二十五.すれ違い
―――数時間後。
広場に設置されたステージ上では
エラと数人の少女がスポットライトを
浴び、華麗な舞いと歌声を披露していた。
それを熱心に観るハクアの隣ではミードと
テンジャクがこそこそと話し込んでいた。
「わかっていたよ、お前の考えは
わかっていたけど。俺は単に芸術が
学びたいからここに来ただけだ、
政治や王のことは俺には関係ない!」
テンジャクは怒り口調でそう話した。
だがミードは食い下がる。
「俺とお前、それからラキニルが手を
結べば、国は一気にひっくり返る。
実際、ラキニルは『王国』になりたいんだ。
ジオリブから独立した王国に昇格したいが
それにはジオリブ国王の許可がいる。
今の王家はそれに従いたくないだろう……。
だからこそラキニルは経済支援をして
お前を王にしてくれる」
普段から温厚で知られるテンジャクは
今や真っ赤に激昂していた。
「なんだそれ! 知ったことか!
じゃあお前が王になればいいだろ」
「俺はジオリブ王家の血筋じゃない!
お前しかなれないんだよ!
そんなこと百も承知だろうが!」
「うるさいよ! エラの声が聞こえない!」
ハクアはハクアで、何も今ここで
話さなくても、と苛立ちをぶつけた。
ミードは最後の一押しとばかりに
テンジャクの肩を掴んだ。
「よく考えろ。その条件さえ飲めばな。
ラキニルはサルバト一味を支援せず
ジオリブと同じくレッド一派に回る。
そうすれば同盟国となり、物資や技術の
行き来も出来る。もちろん人の行き来もさ」
ラキニルにいる互いの父親。
だがジオリブの朝敵とみなされ、
今は会うことがほとんど叶わない。
テンジャクが現政権を破り王となれば
そんなものいとも簡単に壊せるだろう。
テンジャクはしばし考えた後、苦虫を
噛み潰した様な悔しそうな顔をした。
結局は今回も、ミードの意見に従わざるを
得ないのであった。
その数日後。ようやくコンパスが完成したと
一報を受けてハクアはシルクスとラウルスを
高学院に呼び寄せた。
その道中でシルクス達に、先日耳にした
伝承のことを尋ねてみる。
「ああ、聞いたぞ。カズラ殿は
ローズの子孫だったとな。
通りで、懐かしい匂いがしたわけだ」
「通りで、僕の姿を知っていたわけだ」
角猫と角ムササビは口々に感想を漏らした。
そしてシルクスは、こんなことも口にした。
「ロゼナの赤毛の少女の話は知っているか?
金属有機体の匂いがぷんぷんする子だ。
自分の力にひどく怯えていたから
ビャッコを向かわせたのだが、
どうやら元より知り合いだったらしい」
「へえ? ロゼナなら母さんの親戚かな?」
「ふむ……。毛は赤毛だったがな」
その後シルクスとラウルスは教授の
コンパスの試験に付き添う為、
ひっそりとラボに入って行った。
その間、ハクアは図書館前のベンチで
本を読んで時間をつぶすことにした。
「ハクア? 何してるの?」
はっと顔を上げるとそこには生物学の
授業をともに受けるワットがいた。
「ああ、ちょっと教授に呼び出されて」
「またヴィヴィアン教授?」
「まあね。君は?」
「僕は……、女帝に呼び出されてね」
「女帝……?」
ハクアはミードの話を思い出した。
――――国王の姪か。
「シルヴァだっけ? なんでまた君が?」
理由を問われたワットは途端に表情を
変え、ほんと勘弁してほしい、と
ばかりにため息をついた。
「私のことじいっと見てたでしょ、だって。
それでお説教。ぜんっぜん見てないのに!
見てたのはその隣の子なのに~!」
「それは……、つらいね」
ハクアはしみじみと頷き、訊ねた。
「で、シルヴァはここに来るの?」
「―――――あら、私の話してるの、だあれ?」
後ろから声が聞こえ、振り返ると
そこには氷のような微笑みをたたえた
美しい女子生徒が立っていた。
「あら、君、ハクア君じゃない。
お目にかかれて光栄よ?
あなたも私に気があって?」
ハクアの頭の中は疑問符で溢れ返った。
どういう流れでこうなるのだろう。
だが、こじらせるとややこしいことに
なるのはハクアの本能が警告していた。
―――――もしかして、テンジャクが女帝に
目を付けられたのって政治的な理由
じゃなく、ただ拗らせただけなんじゃ。
先日のフラウェルの街での女子人気を思い
ハクアはちらりとシルヴァを見上げた。
冷たそうな眼はハクアと目が合うと
微かにくすりと微笑んだ。
その眼差しは美しく、だが
同時に寂しそうでもあった。
そんな彼女はやがてその眼を
ワットにも向けるなり
「君達、今からデートしない?」
と突拍子もないことを言い出した。
「い、いえ、その……
これから用事がありまして」
焦るワット。
「ふうん? どんな用事?」
今日は授業はない。休日である。
言い訳を作ろうにも制限がある。
宿題やら教授に呼び出されたやら
色々並べてみたが女帝はことごとく
私が手伝ってあげるやら、教授には
後で言っておいてあげるやら、
彼らの逃げ道を塞いで行った。
従うしかないのか、と二人が
諦めかけたとき。びゅうっと
あたりに風が吹き上げた。
「乗れ、ハクア。
コンパスは完成した。
仲間を探しに行くぞ」
実験を終えた白猫シルクスであった。
ハクアは思った。自分はこのコウモリの
翼を持つ猫に何度、救われたのだろうと。
だがその凛々しいはずの猫の角には
どういうわけかピンクのリボンが
所せましと巻かれ、そこには更に
キラキラと輝くラインストーンが
これでもかと取り付けられていた。




