王者2
人類が知り得ない未開の地に、世界中の動物たちが住むという原始林があった。
毎日恒例となった雑談会で、まず木上にいたカメレオンが発言した。
「俺はやっぱりこの中では一番遅いだろうな。きっと相手になりやしないよ」
カメレオンの話が終わると、隣にいたナマケモノがのんびりとした口調で続いた。
「ほんま? おではトイレに行くのも億劫なんだけど、動きとしてはどうだろーか。けど、人間がつけた名前がひどいと思わん? おでは生きることには『必死獣』だよ」
ナマケモノの親父ギャグに、他の動物たちから「むしろ生のケモノ!」「な負けモノでもないよな!」という声があがる。
すると、
「俺は、この場にいる全員が遅く見える」
動物たちだけでなく、原始林の木々が震えあがる、抑揚のない声が響いた。
皆の視線が向けられた先には、百戦錬磨の勇士である雄チーターがいた。
舌なめずりをしながら陽炎のように動いた彼に、全員が緊張して身構える。
「まあ、構えんなよ。ここで全員を標的にしようって訳じゃないさ。この俺にだって追いつけないものがある。それが人間だって言いたいんだ。人間を追って轢かれた仲間を見たことがある。奴らを追うのだけは遠慮したいね」
疾走の王チーターの話が終わると同時に、
「俺は人間が遅く見える。いや、ここにいる全員も遅く見えるね。俺たち一族は人間と、ずっと争ってきたんだ。俺が本気になれば思いっきり追い抜いてやるよ」
どこからか、男性の声が響いた。
自信ある発言に、動物たち全員が息を呑みながら声のしたほうを見る。しかし、姿がない。
「お……面白い! この俺と勝負しな!」
チーターも声を張りあげながら、尻尾の先を立てて必死の競争姿勢をとる。
「どこ見てんだ。とっくにお前の鼻の上にいるよ」
すると、姿のない声は思いがけない言葉を発して、チーターを笑った。
チーターは寄り目になりながら、鼻の頭を凝視する。鼻の上にいたのはハエだった。
「俺のスピードに驚いたか? どうだ。標的にすらできまい!」
小さいから見えなかったんだよ。と、チーターが突っこんで鼻の頭を叩こうとした途端、物凄い勢いで飛んできた何かが、ハエを攫っていった。
飛んできた何かが戻っていった軌道を追って皆が見る。
「……まずっ!」
自称、原生林のスピード王者を食したカメレオンが食事の感想を述べると、チーターは、
「一番はやいのって、君の舌なんじゃない」と、深い息を吐きながら言った。