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風雲の場所  作者: yunika
第二章
62/79

十三.大猫の懸念

エメラルドの瞳が海面の光できらきらと輝く。

誇り高き白猫シルクスはロゼナの海岸に佇み

その額に生えた銀の角に神経を集中させていた。


その後ろでは彼ら仲間の中においてはまだ若輩

であろうラウルスも大猫の真似をする。


彼らはその角をまるでアンテナのように用い

何やら念派を飛ばしていた。

この地周辺で彼らが感じる禍々しい気配。


そして何より、この日この数時間前

耳にしたこと。その二つは賢人ならぬ

賢猫シルクスの中で合致し、行動に

移すに至ったのである。


――――ただ事とは思えない。

   仲間に告げなくては。


シルクスとラウルスは一心に念を飛ばした。



ハクアはこの日、両親の揉め事は一旦脇に置き、

シルクス達に自分が帰省した理由、即ち彼らと

彼らの仲間である角獣が危機にあることを

告げたのであった。

滝の一族の者達に彼らが見つかる前に

角の成分を取り出し彼らを探すコンパスを

作成する計画があることを告げていた。


だが齢数百年の叡智は高学院の教授

ヴィヴィアンの知恵を笑い飛ばした。


「私の角の成分を採るだと!?

 愚かな!」


だがハクアは黙ってはいなかった。


「君達の仲間が滝の一族に狙われるかも

 しれないんだ。

 ちょっと削り取るだけだよ。

 神経が通っていそうな場所には届かない。

 多分。それとも痛そうで怖いの!?」


ハクアはシルクスを乗り気にさせる為に

少しばかりけしかけてみたが、シルクスに

どうやらその手は通じなかった。

大猫はゆっくりと首を振り、


「怖いわけではない。

 むしろノミ避けの予防接種カモンだ。

 だがな、そもそも」


とひと置きしたうえで


「そもそも、我らの角はそんじょそこらの

 刃物では切り取れないのだ。

 唯一角を切り出せる刀が昔存在したが

 今ここにはない以上無理だ。

 何せこの角は金剛石より固いからな!」


と自慢げに鼻をならした。


「それに我らは角を使ってそれなりの距離に

 いる仲間と交信できる。

 ちょいと飛びまわってジオリブやラキニル

 周辺に潜んでいる仲間に最近の滝の一族の

 ヤバさ加減を知らせようと思っていた頃だ。

 その者達については遠くに離れるよう

 言っておく故心配には及ばん。


 だが、心配の種が確かにひとつだけある」


「ん? それってなに?」


尋ねるハクアにシルクスは先程の得意気は

何処へやら突然悲しげにうな垂れ、


「その昔、一族のやつらに角を奪われた

 仲間のことだ。


 件の刀は、我らを攻撃してきた滝の一族

 から奪ったのだ。我ら仲間を守るために、

 片方の角と引き換えにな。


 それ以来やつは姿を消した。さらには角の

 力が弱くなったせいか気配すら掴めぬ」


そう言ってシルクスは宝石のような瞳に

白鳥の羽のような睫毛を被せた。


かと思うと突如カッと目を見開き

意気揚々と叫んだ。


「コンパスを作るのに、角を削らずとも良い

 他の方法をひとつ、思いついたぞ!」


玉を転がすが如くコロコロと変わる

シルクスのテンションにハクアは目を

ぱちくりとさせる。もしシルクスが人間なら

きっとハクアの両肩を掴み熱く語るだろう、

そんなテンションの高さであった。


そうして語ったシルクスの思い付きに

ハクアはさらに驚かされた。


「お前の母君は、我らに及ばずともかなりの

 高濃度の金属有機体がその身に流れている。


 おぬしもそうだが所詮は含まれているだけ。

 血を採取すると考えれば多量になるはず。

 少年のおぬしより彼女が妥当だ。

 カズラ殿の血を用いろ」




こうして数時間後、ハクアはカズラを説得し

女史の待つスイレンの高学院へと二人で出立した。


シルクスはどこか違う場所からも仲間へ

念派を飛ばさねばと、ロゼナの海岸に

くるりと背を向ける。


そして振り向いたその刹那。

自然と移動した視線が捉えたもの。

それに気づき、シルクスは全身の毛を逆立てた。


そこには一人の赤毛の少女が立っていた。

まだたどたどしく幼いようだ。

その数歩後ろから母親らしき女性が小走りで

少女を追いかけてくる。


少女はシルクスを真っ直ぐに見つめ、

きょとんと首を傾げた。


「わたしのこと、よんだ?」


シルクスは固まったようにその少女を見た。

そして咄嗟に思った。


何か感じる、と。


(少女からか、後ろの母親か?)


隣のラウルスはシルクスの異変に気付き

同じく後ろを振り向いた。そしてシルクスの

視線の先にある少女を見、まるで何か

衝撃的な物を見たかの様に固まった。


だがそんな角獣達の様子など気にすることも

なく、少女はにこりと笑みを投げかける。


「ネコちゃんとクマちゃん、かわいいね」


シルクスとラウルスはポカンと口を開き、

何とも間抜けな表情となっていた。


「フォルカ、こっちへ来なさい」


母親はフォルカの手を引き立ち去ろうと

するも当のフォルカは頑として動かず

シルクスとラウルスを交互に見つめた。


そして彼らの額にある角を指差すと


「それ! それほしい!」


と叫んだ。未だ呆気に取られるシルクスに

代わりラウルスが冷静を取り戻し


「ごめんね。あげられないよ。

代わりにこれはどう?」


と、浜辺にあった美しい貝を口で拾い上げ

フォルカの手にそっと置いてやった。


「きれいね、フォルカ。

 熊ちゃんにありがとうは?」


母親はフォルカに促したが、

どうやら少女は不服らしい。


「これ、きのうもひろったもん」


と口をへの字に曲げ、べそをかきはじめた。


シルクスはどうにも子どもが苦手である。

歯に衣をも被せぬもの言いによって

しまいには泣かせてしまうからだ。

そしてこのときもやはりそうだった。


「なんという可愛いげのない!

 我儘だぞ!」


その牙を剥き出しにした獣の顔と、低い声。

たとえ意味は判らずとも幼い子を泣かせる

には十分であった。その上、フォルカは

大猫の言った台詞の意味も理解していた。


「うわぁーん! ねこちゃんのいじわる!

 こんなのいらない! いらないもん!」


そう言ってフォルカは顔を真っ赤にしながら

泣きじゃくり、そして信じられないことに

大人でも素手で割ることは中々出来ぬであろう

固い貝殻を握り、握り。さらに力を込めて。


バキッ!


目の前の幼い手から零れ落ちる貝殻の欠片。

シルクスとラウルスは信じられんとばかりに

またその衝撃度を現すが如く。角獣達は

その口を顎が外れそうな程に開いていた。

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