05.えっ、あの子が!? 追い出されっ子が見つけた真犯人
2年3組に異変が起きて2度目の週末、大きな変化はなかった。
18日の昼休み。鮎川達が教室にいると、明神が廊下からこちらを見ていた。
「何だよ……またいちゃもん付けに来たのか?」
灯樹が顔をしかめた。
「いっ、いや。その……俺、あっち追い出されてさ」
「追い出された? お前が?」
灯樹は信じられないようだ。鮎川もそう思っていたし、恐らくここにいる全員が同じ疑問を抱いているだろう。明神は史衣那の幼馴染でお気に入りなのだから。
「あぁ……その、例のあれ、やっぱりお前らじゃない気がして、休みん時にちょっと探ったんだ。したら、本当にやったやつ分かって、でも史衣那達は聞いてくんなくて、変な事ばっかり言うのはいらないって」
「今更かよ……で、こっち来た訳か」
明神が頷いた。
「分かったならいいんだ。ほら、入れよ」
灯樹が明神を迎え入れた。そのおかげか、明神は先週までの事が嘘のように打ち解けた。
5時間目。今回は明神も一緒に副担任の授業を抜け出し、新橋が持っていた鍵を使ってアマチュア無線部の部室に忍び込んだ。
「すっげー!!」
男子達は普段お目にかかれない機械に興味津々で、新橋も得意気に熱く語っている。その様子を、頬を赤らめて見つめていたのは恵野だった。
「恵野ー?」
鮎川は恵野の様子を伺った。
「えっ!? どうしたの?」
「顔真っ赤だよー」
「嘘っ!? やだぁ」
恵野は恥ずかしそうだ。その時、部室の外から女の人の声がかすかに聞こえた。
「皆どこなのー? いい加減にしてよーっ」
今度ははっきりとしていた。副担任だ。
「こっち来そうだ!」
新橋が手早く施錠した。教室のドアを叩いて回る音と、今にも泣き出しそうな声が段々近づいて来たので、鮎川達は息を潜めた。
「いるんでしょう!?」
副担任はドアノブを回りたり、体当たりをしたりしている。
「もう放っとこうよー」
この宥める声の主は史衣那だ。
「……そうね。出て来そうにないもの」
二人の足音が遠ざかっていく。
「鍵締めて正解だったな。瑞斗やるじゃん……な、漣歌ちゃん」
「うん! そうだよー。瑞斗君ナイスぅ」
海主と恵野が一緒に新橋を褒めている。
「新橋、いい判断だったね……でさ、明神」
尾崎が話の流れを変えた。
「ん?」
「昼にさ、例のあれやったの分かった、って言ってたよね?」
「あぁ、言った。こいつだよ」
明神はスマートフォンを皆に見せた。それには、黒いミディアムヘアの女の子が史衣那のロッカーにゴミを詰め込む様子がはっきりと写っていた。
「なぎさちゃんだ!!」
恵野が声を上げた。
「なぎさ……あっ、川浜さん!? 本当だ」
「間違いねぇ!」
新橋と海主もなぎさを知っているらしい。
「川浜なぎさ、ねぇ……こいつ何もん?」
「うちらと同じ中学なの! 6組で卓球部。明るくてケロッとしてる子だよ……こんな事するような子じゃなかったはず」
恵野が明神や他の皆になぎさの事を説明した。
「つかよぉ、決定的証拠あんのにシーナ達何で信じねぇの?」
「多分……あの子頑固すぎるからさ、1度言った事は無茶言ってでも通すんだと思う。どんだけ不利になっても折れたとこ見た事ねぇもん」
「えぇー! つ、強え」
海主は明神から史衣那の頑固っぷりを聞いてたまげた。大事な話が一通り終わった所で、6時間目の体育に備え部室を出た。
「こんなとこ、さっさと離れよっ!」
「だね! 部活部活!」
「部活ないのうちだけー?」
「うちも休みー」
「やった! 遊ぼう!」
放課後すぐ、史衣那とその友人達が教室から出て行った。
「頑固すぎ、ってレベルじゃねぇわ……あの人達だけ別世界だ」
史衣那らの会話を聞いて、海主が呆れていた。
「まぁ、そんな事より川浜ちゃんに白状してもらわねぇと」
「それならうちも行く!」
海主が荷物を置いたままその場を離れようとすると、恵野も彼に続いた。
「恵野はいいよ、部活あるでしょ。ここはあたしら暇人に任せて」
「尾崎ちゃん……うん、分かった。お願い」
「あいよっ」
恵野に代わり、尾崎が海主と共になぎさの元に向かって行った。
「尾崎ちゃんがぬっしー好きなの知ってたけど、前はあんなにガツガツしてなかったよ? どうしたんだろ」
「自分に自信持てたんじゃない?」
鮎川が恵野に教えた。先週、尾崎に言った事が効いたな……と思いながら。
「そっかぁ、良いね。後はぬっしーが振り向いてあげれば、なんだけどな」
「ぬっしー、恵野にデレデレだもんね」
「本当。嬉しいけど、参っちゃうんだよね……うちは瑞斗君が好きだから」
恵野が鮎川に耳打ちした。
「あ、どうりで……分かった分かった」
「どうした恵野!」
流留が冷やかしに来た。
「だーめっ! あたし達の秘密ぅ」
鮎川と恵野はぶりっ子の真似をした。
「そっ、そんなに可愛く言うならしょうがないなぁ……聞かないでおくわ」
流留はニヤついていた。お喋りはここまでにして、鮎川達も各自部活に移った。帰宅部の明神はなぎさを探しに行った。
鮎川は南境ら2年生の空手部員に3組であった事を伝えた。その後、なぎさに関して大きな動きがあったのは、皆が家に帰ろうとしている頃だった。