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風雲の場所  作者: yunika
第一章
45/79

四十五.金属有機体

四人は居間へと場所を移し、カズラは

昨日の夜から何も食べていない彼らに

茶と軽食をテーブルに用意した。


「良い香りですね、奥様。

 これは一体?」


ヴィヴィアンが興味深げに覗いた器の中には

白味を帯びた黄金色のスープ。

その上には三つ葉が浮かべられている。


「鰹出汁と玉ねぎの味噌汁ですよ。

 味噌は白味噌。中には半熟卵と

 すりおろした山芋も入っています。


 主人が現役の頃、夜勤明けには

 これが一番だと申しておりまして」


「呑んだ明くる日にも最高だ」


ビャッコは我先にと箸と器を掴む。


「まあ、まずは疲れた体を癒せ。


 そうだ母さん、風呂も沸かして

 おいてくれないか」


だが味噌汁をすすりながら声を掛ける

ビャッコにカズラはキッと振り向き、


「私は貴方のお母さんじゃありません!」


と一喝した。昨夜、母親に行先を告げた

ハクアは兎も角、無断で鉱山に出かけた

ビャッコには何のつもりだとばかりに

カズラは腹を立てていたのだ。


「母さんの味噌汁は最高だね」


ハクアは一口味噌汁をすするなり

旨い、と平和な声を漏らす。


「ええ、とても滋味深い」


「確かにこれは眠りの足りない朝に最高」


ヴィヴィアンとリオネル達姉妹も

口を揃えて味噌汁の味を褒める。


カズラはご機嫌がやや戻ったのか、

あらそ~お? と嬉しげに言いながら

炊きたての白米と焼き鮭を出す。


だがテーブルに置くや否や、鮭を箸で

摘まもうとするビャッコをカズラは

再びキッと鼻に皺を寄せ威嚇する。


「貴方の鮭はありません!」


「そんな無慈悲な……!」


先刻まで見事な刀捌きで敵衆を怯えさせた

誇り高き軍人は今や体を小さくさせ、

しょんぼりと落ち込んでいた。




夜食とも朝食ともつかぬ食事を食べ終えた

一同は少しほっとして緊張が解けたのか、

リオネルやヴィヴィアンもゆるりとソファに

背をもたげている。


やがて落ち着いた口調でヴィヴィアンは

研究の秘密を再び語り始めた。


「あの泉に眠っていて、彼の見つけた

 イルミナージュ・スティックという細菌。

 あれは特殊な磁性をもつ細菌でして」


「磁性を持つ細菌? 何ですか、それ」


初めて耳にする言葉にハクアは首を傾げる。


「体内に磁気を持つ微粒子を作る細菌です。


 磁性を持つ細菌自体は昔からよく見られ、

 岩石中等に取り込まれた特定の鉱物を

 選別するのにも使われます。

 この国でも既に使用されている技術です」


「アンスルは人体にもどうのこうのって

 言っていましたよ、姉様」


リオネルは洞窟でのアンスルの語りを

思い出し、ヴィヴィアンに告げる。


「ええ、研究は人体に使用する目的です。

 イルミナージュ・スティックは磁性に加え

 人体に感染し、DNAを送り込む特性をも

 持っています。


 更にその細菌が取り込むことが出来るのは

 これも幻と呼ばれる代物でありますが、

 金属であり有機物でもある『金属有機体』

 と呼ばれる、ある物体の遺伝子。


 それに目を付けたアンスルはその細菌が

 持つその特性を活かしたエキスを作り上げ、

 しまいにはその『金属生命体』の遺伝子を

 人のDNAに組み込む事に成功したのです」


ハクアは再び聞き慣れぬ言葉に疑問を持つ。


「金属有機体って?」


ヴィヴィアンは少しばかりためらうような

表情を見せたが、やがて意を決したように

再び語り始めた。


「……ラニッジ鉱山を脱出する際、私達は

 銀の角を大猫やムササビに救われたと

 妹より聞きました。


 それら幻の如き生物が持つ銀の角。


 それこそ『金属有機体』と呼ばれる物

 であり、まさにサルバト卿が欲していた

 と言われる夢のような物。


 その角の持つ遺伝子こそが、サルバト卿達

 滝の一族主家が未知のエキスを作ってでも

 その体に取り込みたかった代物なのです」


「シルクスやラウルスの持つ角?

 何でその遺伝子を!?」


ハクアは驚きに思わず身を乗り出し、

声を上ずらせた。


一方でビャッコは驚きつつも冷静を保ち、

腕を組み直しながら、ううむと唸る。


「毒泉を独占して、そんな事をしていたのか、

 毒泉どくせん独占どくせんしおって……」


ヴィヴィアンは目を丸くしビャッコを

きょとんと見つめている。


「毒泉を……」


再び口を開くビャッコ。だが、


「ねじ込まれたいですか、もういい」


とリオネルがしょうもないとばかりに

台詞をピシャリと断つ。


ビャッコは何故笑わんのだと不満顔に

なりつつも、しっかりと弁明を。


「固い空気を解そうと思ってな。

 どこで言うか考えていたのだ。


 ……そうだな、つまりはアンスルがいかん。

 毒泉どくせん独占どくせんしたアンスルがいかんのだ」


「教授、構わず続けてください」


ハクアもまたピシャリと遮り、

ヴィヴィアンににこりと笑いかけた。

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