三.メッセージ
スカイジオ高学院の生徒に与えられる権限は
学院に集まる国内外の研究者の授業を
受けられることに加え、国一番の冊数と
規模を誇る図書館の無料貸し出し利用がある。
そして立地が近いことが縁で交流がある、
デリス高学院の食堂に出入り自由なこと。
デリス高学院では学べる料理のコースが
懐石料理から菓子細工までと幅広く、
指導も熱心で卒業生には王宮料理人を
務める者や自身の店を持つ者。
中にはエプロン姿で世間を魅了する
美男美女アイドルまでもがいた。
三人が向かった先、スカイジオ高学院の
向かいにそびえるデリス高学院。
昼前時だからか、授業の名残なのか
門をくぐると同時にかぐわしい匂いが
ハクア達のもとに漂ってきたのである。
デリス高学院の食堂は横長にだだっ広い
楕円形を描くガラス張りの建物であった。
中に入って見渡すと中央に、その建物を
縮小させたような楕円形のエリアがあり、
そこで数十人、いや百人を超えるのでは
ないかという学生達が調理に加え皿洗い、
下ごしらえなど目まぐるしく動いていた。
その隅にはカウンターが横に並ぶ。
どうやら注文はそこでするらしい。
自学院の生徒とスカイジオの生徒、教師、
様々な人々が並んでは料理を受け取っていく
様が見受けられた。
「何にするー?」
ジーンがカウンターの上のメニュー表を
見ながら呟いた。
「俺、粉もんがええわ。焼きそば。
オム焼きそば。やっぱオムライス」
「粉もんじゃなくなってるやん」
ハクアはシュウにツッコみつつ、
「じゃあ俺もオムライス」
と、カウンターの女子学生に声を掛けた。
「オムライス二つ。ジーンは?」
「プリンスのカレーで」
何だそれ、とハクアとシュウがジーンを
振り返った。彼女ははにかみつつ、ちらりと
調理場の方を見やる。
その視線の先には女子生徒達に囲まれている
コック姿の男子生徒が。
カレー鍋らしき物をかき混ぜ味見し頷きつつ、
それを女子にも味見させ、やたらスマイルを
振りまいていた。
プリンスのカレーとはどうやら彼の作る
カレーのことらしい。
「じゃ、じゃあプリンスのカレー、一つ」
ハクアはカウンター係に告げる。
「普通にカレー、で大丈夫よ」
どうやら女子生徒の間でそう呼ばれているだけ
らしかった。カウンターの女子生徒はくすりと
笑いながら、背後にいる別の生徒に注文を渡す。
「オムライス二つ、カレーひとつ、了解です」
そう言った生徒――――、髪を縛り、コック帽を
被った女子生徒はてきぱきと手を動かしつつ
ふと手を止めるなりハクアの方を見やった。
「ん?」
調理する女子生徒が何か呟いた気がして、
ハクアは目をぱちくりとさせたが、
女子生徒は調理に集中していた。
待つこと数分。出来上がってきた料理には
銀の蓋が被せられており中は見えない。
それがかえって未だ目にかかっていない
料理への期待感を増幅させた。
「さてさてっと」
席に着くなりシュウが真っ先に蓋を開けると、
赤いトマトソースがかかったオムライスが
どんと皿の上に盛ってあった。
卵もとろとろでハクア達の好みである。
ジーンはそっと蓋を開けて見るなり、
なにやら再びはにかみ始める。
それを横目で見たハクアであったが、
カレーの中に浮かべられている具材がすべて
ハートの形に揃えられていることに気付き、
ただ唖然としていた。
まあ、人のときめきに口を出してはいけないな、
と気を取り直し。
シュウの眼前にあるものと同じオムライスが
あることを想像しながら彼も蓋を開けた。
だが――――。
「ええ?」
ハクアは驚いた声を上げた。
目の前にあるものが、彼の想像したものでは
無かったからである。
注文したオムライスは確かにあるのだが、
彼のそれにはソースがかかっていなかったのだ。
だがその代わりにケチャップが多少かけてあった。
「ケチャップがかかってるけど――――」
ジーンがハクアのオムライスの異変に気づき
覗き込んだ。
「かかっているというより――――」
「書いてる」
ハクアとジーンは声を合わせた。
ハクアのオムライスの上には、ケチャップで
書かれた文字があったのだ。
「なんて書いてるんや?」
お先にと一人食事を進めていたシュウも
ハクアのオムライスに目を落とした。
「えー、これは……。
ハクア、なんかしたんか?」
「いや、ここに来るの初めてなんだけど」
ハクアは呆然としていた。
三人が見つめるオムライスの上には、
ケチャップではっきりと『ハクアのばか』
と書かれた文字が艶を放っていたのだ。




