人魚の涙~A mermaid's tear
人魚の涙は真珠となる。
人魚はすべての涙が流れたら…
泡となって消えてしまう。
泡となった人魚は記憶から消えてしまう…
家族・恋人・友人…すべての記憶から消える。
泡となった人魚は海を永遠に彷徨う…
どうして人魚は泣くのだろうか…
人魚は大切な人がもうすぐ死んでしまう…
そう言って泣いている。
大切な人…陸に住む者…
人魚は海に住む者…
陸に住む者とは決して交わらぬ運命…
人魚は遠い昔…恋をした…
決してしてはならぬ恋だった。
人魚は人間に…
人間は人魚に…恋をした。
別の世界に住む者同士…
誰がこの恋を許せるだろうか?
束の間の幸せ…すぐに別れの時はやってくる…
二人は引き離され…互いの世界へ帰って行った。
人魚はこの恋が忘れられず…陸を見ていた…
人間はこの恋が忘れられなかった…海を眺めていた…
だが、人魚と人間は流れる時間が違った…
人間の長い時間…人魚にはほんの一瞬…
すべてが違う人魚と人間…
人間は長い月日の間で結婚をした。
そして今、息絶えようとしている…
人魚は人間の死に涙を流している。
人魚は涙を流したら泡となる…
そう知っていながら涙を流した。
大切な人のために…
この涙があの人を救ってくれるなら…
そう思いながら…
人間はずっと後悔していた。
人魚を傷つけたことを…離れたことを…
あの時、人魚を選んであげられなかったことを…
人魚を幸せに出来なかったことを…
人魚のことを忘れたことは一度もなかった。
人魚の涙はすべての万病から救う…
人魚の涙が人間の元に届けられた。
しかし、人間は使おうとしなかった。
人魚を傷つけた罰なのだから…自分は助かる意味などないのだと…
人魚のことを胸に抱いたまま…人間は死んだ…
人魚は人間の死を知らない…
ずっと涙を流し続けていた。
話をすべて終えると人魚の涙が止んだ…
人魚は海を彷徨いながら…再び人間と会える日を待っている…
そう言うと…泡と消えた…
泡となった人魚はすべての記憶から消える。
人魚は命をかけた恋をした…
自分が死ぬと分かっていて涙を流し続けた…
海に住む者と…
陸に住む者との恋は海の記憶には残らない…
だが、言い伝えとして残るだろう。
陸に住む者の記憶には残るのだから…