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風雲の場所  作者: yunika
第一章
26/79

二十六.挽回の案

「そういえば、二人の父さんがコノクロ卿に

 はめられたって、俺の父さんから聞いた。

 大変だったんだね」


ハクアはビャッコから、二人が父親と

離れて暮らしている理由を聞いたことを

二人に告げた。


大人達の事情であるだけに、二人の口から

ハクアが今まで事情を知ることは無かったの

だろうが、彼はこのことを理解していたし

特に拗ねている訳でもなかった。


だが、


「巻き込みたくなかっただけなんだ、

 黙ってて悪かったよ」


と何故か二人に謝られてしまった。


「ハクアが無事進学する為にも、コノクロを

 理事から引きずり下ろしてやりたいよ。

 学院に悪影響を及ぼす可能性のある人物は

 理事会から入学を制されるけど、当の奴が

 一番悪影響さ」


堰を切ったように、コノクロ卿に対する

不満をテンジャクは洩らし始める。


「確かにな。

 そうすればハクアは進学出来るだろうよ。

 それかコノクロも手出し出来ない位の

 人物に推薦状を書いてもらうか、だな」


テンジャクとミードはうんうん、と

互いに頷き合っている。


「どっちにする? ハクア」


「無難なのがいいな、下手をするとますます

 入学が遠ざかりそう」


ハクアはうーん、と考えながらも、

自信なさげにそう言った。

 

だがハクアの反応を待っていましたと

ばかりに、テンジャクはにこりとハクアに

笑いかける。


「無難だね、じゃあ両方で」


「へっ!?」


テンジャクは普段は優しげながらも、時々

冷静かつ強引な所がある。

ハクアは幼馴染であるのでこういった彼の

対応には慣れっこであるが、この時ばかりは

どうやってやるんだよ、とさすがに驚く

ハクアであった。


「で、シルクスは何を食べるのさ?」


そのテンジャクが唐突に話題を変えた。


「俺の方を旨そうに見てたんだから、

 きっと人間さ。

 それより両方ってどういうこと……」

 

ハクアは話を引き戻そうとするのだが、

それに対しテンジャクは気にも留めずに

自身の疑問を投げ掛ける。


「でも猫でしょ?

 マグロとかササミとかじゃない?」


「猫じゃねえ。コウモリだよ、

 きっと葉っぱだ」


ミードが口を挟む。その答えにテンジャクは

納得がいかない顔をした。


「ハクアの話から察するに猫だよ。

 それにコウモリの餌は虫だ。

 どっちにしろ何か引っ掛かるんだ」


それがどうしたんだ、と突っ込みを入れて

さっさと進学対策の話に戻したい気分で

あったが、ハクアはこの本来王族男子の

マイペースを前に抵抗は無駄だと悟り、

ついに折れて提案役へと回る。


「じゃあ、ラウルスに聞いてみよう」

 

彼らは角を持つムササビ熊のもとへ

向かうべく、部屋を後にした。

 

ラウルスは現在、このニレの敷地を縄張り

として生活している。シルクスによる喝の

お陰なのかは分からないが、ジュラの背中に

いた時程ダラリとはしていない様だった。


だがラウルス本来の気質もあるのか、やはり

ダラリと日向ぼっこをしている姿が日々よく

見られた。


ハクアがそのムササビ熊の背に運ばれ、

血まみれでこの家に帰ってきた日のこと。


人々からは毛皮と思われていたラウルスが、

突如家の前に降り立ち、人語を用いて

事の次第を人々に話し始めたものだから、

ニレの敷地内はしばらくの間パニックに

なっていた。


そして珍獣の噂は家から近所へ。

近所から、町中へ。

町中からは、国中へ。


愛嬌たっぷりなムササビ熊はまたたく間に

この家の名物となり、今ではすっかり

子ども達のアイドルとなっていた。


そしてハクア達が外に出たとき、件の珍獣は

ジュラが居候するハクアの叔父、ロウガ宅と

ハクア宅とがつながる庭の隅にいた。


そこには木でこしらえた小屋が置かれ、

周りには子ども達からの貢ぎ物らしき

ボールやぬいぐるみが置いてあった。


当のラウルスはパンダがタイヤで遊ぶように

仰向けに転がり、腹の上に抱えたボールと

戯れている。


「ああ、シルクス? 

