ファンタジー王国の密室事件
魔法が存在するファンタジー王国で事件がおきた。
食事会に出てこない王を心配した大臣が王を呼びにいくと、王室のトビラが開かない。ノックをしても反応がない。
もしや、王の身に何かおきたのではないか。
慌てた大臣が鍵を持ってきて王室を開けると、そこには王が倒れていた。
医務室に運ぶも外傷がなく、回復魔法も効果がない。意識不明の状態で原因も全くわからなかった。
そこで、王が倒れた原因は病気ではなく、なんらかの外的要因があると考えられた。
となると、これは食事会の最中におきた密室事件だ。怪しい者がいなかったか、徹底的に調べられた。
まず、王の妻である若い王妃が捕えられた。
最近、王との不仲が囁かれており、王子に王位をはやく継がせるためにしたのではないかと憶測が出たのだ。
次に王妃に好意をもっていたという教会の牧師が容疑者にあがった。
深夜、城の周りで徘徊されている姿も目撃されており、それが街の者の記憶に残っていたのだ。
最後に、この国の悪の根源を滅ぼしにきたという謎の青年が捕えられた。
背には大剣を携え、街の者には王の周囲の噂をしきりに訊くという不可解な行動があった。
血塗れの大剣を持って森の獣を斬りつけていたという話もあり、戦闘が終わるたびに、何故か勝利のファンファーレが鳴り響いていたという。
自称勇者と名乗る正体不明の男。大臣はこの男が犯人ではないかと予測した。
三人を前にした大臣は、得意げな表情で推理をはじめる。
「王妃さまは外出しておられたのでアリバイがあります。犯人ではないでしょう」
「移動呪文やアイテムを使ったらわからないわ」
しかし、それは王妃の義理の妹が反論した。
「いや無理ですな。密室だったのですから、移動呪文を使ったら壁に衝突してしまいます」
大臣はすぐに答えた。この世界の移動呪文は飛翔の概念にちかい。壁をすり抜けるのは不可能なのだ。
皆が騒ぐ中で牧師が手をあげる。
「私は教会で務めを果たしていました。室内で本を読んでいたのです」
牧師が室内にいたという証言も出て、自称勇者の男の疑いが高まった。
更に周囲の者の情報から、男は鍵開けの魔法を習得しているとわかった。
兵士たち数人の手で男は投獄され、事件は万事解決したかと思われた。
ところが、投獄直後に男が脱走したという情報が入ったのだ。
男は鍵開けの魔法を使ったのである。更に移動呪文を使ってどこかに逃げたという。
犯人逃亡で終わってしまうのかと思いきや数日後、事件は急展開を迎えた。
「王は永遠に眠る呪いをかけられているそうです。この目覚めのエキスを飲めば、すぐに目を覚ますそうです」
王妃が興味深い情報を告げた。
毒なのではないかと推測が飛んだが、試飲した者に異常は見られなかったので王に飲ませるとすぐに起きあがった。
周囲から拍手喝采がおきる。
王妃は奔走し原因を解明したに違いない。誰もが王妃を疑ったことを恥じ、頭をさげた。
しかし、王妃は首を振り、原因を解明したのは自分ではないと語りはじめた。
「私ではありません。王を救ったのは犯人扱いされた勇者さまです。そして真犯人は――」
思いがけない王妃の言葉に、拍手をしていた者たちの手がとまる。
王妃が誰を指すのか、注目しているのだ。
「牧師です!」
人々がどよめいた。人を救う立場に身を置く牧師が王へ呪いをかけたとは信じられなかったのだ。
皆の視線が集中し、牧師は今にも卒倒しそうなほど顔面蒼白になりながら体を震わせた。
「誤解です。私は決してそのようなことは……」
「闇魔法に興味を持ち続け、本を取り寄せたことを隠せると思っているのですか?」
王妃に言い返された牧師が、懐からアイテムを取り出した。いつもの牧師の目ではない。
「ばれてしまっては仕方がない。しかし、私は捕まらないぞ。私はいずれこの呪いで世界を震撼させてやる」
移動呪文と同じ効果をもつアイテムである。真犯人を逃がすまいと兵士たちが牧師に躍りかかったが遅かった。
牧師の体が光に包まれる。上空高く跳びあがった牧師は勝ち誇った哄笑をあげた。
誰もが逃がしたと思ったが、城内に激突音が響き渡った。
ファンタジー王国での移動呪文は飛行の概念にちかい。壁をすり抜けられなかった牧師は天井に頭をぶつけたのだ。
憐れ。落下して気絶した牧師を兵士たちは引き摺っていった。
牧師は呪術の効果がなくなる独房に入れられることになり、この事件は幕を閉じた。
王は命があることに感謝し、今まで以上に国民のために奔走し、王妃や王子との家族の絆も深まったという。
今の国があるのは、王の呪いを解いてくれた自称勇者がいたからだ。
国中の皆が自称勇者の姿を探し求めたが、誰もその若者を見つけることはできなかった。
ただ、闇を愛するという魔王が住む山に、光が差しこんでいるのを見た者がいたという。




