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風雲の場所  作者: yunika
第二章
67/79

十八.迫りくるとき

銀の木は立派に成長し、滝の周りには色んな

動物や人が集まってきた。言い伝えでは木が

持つのと同様の銀の角を生やした猫やムササビ、

ヘビや鳥と思わしき生物達もやってきた。


トージャはその木に名前を与えた。

その名は楡の木だからと「ニレ」。


「何のひねりもないなあ」


とアキニスやローズは笑っていたが、人の言葉を

話さずとも幹や葉を動かし表情をころころ変える

ニレのその様子に、彼らは木とその仲間を親友の

様に想う様になっていた。


だが木に抱く想いは彼らの様でない者も沢山いた。

トージャ達の様子を気味悪がる者もいたし

銀の角の生物達を珍しがり欲しがる者

あるいはそんな者に売りつけられないかと企む者。

だが誰かが気を切り倒そうとしても、ニレはびくとも

せずむしろ刀側が刃こぼれしたり折れたりしていた。


そんな様々な思いが交錯する中で、ニレは悠然と

滝壺の泉に有り続けた。




そんな日常が続いたある頃。

ローズはとても落ち込み食事さえ喉が

通らないでいた。だが男勝りなローズは

その理由を明かす訳にはいかない。


トージャやアキニス、他の村人の前では

明るく元気に振る舞っていたのだが。

彼女の母親は娘の元気のない様を心配し

こっそりとアキニスに相談に行った。


そんなアキニスから返ってきた返事は

彼女にとってかなり予想外なものだった。


「トージャとアゲハの祝言が決まったから

 じゃないかな。ローズ、昔から兄貴の

 事が好きだったから」


「ええっ、そんな素ぶり一度も見せた

 ことがないわ」


ローズの母親は驚き、どうして? と

アキニスに尋ねた。


「アゲハが兄貴に会いに来るたびローズは

 心なしか暗くなるしその反動で男勝りに

 拍車がかかるし。トージャは優しいけど

 ローズをそんな目で見ないしなあ。


 そもそもローズがそんな目で見られようと

 してないってとこが問題なんだけど」


「アゲハの御嬢さんとトージャは親同士が

 決めた結婚でしょ? ローズに可能性は

 全く残ってないのかしら?」


正直アゲハよりもうちの子の方が気立てが

いいのに、とローズの母は言った。

その台詞にアキニスは笑いながら


「なくはないけど、アゲハとローズも互いに

 旧知の仲だしこの村と油屋の関係は密接だ。

 村の空気が悪くなるようなことをローズは

 したくないんだと思うよ。


 我慢してきた反動で男勝りになったのかなと

 思うと、やっぱり思うことはあるけどね」


ローズの気持ちを汲んでそっと見守ること。

それが唯一、彼女に対し彼らに出来ること

であるように思えた。


アキニスは義姉になるはずのアゲハのことが

あまり好きではなかった。美人でにこにこ

しているが、その目の奥は笑っていない様に

感じていたからだ。


あの目を毎日見ることになるのかと思うと、

どうにか拗れてローズとトージャがひっついて

くれないかと密かに願ってはいたのだが。


「大丈夫だよ、おばさん。

 ローズは強い女性だし、自分で立ち直るから。

 それに嫁ぐ先に困ったら俺が探してやるよ」


とアキニスはけらけら笑い、ローズの母親は

冗談なのか本気なのか、素敵な提案だことと

言い、彼のもとを後にした。




そして祝言の日がいよいよ迫ったある日。

村の高台にある鐘が激しく打ち鳴らされていた。


「盗賊だ! 大勢押し寄せてくるぞ!」


村の見張り台から走ってきた男が叫んだ。

それも色々な国の村で暴れまわっている

大きな盗賊団の印を掲げているという。


村中の男達は武器を取り、女子どもを森へと

非難させた。だがローズの姿が見当たらない。


トージャは焦りを募らせた。

まさか戦う気ではないだろうな。


「盗賊め、一体こんな小さな村に何の用だ」


そこまで呟き、トージャははっとした。


――――ニレを自分たちの宝にする気か。


はたまた貴族に売りつける気か。

興味はないがそのどちらかであろう。


トージャは血相を変え、滝壺へと急いだ。




夜空には満天の星々が煌めいている。


星の位置は昨夜と変わらない。

光の明るさも大して変わりない。


だがまるでトージャに、こっちだよ

早く急いで、と語りかけるかの様に。


追いかけ、或いは先導するかの様に。

星々は目覚め、こちらをじっと見ている。


トージャの頭は焦りと危機感がその大半を

占めていた。だが、空と大地はあまりに

静かで優しい空気に包まれている。


これから何かを祝福するような、

何かを穏やかに見守っているような。


泉への続く坂道に差し掛かった時、

様々な銀の角を持つ友の姿が現れた。

彼らにはトージャと同様、何事かと

うろたえる表情があった。


「なんだか怖いよ」


ムササビ熊が話しかけてきた。


「大丈夫だから、隠れてなさい」


トージャは言った。


「私が蹴散らしてやろう」


大猫が話しかけてきた。


「女と子ども達を守ってくれ」


トージャは答えた。


トカゲが話しかけてきた。


「大丈夫かい?」

「ローズが見当たらないんだ」

「それならこの先にいる」


トカゲが指さす先には滝壺が見えていた。


「――――!?」


泉には大きく枝を広げるニレ。そこには

ローズが水の中へと進んでいく姿があった。


「ローズ! 何してる!?」


さっさと逃げろ――――。


そう言いかけてようやく、トージャは

ローズの意図を察した。


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