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金子平八郎の奇事語  作者: 難波 玄悟郎
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殺人事件

 1月21日

 少し雪は降っていたが、とてもよく晴れていた日の出来事だ。

 T高校校舎外で遺体が見つかった。

 名前は久保田(クボタ) 康久(ヤスヒサ)。学年は2。性別は男。彼はヤンキー(タチの悪い)として学校では有名だった。髪は染めてはいないが坊主。両耳にピアスをあけ、授業はときどきサボっていた。煙草を吸っていたことも過去にはあったらしい。そんな彼が遺体として見つかった。

 飛び降り自殺かと思ったが、サブタイトルで言ったとおり後に他殺だとわかった。胸部にナイフで刺されたような跡があった。

 しかし、おかしな点がある。遺体があった場所は、校舎のすぐそば。まるで飛び降りたようにすぐそばにあった。しかし、死亡時刻は11時26分。遺体発見時刻が15時5分。すぐそばにあるはずの遺体が発見されるのに時間が空きすぎているのだ。この学校の生徒に聞いたが、誰も康久が刺されたような様子は見ていないと言う。

 死体周辺に足跡もなかった。まるで急に死体が表れたようだ。少し雪は降っていたから足跡は消えるのではと思うが、3時間でドサッと積もるほどではなかった。5cm積もったか程である。その程度なら、足跡は残る。

 

 第一発見者の証言は、少し盛り上がった雪山に赤いインクのようなものが染みついていたので、最初は誰かのいたずらかと思ったんですけど、よくよく見たら雪の下に人がいて…だそうだ。

 確認のため、屋上に足をいれた。最近の学校は屋上は施錠されているらしい。この学校もそうだった。なら見に行かなくてもいいと思ったが、上司が念のためとうるさかった。

 結果は歴然、屋上には誰も立ち入らなかったかのように、足跡のない少し積もった雪がそこにはあった。

「しかしすごいですね。フェンスがない屋上なんて始めてみましたよ」

「なんでも、施錠し始めたのはこの学校建ててからだそうだぞ。施錠するなら誰も立ち入らないだろうからフェンスを建てるだけ金の無駄なんだと」

上司とそんな話をした。

「でも、こんな厄介な事件が世の中にあるんですねぇ。こんな事件、俺始めてですよ」

あの時の俺は警察官らしからぬ態度をとっていた。少しウキウキしていた。半笑いだった。だからだろうか、バチが当たったかのようになったのは。

「ああ、俺も始めてだよ」

「高校で殺人だなんて、世の中も物騒になりましたね」

「はっ、高校での殺人なんか何件も遭ってきたわ。ただ高校側が、うちの評判が下がるって言って世間に報道しないだけさ。さ、片っ端から調べるぞ」



 康久関係で不登校になったのは2名。たまに学校に来る者は6名。いじめの被害にあったのは、不登校になった人、たまに来る者に他4名を加えた計12名。

 今日はたまに学校に来る者もいじめの被害にあっている者全員登校していて、康久が死亡した時間帯は全員授業を受けていたそうだ。その人達全員登校していることは珍しいことではない。ぼちぼちあるそうだ。

 念のため、全校生徒のアリバイを調べた。康久が死亡した時間と10分前後は、出席した皆授業を受けていた。

 街の人にも聞いた。が、どの人も口を揃えて怪しい人は見なかったと言うのだ。

 こうなれば事件は難解となった。ふりだしに戻った。

 康久がどういう人物だったかもう少し探るため、不登校になった2人にも話を聞くことにした。だが、これで事件が解決した。ふりだしがゴールだったかのように、戻ることが解決への近道だった。

 1人目、樋口ヒグチ) ハジメ)宅に行った。インターホンを鳴らし、少しの沈黙のあと当の本人が出てきた。

「警察のものですが」

そう言って手帳を見せる。

 我々を警察と理解した彼は、少しうつむいた後、

「すみません、僕がやりました」

と、どんよりしたトーンでギリギリ聞き取れる声量でそう言った。

 いきなり彼がそんなことを言うものだから、こちらも驚いた。きっと、いきなり警察が訪れたものだから驚いたのだろう、無理はない。詳しい話は中で聞くことにした。が、彼は焦ってそう言ったわけではなかった。彼がどのようにして殺したのか、また、そのために使用したナイフも持ち出して見せてくれた。

 もはや反論できなかった。こうなると彼が犯人でないと決めるのは難しくなった。

 誰かに言わせているのかと聞いてもそんな人はいないと答えた。

 



 彼のトリックはこうだ。

 以前から康久からいじめを受けていたことに気づいていた先生は、不登校になる前に、屋上の鍵を渡していた。それを利用した。

 屋上に康久を呼び出し、康久を殺した後、康久を落とした後、屋上に積もった雪を全て落とした。これで、足跡も消え、雪を後に落としたことで康久を雪の下に隠すことができた。

 屋上から落としても誰かが気づくと思うが、「今日は」運が良く誰も気づかなかった。なぜなら、その日は日差しが強かったのだ。雪国にお住まいの人ならわかると思うが、積雪日はとても眩しく感じるのだ。故に、どの教室もカーテンを閉めていて、誰も気づかなかった。

 影で気づきそうだか、これも雪国にお住まいの人(関わらず)ならわかると思うが、人影と似ている「落雪」と勘違いしたのだ。

 これで死体が発見する時間がズレた理由もわかった。


「だがしかし、なぜ康久くんを今時期に殺したのかな?学校に行かなくなったのは夏からだと聞いてるんだが、それまでも…俺が言うのもおかしいんだが、チャンスはいくらでもあっただろう」

署で一と上司が取調室で話をしていた。

「僕は彼からいじめを受けていました」

「ああ、知っている」

「この時期に屋上から落とそうとは前々から考えていました」

「ほう」

「足跡を消すためもありましたが、一応彼も人間ではあるので、落としたらまた痛みを与えると思って。殺した人にさらに痛みを与えるのもどうかと思って、クッションとなる雪の積もるこの時期に行いました」

「…」


 その後、彼がどうなったかはあえて話さないこととする。

 しかし、彼が取調室で発言したその台詞は、どこか胸がぐっと落ちるような気がした。



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