転生→就職
「ハッ・・・!!ハッ・・・!!」
深い森の中、虫とか覆いかぶさってくる植物をガン無視して全力疾走する男の荒い呼吸音が悲しく響く。
人が走るのには必ず何かしらの目的があるわけで、もちろんこの男も理由があるから走っているのである。
走るという行動とらなければいけない状況、例えば。
現実じゃありえないようなフォルムした生き物に追いかけられるとか。
「なんっで・・!!・・・ッハァ!!こんな、ことにぃっ!!!」
時間は少しだけ遡る。
女神の小悪魔的計らいによって半ば強制的に異世界の飛ばされた後、まず行うべきなのは状況の確認。
転送場所は森の中。ただでさえ虫嫌いのひきニートは現在位置が森の中だと分かった瞬間に発狂しそうになっていた。
その後、ガラスのハートは何とか持ちこたえ、ひとまず森からの脱出を第一の目標にして行動を始めることに。
異世界の知識がゼロのため、今いる場所がどういうところなのかとか、この植物の名前は何だろうだとか、あそこにいる奇妙な生き物はこっちを襲ってこないだろうかなど、不安に思うことはいくらでも出てきた。
いろいろ考えていた矢先、
「グルルルルルル・・・・」
このうなり声だけで近くに猛獣のような何かがいると直感できた。
頭をできるだけ動かさないように最小限の視点移動で後ろを見てみると-。
オオカミ。
それも人の4倍のサイズは軽く超えているとても大きなオオカミだった。
たてがみは尻のほうまで伸ばせるほどに伸び、手足のつめは鎌のように伸び、木などは簡単に引き裂けるほどの切れ味が窺えた。
甘がみされたとしても骨を折られてしまいそうな凶悪そうな口から大粒のよだれを垂らし、今すぐにでも食べられてしまいそうなほど近くにそれはいた。
「っ!!!!!!!!!」
何かを言うよりも早く、一気に駆け出す。
絶対に逃げられない。無残に噛み殺される自分の姿が容易に想像できた。
走る。走る。走る。自分のすぐ後ろで大きい足音がする。
追いかけられている。あのオオカミが自分を食べるために追いかけている。
でも、捕まらない。なぜ?疑問に思うも考えてる余裕はないんだと自分に言い聞かし、なおも逃避劇を続ける。
ここまでが事の顛末である。
「もうっ・・・無理・・・・」
スタミナがきれた。もう無理だ。死んだ。
第2の生を諦めた、その瞬間-。
雷鳴。
鼓膜など簡単の破くほどの轟音を辺りに撒き散らしながら、突如現れた光の柱のようなものはオオカミの体を貫いたあと、密集していたホタルが一斉に解散していくようにして消えていった。
「ジャングルメガロに襲われるなんて君も運が悪いね、大丈夫?」
女神様よりも少しばかり幼い感じの声が聞こえた。
振り向いた先には、ハンターや狩人という言葉が似合いそうな服装をした少女が小刀と猟銃を携えながら自分のほうを見ていた。
「助かった・・・本当にありがとう・・・!」
「いいんだよこういうの初めてってわけじゃないし、仕事名ところもあるし」
へらっと笑いながら少女は手をひらひらとさせて言った。
しかし、その後に少しだけまじめな顔をして、
「君のその服装・・・ここらじゃ見ない格好だけど・・・異邦人ってところかな?」
「まぁ・・・そんなところかな?」
勢いで同意してしまったが、まずかっただろうか。間違いは間違いで訂正しておいたほうがいいとは思うが、それはそれで不信がられたら元も子もないので黙っておくことにする。
「ま、これも何かの縁だし・・・私はシュティーナ。君は?」
困った。元の世界での本名を言ったところでそんな名前ありえないといわれそうな雰囲気を感じる。なのでネットで使っていたハンドルネームを使うことにする。
「僕はミズキって言うんだ。よろしく」
「ミズキ・・・結構変わってるね」
それでも不信がられたようだが、一応理解してもらっているみたいなのでこのままでいくことにした。
