女王の選択
しかし、とうとう雪がやむ日がきました。
王様の使者が、村へやってきました。冬の女王は北の果てにいると、かつて若者が言ったからです。冬の女王にふさわしいと思われる何人かの娘たちもいっしょでした。どれもみな、美しい娘ばかりでした。
王様の使者は、薄汚れた外套を着た娘を見て、顔をしかめました。娘は立ち去ろうとしましたが、腕をつかんだ若者の冷たい指が、それを許しませんでした。
王様の使者はたずねました。
「冬の女王はこの中にいるか?」
若者は答えました。
「いいえ、私にはわかりません」
「だが、女王は選ばれなければならぬ」
日の光の中で、村の広場はどこか知らない場所のように見えました。若者の横顔にも影ができていて、だれか知らない人のように見えました。
王様の使者はたずねます。
「冬とはどんなものであるか、ふさわしい答えを述べよ」と。
娘たちはひとりずつ、答えを言っていきました。
若者は、だまって首をふりました。
残ったのは、とうとう娘と、もうひとり、見知らぬ娘だけになりました。
もうひとりの娘は、雪のような肌に、冬の夜空のような髪の持ち主でした。娘は自分のあかぎれだらけの手をかくそうとしましたが、うまくいきませんでした。
王様の使者はたずねます。
「冬とはどんなものであるか、ふさわしい答えを述べよ」と。
もうひとりの娘は答えました。降りしきる雪について、枯れた木々の間を吹きすさぶ風について、だれにでも平等に訪れすべてを凍らせる冬について。
ゆきに こおりに ふくかぜに
娘も同じように答えようとしました。でも、口から出たのは、外から帰ったときに頬に当てられた若者の手があたたかかったことと、暖炉の前で体を寄せ合ったときに、おたがいの瞳にうつった炎が輝いていたことでした。
王様の使者は若者にたずねました。
「どちらが女王か」と。
若者は、のろのろともうひとりの娘に近づきました。娘は古ぼけた外套の間から、寒さが忍びこむのを感じました。
しかし、若者がもうひとりの娘の足下にひざまずいたときです。若者の姿は一頭の鹿へ変わってしまいました。
若者はまちがえたのです。若者は自分の冬を見つけ出さなければならなかったのでした。
新しい女王は、瞳に冷たい炎を燃やして、堂々と立っておりました。その姿は、孤独な冬にふさわしいものでした。彼女の治める季節は、きっと、だれにとっても冷たく厳しいものとなるでしょう。
「冬の女王の誕生だ」
暗くなりゆく空を背景に、王様の使者は高らかに宣言しました。
娘は、まだあたたかい若者の体をだきしめました。
季節はめぐります。ふたりの上に、この冬最後の雪が降りはじめました。