて仕様です。先ほどおっしゃったように中二病が増えることを防ぐ為にマスターが特別な人しか具現化できない様にされてます」
「先に言えよ!恥ずかしいだろ」
「私がやったら絶対に真似するなーって思ったのでご主人様の恥ずかしい姿を見てやろうと思いました」
「やはり一回死んだほうがいいんじゃないか?」
「特別にマスターにご主人も具現化出来るように頼んでおくので許してください」
謝るなら最初からするなよ・・・
彼女は憎たらしくてどうしようもない毒舌人工知能だけど俺は嫌いじゃなかった。
「あ、今日のお仕事はこれで終わりなので報告書を出せば自動的に支給されます」
「了解、じゃあもう戻るからな」
「お気をつけて」
そして『ログアウト』と叫んだ―
目の前がゆっくりとブラックアウトしていき、あの反動を受けながら俺は現実世界に戻った。
目を開けるとやはりいつもの部屋で寝ている。時間は午後4時になっており今日の夕飯代を稼ぐべく報告書を書くことにした。ん?報告書って言ってもあれは夢だしどうやって渡すんだ?
俺の頭の中に不安と疑問が走った。わからない。
もしかしてまた戻ることになるのか!?
俺は何も言わずヤケクソでもう一度ベッドに寝転がりただ『ログイン』とだけ叫んだ―
流石に三回目だと気持ち悪い。今すぐにでも吐きそうだ。
これは慣れる慣れないの問題じゃない。
「あれ?ご主人様、なんで戻ってきたんですか?」
「報告書の出し方を聞いてなかっただろ?」
「あー!そういえばそうでしたね。私宛にメールで報告書を送ってくれれば結構です」
「それを聞きに来ただけだからもう戻るな」
『ログアウト』と叫んだ―
・・・。
しかし何も起きない。
俺は最悪の事態が起きてないことを祈りもう一度『ログアウト』と叫んだ―
・・・。
「多分α版なのでログアウトできないバグが起きたと思われます」
身体から冷汗が止まらなかった。なぜならこの世界で絶対に起きてはならないバグが起きたからだ。
「思われます。で済むか!俺はどうなってしまうんだ?現実の体は?」
「安心してください。夢世界に転移されてることになっていますので」
どーいうことだ??
確かに夢の体にしては現実に似ているとは思っていたが本当に現実の体で夢世界に来ていたということなのか!?それはつまり―
「つまりここで死ねば本当に死んだことになります」
やっぱりそうか・・・でも現実に戻れるならば関係ない。
夢の中で死ぬ前に現実世界に戻ればいい話だ。これができれば何も問題ない。ノープロブレム。
「でも安心してください戻る方法はあります。ただし戻るにはバグを直さないといけません。しかし不幸なことにバグはこちらからしか直せませんので」
「つまり俺達でバグを直せばいいんだな。でもどうやって?」
「バグというのは一つバグるとそのバグがさらに二つ三つとバグを作り出してしまうので一つ一つ具現化したバグを倒さないと戻れないんですよ」
俺は具現化という言葉で理解した。つまりログアウトできないバグがゲームで言うラスボスでありラスボスが別のバグを作りそのバグはラスボスの取り巻き。つまり敵キャラ。多分具現化できる機能がバグってバグが敵キャラとして出てきてしまうのだろう。
「でも倒すってどうやって?」
「神器ですよ。さっき見せたでしょう?」
「でもあれはユキしか具現化できないんじゃ?」
「不幸中の幸いと言いましょうか、ちょうどマスターがご主人様も具現化できるようにしていたので具現化できるようになっていると思いますよ?」
俺はそういわれて右腕を右に伸ばした。すると禍々しい神器らしきものが出てきた。
「それは不幸になればなるほど強くなる神器 暗ハッピーですね。ご主人様にピッタリですね」
おちょくってるのかこいつ?ていうか暗ハッピーってダジャレかよ・・・
「ではドキドキワクワクの冒険に出かけましょう!」
俺は気が乗らないままゆっくりと歩き出した。