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風雲の場所  作者: yunika
第一章
20/79

二十.いざ、坑道へ

翌朝、ハクアとジュラの二人は再び

ラニッジ鉱山へと向かった。


昨日と同じように列車で中心街を経由する。


ハクアは街並みを見つめながら、昨夜の

ビャッコの話を思い出していた。


ハクアの親友であり兄貴分であるテンジャク

とミード。

彼らの父親を国外へと追放した人物こそが、

昨日ハクアが鉱山で出くわしたコノクロ卿で

あるという話を。


それまでハクアは知らなかったのだが、

テンジャクの父親、キジャク・レオラルク卿

はなんとジオリブ王家の血筋であり、王位

継承者の資格を持つ人物であった。


現ジオリブ国王カンブリーグ3世の従兄弟

にあたるキジャク卿の継承順位は本来なら

前国王に次ぐ順であった。

彼は若き頃から既に立派なリーダーとしての

頭角を現しており、その人望と才知から

『希望の王に』との呼び声が高かった。


だがこの事態をコノクロ卿は重く見ていた。


彼は代々経済大臣を務める家系であったが、

思いのままにならない叡知の国王は

不要だったからである。


そして金にものを言わせ彼の意のままに

動かせる人物、カンブリーグ3世を

国王へと押し上げた。


キジャク卿とて協力者がいなかったわけで

はない。ミードの父親であり商人でもある

バッガス・ウェルズ氏は彼を後押しし、

資金援助をしていた。


しかし国一番の鉱山を所有するコノクロ卿に

その力は遠く及ばない。そんなあるとき、

バッガスはコノクロ卿の弱体化を図る一手を

握ることになったのである。


それはコノクロ卿の資金源である『銀の花』

に変わる鉱物の発見であった。それは天然の

鉱石によるものとは違い、単価の安い鉱物を

加工して出来た、人工『銀の花』である。


この技術を発見したのは隣のラキニル公国の

小さな製綱会社である。


そこの社長は安上がりで丈夫な金属が出来た

とだけ思っていたらしいのだが、

その特徴、性質はまさに『銀の花』そのもの。

このことにバッガスは目を付けたのだ。


「この安上がりかつ、量産可能な鉱物を

 ジオリブ国内に輸出すればどうなる?」


ビャッコはハクアに問うた。


「多くの会社は高値である銀の花に変わり

 安上がりな鉱物を使い始めると思う」


「その通り。

 バッガスはそこを突いてコノクロ卿の

 資金力を弱らせようとしたのさ」


バッガス氏はありったけの資金で製鋼会社を

買収、さっそくジオリブ国の会社に売るべく

根回しを始めたのだ。


しかし初めの段階でコノクロ卿に勘付かれ、

バッガスはジオリブ国を追放されてしまう。


そして大きな協力者を失ったキジャク卿も

失脚、カンブリーグ王が誕生した後の活動が

不穏な動きであると見なされてしまい、

バッガスと同じくラキニル公国に

追放となってしまったのである。


だが二人の友人であったビャッコは、

彼らのとある願いを叶えるために尽力した。


ジオリブ国で生まれ育った妻と子ども達を

そのまま国内に滞在出来るようにと彼は

各方面に手を回したのだ。


それが縁で子ども達はビャッコの道場に通い

ハクアと友人関係を築くに至ったのでもある。


「コノクロ卿はスカイジオ高学院に顔が利く

 理事の一人だ。

 おかげでテンジャクとミードは、進学の

 邪魔をされそうになった。お前も彼には

 十分に気を付けなさい」


話の最後に、ビャッコはハクアに

そう忠告を促したのであった。




「俺って、何も知らなかったんだな」


列車の車窓から中心街を眺めながら、

ハクアがジュラにこぼす。


「だが、ハク坊はもう知ってしまった。

 昨日までの貴方とは、もう違う。

 ……出来ることも、変わりましょう」


――俺に出来ること、か。

これまで、父や母から己の身の丈を知れと

散々言われてきた。

大きくなったら、それも変わるのかな。


ハクアはそう想いながら、ジオリブ国の

中心地であり混沌がうごめくこの地を映す、

その澄んだ瞳をゆっくりと閉じた。




二人が再び鉱山に辿り着いたとき、時刻は

午前九時前。平常ならば鉱山の朝はとっくに

始まっている時間帯だというのに、昨日の

ような作業員たちの姿は見当たらない。


「よう、来たね」


ハクアが背後の声に振り返ると、

そこにはメリザとヒムカの姿。


「こちらへどうぞ、お二人さん」


そう言って二人の親方はハクア達と

並んで歩き出した。


「今日は人が少ないね」


「今日は労働組合の集まりがあってね。

 いきなりの給料カットに皆で抗議中さ」


なんと昨日、コノクロ大臣の偵察後に

突如言い渡されたことらしい。


「俺達の働きぶりにご不満があるんだとか。

 しかも、帰った後に部下に伝えさせると

 きた。直接言えってんだ。

 きっと俺達の文句を耳に入れたくないん

 だろうよ」


そんな出来事に動揺しつつ、ハクア達は

本日作業の行われていない現坑道へと

案内された。


しかし、ラウルスが反応する場所は

ここではなく、旧坑道である。


ハクアは思わず立ち止まる。


「俺達が行きたいのはこっちじゃないよ」


「まあ、いいから黙ってついてきなって」


彼らが向かったのは坑道のトロッコ乗り場。


ヒムカが鉄製のトロッコを手で指し、

二人に告げる。


「さあ、乗りなって」


「え? これに乗るの?

 人用じゃないんじゃ?」


「つべこべ言わずに乗るんだ、ホラよ!

 朝と夕は人も乗せている代物さ」


そう言うなりヒムカがハクアをよいこらせ、

と抱き上げ、トロッコに乗せる。


続いてジュラもハクアの後ろに乗った。


「これを持っていきな」


メリザはそう言いながらハクアに

小さな鍵を手渡した。


「しばらく下り坂を進むとトロッコの

 分岐点がある。そこで降りて横にある

 銅の扉を開けるんだ。そっとだよ」


「そしたら、隣の旧坑道に出られるからよ」


コウモリが出るから気を付けな、と

ヒムカは付け加えるとトロッコを動かす

鉄のレバーをぐいと引いた。


ガコン、と杭が下がる鈍い音が響く。


トロッコがゆっくりと進みだし、徐々に

速度を上げながら、やがてカーブにと

差し掛かる。


ハクアは吹く風を涼しげに楽しんでいた。


螺旋状の坂道を二周ほど下った頃、

ようやく分岐地点が前に見えてきた。


ハクアとジュラは力を合わせてトロッコに

ブレーキをかける。


「ここだよね、親方が言っていた場所」


「はい、確かに」


二人がトロッコを降りると、線路の

すぐ脇の山壁に青銅の扉が見える。


「コウモリって大きいかな、小さいかな。

 とりあえず刀を持って来て良かったかも」


ハクアは腰の木刀に手をやる。

ジュラも本来の得意武器である鉄爪を

手の甲にはめた。


ジュラの背中では、いよいよラウルスが鼻を

ひくひく鳴らし、カタカタ身震いしている。


「大丈夫だ、ラウルス。

 恋の痛手などきっとすぐに癒えるだろう!

 コウモリなど恐るるに足らず。

 さぁハク坊、行きましょう!」


ジュラの、早く涼しくなりたぁーい、と言う

心の声がハクアには聞こえた気がしたが、

まぁいいか、と。

ラウルス、早く元気になって、と願いを

込めながら、ハクアは鍵を勢い良く

扉の穴に差し込んだ。

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