メイドロボット
そこに光があるというのなら、天井から吊るされたオレンジ色の電球だけだ。
あるひとりの科学者が自宅の地下室で、人類史上初となる発明品を完成させた。
「出来たぞ。これこそが人工知能を持ち、最高の容姿体型を持つメイドロボットだ!」
皮膚も人間のものと違いがわからない人工シリコン。繊細な指の動きも人間と相違ない。
「さて、では次の設定だ。人工知能に命令を組みこまなくてはな」
科学者は一枚の紙を取り出した。ロボットの人工知能に組みこむ命令一覧だ。ロボット三原則が有名だが、更に細かい設定もしなくてはならない。
「まずこれだな。主の命令は絶対であり、第三者の命令を聞いてはならない」
あいつを殺せ、とロボットに命令されて殺されたらかなわない。
「いや、待てよ。私が痴呆になったらどうする。命令ができんじゃないか」
科学者は『身の回りの世話をする』という項目を加えて、優先順の一番にした。
「いや、待てよ。身の回りの世話の最中に充電が切れたらどうする。こんな重い物持ち運べんぞ」
メイドロボの重量は二百キロある。年寄りではとても持ちあげられない重さだ。
科学者は『充電が切れる前に自分自身で電力を補うこと』という項目を更に一番上の優先順にした。
――これで完璧だ。そう安心した科学者だったが、またひとつの不安要素が浮かんだ。
「いや、この命令設定機を誰かに操作されたら意味がない。体内の深部に入れなくてはな」
かくして、科学者は全ての作業を終えると、メイドロボに充電して起動させた。
「おはようございます。ご主人さま……」
起動したメイドロボの動きは、科学者が求めていたもの。いや、それ以上のものだった。
料理をつくる出際は良く、掃除も隅から隅まで奇麗にし、乾いていた洗濯物を取り込むと、しっかりと畳んで、入っていた場所にしまう。
全てが順調だ。しかし、慎重すぎる頭脳が過ちを招いた。
「ご主人さま。トイレットペーパーをお持ちしました。お尻をお拭きいたします」
科学者が「遠慮するよ」といってもメイドロボはやめない。優先順位が『身の回りの世話をする』ほうが上だからだ。更に充電が切れるのを待とうとしても、優先順位通りにメイドロボは行動するので永久に動く。
それならばと、命令設定機を取りはずそうと思っても深部だ。
場所は充電装置の奥。はずす前に、異常を感じたメイドロボは立ちあがって科学者を振り払い、充電をはじめてしまう。
「これは落ち度だ。そう、天才すぎるからこそのミスだー!」
どんなに叫んでも状況は変わらない。爆弾攻撃を受けても壊れないように設計したので、どうしようもない。
そして、今日もメイドロボはトイレに入るたびに尻を拭きにくるのだ。