廃墟の肝試し
友人二人とともに肝試しをすることになった。場所は閉院した病院だ。地下には検死する場所もあったらしい。
その話が恐怖を生み出すのだろうか。周囲の住民が白い人影を見たとか、女性の悲鳴を聞いたとか、そんな心霊体験の話題は尽きなかった。
とはいえ、幽霊など信じない俺だ。友人も、怖いもの見たさで誘ってきたらしい。手にはビデオカメラを持って準備万端だ。
ただ、もうひとりの友人が俺たちの中で一番図体がでかく、格闘技も習っているというのに、こわがりときていた。
「俺、真ん中」
こわいなら誘われてもこなければいいのに。
そう思うのだが、どうやら妹に「行ってきなよ。男ならさ」と言われ、変なプライドが働いたらしい。
友人の妹は奥にある霊安室も見ているというので、尚更だろう。
「くっつくなよ。お前の情けない姿も撮るぞ」
「いや、だって……子供の泣き声が聞こえないか?」
「お前、本当にこわがりだな。なにも聞こえないぞ。こわいと思うから聞こえるんだよ」
確かに、耳を澄ましても子供の泣き声は聞こえない。
「俺も聞こえないよ。とにかくきたんだから、奥に進もうか」
友人と俺の二人で諭すと奥へと進んでいく。月光だろうか。淡い光が突き当たりにある鏡を照らしていた。
それを見て、こわがりの友人が「ひっ!」と声をあげる。
鏡にうつっている自分の姿に驚くとは、もはやこわがりの度を越えている。
「おい、まじで帰れって。顔面蒼白だぞ」
苛立ったのか友人が怒りはじめる。しかし、首を横に振って帰ろうとしない。
「ここまできたら、もう戻れないよ。霊安室まで行かないと……」
そんな意味のわからないことを言いはじめた。
「じゃあ、さっさと霊安室に行って帰ろうか。ビデオカメラに何が映っているのか、じっくり確認したいというのもあるし」
「仕方ないな」
俺の意見で霊安室にそのまま向かうことになった。北側の地下にあるとは聞いていたので、進路を変える。北側というのもあってか、冷たい空気が流れていた。いや、こわいという気持ちが、そう錯覚させているのか。
階段をおりながら、呼吸が苦しくなっていくのを感じる。ビデオカメラを持っている友人はどうなのだろうか。
「お前の妹、すごいな。俺、すこしこわくなってきた。誰と来たんだよ? 男友達か?」
そう思っていると、真ん中にいるこわがりの友人に話しかけていた。どうやら、嫌な雰囲気を感じ取っているのは俺だけではないらしい。
「三か月前に、ひとりで。四十九日は経過しているから、今の状態はまずいかも」
「なにを言ってるんだ? 訳わかんねーよ」
苛立った友人が言った時だった。こわがっていた友人が懐から一枚の紙を取り出して、何やら唱える。そして、その紙を霊安室の奥の壁に貼りつけた。
その瞬間、子供の声や老人の声、女性の声と聞こえはじめる。俺と友人がこわくなって抱き合っている中、札を貼りつけた友人は直立不動のまま動かない。
声が聞こえはじめて数十分。いや、実際は数分だろう。先程の体験が嘘のように、声は消えて、霊安室にあった重苦しい空気も消え去っていた。
すると、直立不動と思っていた友人は、腰が抜けたように座りこんだ。
「こわかったよ。妹が俺に除霊を頼むから……除霊師なんて継がないし、霊は嫌いだって言っているのに。俺は実体のあるものしか信じたくないんだよ。だから、格闘技をやっているんだって」
唖然とする俺たちを見て、奴は目を丸くしていった。
「あれ、言ってなかったか。俺に霊感あるの。子供のこっちに来てという泣き声を聞いた時には肝を冷やしたよ。今日は新月なのに月のようなものまで出ていたし。そうだ、二人のドッペルゲンガーがいたんだけど、どうしようか」
ドッペルゲンガーって確か、死期がちかい人が見るって話じゃなかったか。
そして、こいつが除霊師を継ぐって?
先程までの立場が逆転したというのも構わず、俺と友人は「どうにかしてくれ」と、怖がっていた友人に縋りついていた。




