第三章 ― 再び
夢世界から戻った俺はネットで俺と同じ体験をした人がいないか探した。
これは当然の行動だろう。無差別に世界中の誰かにメールが送り付けられてただ俺一人だけにメールが届くなんて宝くじより低い確率だからな。
だってそうだろう?もし飛行機が無人島に墜落して自分は生きていた。
もしこんな体験をしたらまず何をする?普通は、ほかの生存者を探す。
だって自分が生きてるんだから一人くらい生きてたっておかしくない。そういう考えだからだ。
即ち俺のほかにメールが送りつけられた人がいるって考えもおかしくないというわけだ。
しかし結果はゼロ。
いくら検索しても何も出てこないのだ。しかしこの経緯から俺は3つの仮説を立てた。
これまでの経緯で俺が考える仮説―
1、ユキが言っていたことが本当でキチガイ研究者が俺に偶々メールを送り付けた。
2、俺が気が狂って現実と中二病をリンクさせ始めた。
3、あれはただの夢だった。
大きく分けてこの三つだろうな。
一番正解と思うのは二つ目か・・・
俺は生活費のほとんどをお小遣いのように使い食費がなく俺はまともな食事をせずここ数日間生きていたわけだしな。一番理屈として通ってる。
とりあえず今月の生活費を確認するか―
「えーっと―980円。俺、終わったな」
残り約20日を980円でどう過ごせばいいんだ!?まさに死の宣告だった。
あの空想世界で起きたことが本当ならいいバイトになるが・・・
―試してみるか
確か『ログイン』であの世界に入れるんだよな。
俺はしっかりとベッドに寝転がり時計を確認した。今は午後2時か―
俺は目をゆっくりと閉じ『ログイン』と叫んだ。
すると数時間前にあのメールを受け取った時と同じ睡魔に襲われた。
無理矢理寝かせようとしているからか、わからないがお世辞にも気分がいいとは言えないほど脳や身体への反動は酷かった。α版だから仕方のないことなのだろう。
―そして再び目を開いた。
目の前には例の夢世界とユキが立っていた。
「おかえりなさいませ!ご主人様!」
この温度差に飲まれないように必死に自己暗示した。
「なぁ―聞きたいことがあるんだが聞いていいか?」
論点がずれないように質問をする。数時間前は動揺しすぎてまともに質問できなかった。
その上、ユキが変な方向に会話を持っていくため整理に時間がかかった。
「いいですよー?」
ユキはポカーンっとした顔で適当に返事をした。
「ユキと話すと仕事代としてお金が貰えるんだよな?」
「そうですよ。ただし私と会話してその報告書を出した場合のみ支給されます」
「数時間前はそんなことは言ってなかったはずだぞ」
「何と言いますかねー。その私の生みの親であるマスターが数分前に修正したんですよ!!あ、マスターっていうのは例の研究者のことですよ」
理不尽だ!誰もがそう思うだろう。いきなり働かされて仕事内容が段々と酷くなっている。
このまま行けばさらに酷くなることは目に見えてる。しかし今月を980円で乗り切るのは流石に無理があった。でも普通に働くよりは全然楽だし何といっても一万円だからな。
「まだ質問はある。この会話も仕事に含まれるのか?」
デバックの内容は多分この世界のバグを探し出し報告することだ。
しかしここまでユキのマスターとやらが理不尽だとユキの言うマスターの頭がバグっていると思う。ユキより自分の頭をデバックしないか?マスタ―さん。
「含まれます。仕事内容は『私と会話する』なので現在の会話は仕事と認識されています。他にご質問はありませんか?」
「そうだな、まだ聞きたいことはあるけど一気に聞かれても大変だろうし今回はここまでにしておくよ」
「ご主人様!もしや私のことを気遣ってくださったのですか?なんと珍しい!不幸で他人に気遣われる存在のご主人様に気遣われるなんて槍でも降るんじゃないですか?」
相変わらず毒舌でボロクソ言うが彼女は優しく微笑んでいた。