第1話 撃沈
「鮎川ぁーっ!!」
2013年3月5日の朝、昇降口に明依亜と芽李の怒号が放たれた。
「なっ、なにさ!?」
「あゆさんじゃないよぉ」
史衣、明神と摩麗の登場で話が勝手に進む。
耳を傾けた所、史衣のブランケットがなくなっていたらしく、鮎川の他にも体育会系グループ全員を疑っていたが「陸部のとこ」で見つかった事で犯人は流留だと断定したそうだ。
「——じゃ、流留詰めっか。鮎川ごめ〜ん!」
明依亜が走り去った。この後、流留が否認した事で彼女と同じ陸上競技部のありす、史衣らを嫌っている女子3人、流留と特に親しい双葉や伊吹、鮎川にも再び懐疑的な眼差しが向けられた。
次の日。鮎川が教室に足を踏み入れると、体育会系グループとチームしいきゃらが睨み合っていた。
「今度はどうした!?」
「あゆさん、あのね」
「聞いてよあゆさん!! 史衣達さぁ——」
流留を差し置いて大平とその同郷の2人が言うには、教卓に流留のジャージと『チームしいきゃらが捨ててました』と書かれたノートの切れ端が置かれていたようだ。
「——なのに、やってないって言うんだよ!?」
「大平、もういいって」
「良くないっ!!」
大平達は興奮したままだが、流留はチームしいきゃらの仕業であるとみんなが分かれば大丈夫だそうだ。
「……もう嫌」
そう呟いて席を離れたのは、いつも1人で居る湊だった。続いてクラス委員の灯華も立ち上がる。
「もう分かったから散って……鮎川さんも座りなよ」
「お、おう」
鮎川は席に着いた。湊は始業後早退したらしく、翌日も学校に来なかった。
「あゆさん!」
明くる日の朝、鮎川は青ざめた顔をした双葉に呼び止められた。
「流留のメール見た!?」
「メール? ……え」
鮎川からも血の気が引いた。流留らしきアドレスから、
『部室の前にしいの膝掛け投げたの、あんた達の誰かでしょ? あんた達のせいで疑われたんだけど』
というメールが届いていた。一斉送信先は鮎川と双葉、内田、大平、ありす、新堤、伊吹になっている。
「あっ、ちょっ、流留」
「和希!! お前、志栄達疑ってんのか!?」
大森が鮎川の声をかき消した。その間に流留は黙ったまま自分の席に腰を下ろす。
「え、なに? 俺は誰も」
「だったらなんだよ、これ!!」
大森が和希にスマートフォンを突き付けた。
「俺のメアド? いや、でも」
「だからぁ!! 送ってないってばぁ!!」
今度は彩加が史衣になんらかの無実を訴えるが、完全に無視されていた。混沌とした中、予鈴が鳴る。
11日の昼休みまでには〝元〟二大派閥になにが起きていたのかが把握出来た。
流留と和希に加え、彩加と史衣もメールで仲間割れをさせていたらしく、友人のほとんどが彼女達から離れた。鮎川と双葉もその一部である。
「——てか、和希君って謹慎だってね! そこ停学じゃないんだ〜」
「それ言っちゃあ流留としいとあやきゃらもじゃね?」
鮎川は双葉に同調した。
「確かに! あ、でも、あやきゃら読モ休ませられてるよ。SNSに載ってた」
「ほーん」
相槌を打ちながら横目で彩加の席を見やると、彼女の姿はなかった。流留は陸上競技の雑誌に夢中で、史衣には明神、明依亜と芽李が寄り添っている。
放課後、鮎川は空手着姿で廊下を歩いていた。
(居た居た)
同じ空手道部の南境は、2年4組の教室で狐崎に捕まっていた。彼のお喋りが長い事は、双葉が時々ぼやいていたので知っている。
(しゃーないな)
鮎川はその場で南境を待つ事にした。そうしている間にチャイムが鳴り、1組の生徒達が教室から出てきた。
その1組と思しき女子2人が鮎川の近くで足を止め、小声で話していた時だった。
「なんなんだよ……人の命はおもちゃじゃねぇんだぞ、分かんねぇのかよ?」
南境の声だ。彼女によると、誰かが流留と史衣を自殺させようとしているらしい。
「マジな話なら、そいつシメねぇと……奇数クラスおかしくなってんのも、そいつだったりしてな」
「南境っ!!」
考える間もなく、鮎川は南境に駆け寄った。女子2人も付いてくる。
「3組あんなんなったの、誰かがやったって!?」
鮎川は南境に問うた。恐らく1組の、三つ編みの女子も「カイちゃん」の事を尋ねていた。
「……あぁ。祖志継家とかいう、大バカ野郎の仕業かもしれねぇんだ。そこんとこ詳しい奴らは頼れねぇから……なぁ、みんな!」
南境が鮎川も見知った顔——元1年3組の蛇田と汐里、中埣、埣寺とその友人、狐崎らサッカー部員を見回した。
「今、浦見台で起こってる事、浦見台生で解決しよう」
「おう!!」
鮎川も、中埣達と口を揃えた。




