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風雲の場所  作者: yunika
第一章
4/79

四.武の勝負

「こちらから行くぞ」


声が聞こえたときには既にジュラの顔が

ハクアの目の前にあった。


――左からくる! 


ハクアは咄嗟に感じたまま木刀を動かし鉄の

爪を防ぎ、薙ぎはらう。そのままジュラの

背後に飛び込むと、脇腹を攻撃した。


一発入った。ジュラが咳き込む。だがハクア

がしてやった、と思った刹那、野獣男は

木刀の先を掴んで振り回し、それを握る

ハクアごと投げて壁に叩きつけた。


ハクアは背中を強く打ち付けたが、すぐさま

身を起こそうとする。しかし咄嗟に気配を

感じて身を伏せた。その瞬間、頭上に鉄爪が

襲いかかったのである。


ギリギリのところで避けたものの、ハクアの

頭上からはパラパラと降ってくる木屑が。


背後の壁にはジュラの鉄爪が拳ごと突き

刺さっていたのだ。


「お前、速いな」


ジュラがぼそりと呟いた。


ハクアは返事もせず、木刀をつかみ直すと

床を蹴り、飛び出すようにジュラの横を

すり抜ける。ジュラはすぐさま壁から拳を

抜き、ハクアを追いかけた。


ジュラが再び鋼鉄の爪で引っ掻けようと

攻撃を繰り出してくる。ハクアは背後の

気配に意識を集中させ、ひたすら爪を避け

円を描くように道場をくるくると駆けて

いた。


周りの者からすれば、ハクアはただ逃げて

いるだけに見えただろう。


だが相手は大の男。


彼は知らずのうちに普段の何倍もの

凄まじい反射神経を発揮していた。恐怖が

そうさせるのだろうか、優秀な軍人家系の

血がそうさせるのかは誰にもわからない。


しかし逃げてばかりではいけない。ハクアは

攻撃に転じることにした。


ジュラが後ろから飛びかかってくる刹那、

ハクアは勢いをつけて前転をし、起き上がる

寸前で後ろから来たジュラの襟首を逆さから

掴んだ。

そして自身の回転を利用し、えいっ! と

投げ飛ばしたのだ。ジュラの大柄な体が宙に

浮く。そこに間髪入れず、ハクアはその体の

みぞおち目掛けて、渾身の突きを入れた。


ドスッと鈍い音を立てて、木刀の切っ先は

見事にあばらの間に命中した。


ジュラは突かれた勢いで反対側の壁にぶち

当たり、ゲホゲホと苦しげに咳き込むと低い

唸り声をあげた。背後の壁はミシミシと

音を立てている。


ハクアは木刀を握り直し、再び構えをとる。


だがジュラは壁にうなだれたまま、そこから

動く気配がない。

 

終わりか? とハクアはふと気が緩んだ。


と、その気の緩み感じたかのようにジュラは

カッと目を開くなり瞬時に飛び上がる。


そしてあっという間にハクアの懐に入って

きた。すぐにハクアは応戦するべく木刀を

振ろうとするが、どういう訳か固まった

ようにそれは動かない。


見ると木刀は、ジュラの両手にがっちりと

掴まれていた。


「お前は速い。だが、甘い」


そう言うとジュラは片方の爪に力を込め、

刀身を引き裂いた。あっという間に木刀は

枝分かれし、ぐにゃりと曲がってしまった

のだ。


そしてその鉄爪をハクアの喉元に突き付け、

じりじりと歩みを進めて彼を壁際へと追い

詰めた。


「お前の負けだ、小僧」

「いや、まだだ」


ハクアは悔しさに歯をぎりりと噛み締めた。

ジュラは冷徹な目でハクアを見据えている。


「無理をするな。

 この鉄爪の餌食になりたいか」

 

そのとき、厳しさを称えた女性の声が道場に

響いた。


「勝負ここまで!」


声の主はハクアの母、カズラであった。


「獣男、お前の勝ちだ、道場を煮るなり

 焼くなり好きにするがいい」


威勢のいい台詞とは裏腹に、カズラの凛と

した目には涙が溜まっていた。声も少し

震えている。


「この道場の威厳、もらい受ける」


ジュラは静かにそう言うと、ずかずかと

床の間に上がり、飾ってある掛け軸を壁から

外そうとした。


―――なるものか。

ハクアは声を張り上げた。


「待て! まだ勝負はついていない!」


ふとジュラは掛け軸を取ろうとする手を

止めた。ハクアは続ける。


「武による勝負は、しかと敗けを認める」

「ならば諦めよ」


ジュラは再度掛け軸を外しにかかる。

だがハクアは諦めない。


「――我が道場は、武勇の為だけにあらず。

 知勇への道も開いている」


その言葉にジュラは耳をぴくりとさせ、再び

手を止めた。それを見てハクアはここぞと

ばかりに高らかと言い放った。


「その道で戦わずして、我が道場の威厳を

 奪うことなどできない。

 それとも目の前にいる竜から目を背け、

 それで勝利を誇るつもりか」


ジュラは掛け軸から手をするりと離し、

ハクアにゆっくりと向き直った。


「竜とはお前のことか」

「違う。背負うべき誇りのことだ」


ジュラはにやりと口の端を上げた。


「いいだろう、知の勝負、受けて立つ」

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