それからいくつかの質問をして、この異世界についてのことをいろいろ教えてもらえた。
まず、この森には人を食料とするような獰猛な生き物がうようよしているということ。
森から出たらすぐに大きな街があること。
この世界には魔法や職業とよばれる概念が存在し、シュティーナはエアリアルライダーという職業で、先ほどの光の柱も魔法によるものだということ。
「なにも知らないんだね・・・もしかして記憶喪失・・・はないか。名前覚えてるんだし」
何かを言おうと思う前に自己完結されてしまったので押し黙るような形になってしまった。
「じゃあ、まずはき身の安全を確保したいから街のほうに送ることにするね」
「本当?助かるよ」
送る、といいながらシュティーナはもっていたリュックから青いビー玉のようなものを取り出し、詠唱のような言葉言い始めた。
「我、時空すらも超えた転送を願う。向かうはルセムンブルグ。ルセムンブルグ」
言葉の後に、ビー玉を口に入れ、バキリと噛み砕いてしまった。
刹那-、光に包まれる。
眩しさが収まり、目を開くとそこは街の中。
レンガ造りに酷似した建物がズラリと並び、往来を歩く人々を取り囲んでいた。
「君ってなんの職業なの?教えて欲しいな」
「実は・・・職業とかそういうの、僕にはないんだよね・・・」
目線を泳がせながら答えると、シュティールが少しだけ笑いながら、
「なら、ギルドに行こうよ。なんでもいいから職業を身につけていたほうがなにかと普段の生活でも楽になれるよ?」
職業取得。RPGとかで言えば舞踏家とか魔法使いだとかのあれを自分が取得する。
ゲーム好きだったミズキはギルドなどのフレーズで興奮してしまい、二つ返事でギルドに向かっていった。
「職業取得ですか。ではギルドカードをお見せください」
そんなもの持っていない。聞くところによると、職業取得以外にもギルドに送られてくるクエストを受注するためにもギルドカードを持っていないと受注することができないという。ギルドカードは国から国移動するときの通行証や住民票などの役割も果たしているらしい。
説明を聞く限りギルドカードの所持は基本的に必須で、なくしてしまったという理由ででもギルドカードの新規作成はできるようだ。
しかし、ギルドカードをつくらずに一生を終える人も少なくはないらしい。
「じゃ、ギルドカードの作成をお願いします」
「わかりました、ではあなたのお名前を登録いたしますので、虚偽の内容にお願い致します」
「ミズキです」
「わかりました、ミズキ様ですね。登録いたします。尚、ギルドカードにはあなたさまのレベル、及びステータスの値も記載されますので、ご留意のほどよろしくお願い致します」
数秒後には、発行されたばかりであろうギルドカードが受付窓口の机の上においてあった。
「そちらがあなた様のギルドカードです。お受け取りください」
「あ、どうも・・・」
ギルドカードを手に取り、まずはステータスを見ることにする。
「ミズキ様は・・・敏捷と幸運のステータスが非常に高いですね・・・オススメの職業としては盗賊、エアリアルライダー、ガンナーとありますが・・・いかがいたしましょう」
「じゃあエアリアルライダーで」
「わかりました、では今この瞬間を持って、あなた様の職業をエアリアルライダーとさせていただきます」
その職業の内容も聞かずに聞こえのよさだけで選んでしまったが、名前が名前だしきっとかっこよくて強い職業のはずと思った。
とりあえずのレベルで職業を選び、冒険者としてのスタート地点に着いたミズキ。
ここから僕の冒険が始まるんだ、そう思いつつ、今夜の宿とこれからの当面の目標を決めることを忘れてしまっていた・・・
異世界を救うという女神様の言葉の意味を考えながら、シュティーナに別れを告げるのであった。