第二章 ─ 夢の中
プレゼントアイコンをタップした俺は激しい睡魔に襲われた。
目を覚ますと見たことも無い世界に立っていた。
まるで異世界ファンタジーの中に迷い込んだような気分だった。
「―俺はついに異世界召喚とやらにあったのか!」
俺は驚きと夢を込めて叫んだ。
「夢みたいな話だな!でもやっぱり存在したんだ。異世界は―」
「いいえ。異世界なんて存在しません。先ほどおっしゃってた通り『夢』です」
後ろを振り返ると超美少女が立っていた。
「えーっと・・・?」
「だから『夢』です」
「やっぱりそうなのか─」
(なんとなくサバ読んでたけど)
「でも安心してください。ここは『夢』ですけど人工的に作られた夢世界の為異世界みたいなものです」
この美少女は何を言っているのか。人工的?夢世界?さっぱりわからん。
「えーっとまず君は誰なの?」
「私はある研究者に開発された人工知能です」
彼女は人工知能と言ったがそうは思えないほど人間に近くて歳は俺と同じくらいだ。
さらに薄い黄色髪のロングヘア―の美少女でモデルのようなスタイルの良さだった。
「それで俺になんであんなメールを送り付けたんだ?」
「それはあなたが不幸だからです。現実が不幸で悲しい人なら不幸慣れしてる為許してくれるだろうということです」
「それはどういう意味だ?」
俺はかなりイラつきながら返答した。人工知能にイラついてもしょうがないということはわかっていたが自分のことを不幸だとか悲しい人とか言われるのが悔しかったんだろう。
「言わばモニターですね。」
「・・・・・・?」
「夢の中で楽しめる夢アプリという最新技術を使ったアプリのモニターです。なのでモニター料も支払われます」
モニター?俺にはいろんな事が急すぎて頭の中で整理するには時間がかかった。
いきなり変な世界に呼び出されてモニターをしてくれとかいわれても困惑して誰もがこうなるはずだ。
「まだα版ということなので不具合が沢山ありましてね。実験台が必要なんですよ。さらに人手不足で猫の手も借りたいくらいなので―」
は?その言い方だと俺はモニターではなくテスター。つまり頭のおかしい研究者の実験台として使われさらに働かされるっということか。阿保らしい・・・誰がそんなパシリみたいなことを喜んでするんだ?
「えーっとまず何円くらいもらえるんだ?」
「たしか、一仕事に付き一万円でした」
「一万円か!すぐやる」
俺はこの時かなりお金に困っていた。親は仕事でほとんど家にいなくて一人暮らし状態、その為生活費なども自分で管理しもちろん家事も自分でやっていた。だが俺は生活費のほとんどをゲームにアニメにラノベとお小遣いのように使っていた。その為お金が本当になくて困っていたのだ。
「まず何をすればいいんだ?お前の世話とかか?」
「お前じゃないです。私の名前はユキです。お気軽にユッキーっとお呼びください」
「じゃあユキ。俺はいったい何をすればいいんだ?」
「最初の仕事はですね。まずデバックをしてください」
デバックとはコンピュータプログラムや電気機器中のバグ・欠陥を発見および修正し、動作を仕様通りのものとするための作業である。
「アプリって言ってもここは夢の中だろ?具体的に何をすればいいんだ?」
「私とお話すればいいのです」
「それだけ?」
「それだけです。不幸で哀れな男なのに美少女である私と話せるなんて素晴らしい幸福じゃないですか?」
きょとんっとした顔で俺を憐れむ姿は俺にクリティカルヒットを出し、心にヒビが入った。
「でも話すって言っても何を話すんだ?」
「あ、もしかしてご主人様ってコミュ障ですか?コミュ障が美少女と話すなんて登山初心者がエベレストに登るくらい無謀ですよね。すみませんでした」
うわぁ最初はちょっと可愛いなって思ってたのに自分で美少女って言ったり俺のことボロクソ言ったり何なんだよこいつは。あと俺はご主人様っていう設定なのね。
「そういえば現実はどうなってるんだよ!俺まだ現実でやることがいっぱい―」
「そうでしたね。やっぱり私なんかより現実を優先するんですね」
意味深な事を言う人工知能だな―
普通の男子なら俺に脈あり?とか勘違いするとこだぞ。
「えーっと―これってどうやって現実に戻るんだ?」
「・・・さぁ?」
「殺すぞ?」
「すみませんすみませんすみません。冗談です。すぐに教えるので許してください。現実に戻る方法は『ログアウト』っと叫べば戻ります」
俺は呆れながらも戻ろうとした。
「よし!ログアウ―」
「待ってください!美少女と話せたんですよ?料金は三万円になりまーす」
満面の笑みで彼女はゲスいことを要求しやがった。ていうかモニター料より高いじゃないか。あいつと話して一万円で美少女と話せてマイナス三万円だったら俺は何の為に働くんだ?頭おかしいだろ。
「お前をログアウトさせてやろうか?」
俺も満面の笑みで答えてやった。
「すみませんすみませんすみません。冗談です。あ、この夢世界に入るときは寝る前に『ログイン』と叫べば入れますのでお忘れなく」
「わかった。じゃあもう行くからな。―ログアウト!」
そう叫んだ途端目の前が真っ暗になり目を開けるといつもの部屋だった。
「あれは本当に夢だったみたいだな。えーっと時間は1時か―」
あれは人工的に作られた夢世界と俺はここで確信した。
なぜなら俺があのメールを開いたのが11時半。たった1時間半であそこまで長い夢を見るなんて普通はありえないからだ。なぜあり得ないかは人間が夢を見る仕組みに答えがある。
人が夢を見る仕組みはご存じだろうか?
人間が寝ている間はレム睡眠とノンレム睡眠の二種類がある。その二つが周期的に行われているのだ。
普通は深く眠っているノンレム睡眠が長く行われる。
ノンレム睡眠時は深く眠っている為軽い物音などでは起きないのだ。対して軽く寝ている状態のレム睡眠の時に人間は夢を見るのである。
即ち、夢というのは起きかけている時に見るものなのだ。
なのに俺は寝ている間ずっと夢を見ていた。
そして最大の根拠となるものは『ログアウト』と叫んだ瞬間に目が覚めたからだ。
あとは寝る前に『ログイン』っと叫び同じ夢を見れば本物だろう。