 人や仲間は食べないよ。多分、魚とかさ」


テンジャクが抱いた疑問に、ラウルスは

あっさりと答えた。


「ほら、見なよ。やっぱりそうだと思った。

 だって、ハクア達のことを試すって言った

 すぐ後に、そんなことを言うなんて変だと

 思ったんだ」


今度はミードが得心のいかない顔をする。

おそらく、シルクスが猫でなくコウモリで

ある説を未だ有力視しているのだろう。


「人間を食べないなら、何でシルクスは

 わざわざ俺を脅かすようなことを

 言ったんだろう」


訝るハクアであったが、ラウルスはただ

ボールを相手にし、それ以上は何も答え

なかった。代わりにテンジャクが応じる。


「それが今、正に試されているのかも

 しれないね」


「多分だけどよ。そのシルクスさえどうにか

 すれば、坑道は元通りになるんじゃねえ?


 コウモリの親玉だとしたら、頼めば全部

 連れて出て行ってくれるかも。


 焼き魚でも持って行って頼んでみるって

 いうのは?」


ミードはシルクスの好物は魚だと認めた

ものの、どうやらまだコウモリだと主張

したいらしかった。


「手土産の一つくらい持ってこいっていう

 意味だったのかもな」


そんなミードは肩を竦め、半ば呆れたように

おどけて見せる。

対してハクアは深刻な意味合いで

同じポーズを取った。


「だけど坑道を元通りにしたら、また

 コノクロが大儲けを始めるよ」


テンジャクはそんな二人をよそに、

順調に独自の推察を展開していく。


「その前に、気にならないか? ハクア達が

 シルクスに会った場所に辿り着くまでには

 隠し通路があった。だよね?」


ハクアには何が気になるのか少しピンと

来ていないようだったが、とりあえず

質問に応じる。


「ああ。

 それも親方達でさえ知らない様な、ね。

 でもそれがどうしたの?」


待ってましたとばかりにテンジャクは

悪巧みめいた笑いを浮かべ、ハクアと

ミードを交互に見やった。


「きっと隠したい何かがあったんだよ、

 そ、こ、に」


「コノクロにとってまずい何か、か!?」


体を乗り出すミードに、テンジャクはさらに

調子を上げる。


「ハクア、そこにはシルクスの他に何が

 あったんだ?」


「えーっと、人工的な階段に、水の流れる音、

 それから綺麗な泉、外からの光」


「綺麗な泉?」


ハクアの並べた言葉のうちの一つに

テンジャクが反応する。


「うん。

 孔雀の羽みたいな色で珍しい泉だったよ。

 だけどシルクスが言った。毒があるって」


「それだ! 

 その泉が鉱山全体に行き渡っている水源

 だとすれば?」


テンジャクはパッと顔を明るくした。

彼にしては珍しく、少しばかり興奮気味の

ようだ。


「コノクロは毒が染み渡っている鉱物を

 売り捌いてたってわけか」


ミードもテンジャクの意見に、成る程と

合点を打った。


「毒の泉を調べよう。

 高学院にいい先生がいるんだ。

 夏休みだけど、頼めばきっと力を貸して

 くれる。そしてあそこには毒が蔓延して

 いるんだって、世間に公表しよう」


ハクアは二人に合わせてうんうん、と

頷きながらも本当にそんなことをして大丈夫

なのだろうかと、目を泳ぎっぱなしにさせて

いた。


「じゃあ、魚でシルクスを手懐ける為に

 まずは明日、川へ釣りに行こうぜ」


「ああ!」


ハクアの動揺をよそに、兄貴分の二人は

爽快に笑い合うのであった。

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