01.誰も信じてくれないの……無実なあたし達
2013年3月6日朝、鮎川はいつものように学校に来ていた。2日前に同級生を事故で亡くした進学コースの生徒が暗い顔で登校している事以外、変わった様子はない。
(ほんと気の毒だよなぁ……具合悪くてふらついて、川に落ちたなんて)
事故については、昨日朝のSHRでそう聞いていた。先生曰く、進学コース生は当日、8校時の後に言われたとか。
(でも、あたしらにはあんま関係ないんだよな……進学コースって、同じ学年なのに色々違いすぎて絡まないし)
こうして今日も普段通りの1日が始まろうとしていた。
「鮎川ぁ」
昇降口で同級生に声をかけられた。相手は指定外のニットやソックスがトレードマークの、おしゃれ系グループの下っ端だった。
「何ー?」
「お前さぁ、今来たの?」
「そうだけど?」
「まじかぁ。じゃ、昨日?」
「何が?」
「……これ! シーナの! 見覚えあるっしょ!?」
同級生は鮎川にノートを突きつけた。いじめを題材にしたマンガやドラマに出てきそうな、ボロボロで罵詈雑言だらけの代物だった。
「は? 何これ? 訳分かんないし」
「もうお前しかやりそうなのいねぇんだよ! お前の友達皆違うっつってたし!!」
「は? あたしもやってないし!」
分かってもらえそうもないのに無駄な反論しかできない。
「今度はあゆさんかよ!!」
「流留! 双葉も」
向こうから鮎川の友人二人が駆けつけた。
「さっき言ったろ!? あたしらも、他の運動部の連中もそんな事してねぇって! 話聞いてねぇだろ、てめぇ!!」
「うっせぇ!! どいつもこいつもしらばっくれやがって!!」
流留と同級生の言い争いが始まった。他の生徒達が迷惑そうに横を通っていく。
「あゆさん、今のうちに行こ? 皆集まってるから」
双葉が鮎川を教室とは別方向に案内した。その先には鮎川達がつるんでいる、クラスの体育会系グループがたむろっていた。
「あゆさん朝からご苦労さんですー」
「おーう……で、さっきのは何なんだか。シーナのノートがグチャグチャだったけど」
「そう! それね――」
双葉が鮎川に事情を説明した。
今朝、おしゃれ系グループのボス格である史衣那のノートなど、私物数点が何者かに壊されていたのが見つかり、誰が言ったか定かではないが、体育会系グループの誰かがやったという目撃情報があったらしい。
「そう言われても……皆、やった覚えないもんね? あたしも当然違うし」
「けどあっちは完全にこっちを疑ってる。何言っても駄目なの」
「そっかぁ」
鮎川は溜息をついた。それから10分くらい経った頃チャイムが鳴り、鮎川達は重い足取りで2年3組に向かった。
教室に入ると、中にいた生徒ほぼ全員がこちらを睨んだ。
(うわぁ……皆、あたしらが犯人って思ってんだろうなぁ)
「結局誰なんだろうねー!?」
「鮎川か双葉が怪しいよねー! 流留にいつもついてんじゃん!」
おしゃれ系グループの女子が聞えよがしに喋っている。
「お前らどうした? 朝から騒がしいぞー?」
「先生!」
「先生、先生! ちょっと聞いて下さいよぉー!」
後から入って来た担任に弁解しようとした瞬間、女子達に先を越されてしまった。
「よし、分かった。とにかく、全員席に着け」
「はーい!」
鮎川達も各自席に座った。事実確認の後、物的証拠と目撃情報から体育会系グループの仕業であるとして話が進められた。
「とにかく、やった覚えのあるやつは名乗り出る事! 隠れてるなんて、卑怯だぞ。分かったか!」
「……はい」
もう弁解しようがない。鮎川達はおとなしく返事した。
この後普段通りに授業が始まったが、体育会系グループを排除する動きも出てきた。おしゃれ系グループはもちろん、クラスの2大勢力に関わらない生徒達も鮎川達を腫れ物に触れるように扱ってきた。いつの間にか事情を知っていた副担任もまた然り。
翌日も同じ状態が続いた。クラスにいづらくなった体育会系グループは昼休み、学食に集まった。
「誰も分かってくんないねぇ……」
「本当……あー、逆にこっちがいじめられてんわぁ」
「だよねぇ……」
鮎川、流留、双葉はもちろん、他のメンバーも完全に参っていた。
「ほとぼりが冷めるまで、あとちょっとでクラス替えだし、それまでの辛抱かぁ……たぶん無理」
「無理ー」
「無理だー」
流留が良い事を言いかけたが、結局弱音を吐いてしまった。鮎川達もそれに続いた。
こうして3組にも重々しい物がのし掛かった。特に、体育会系グループに対して。